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Vol.17 インターネットによる情報発信について

医療ガバナンス学会 (2011年1月24日 06:00)


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獨協医科大学神経内科
小鷹昌明
2011年1月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


年末から2回ほど、このMRICで情報を発信させていただいたところ(2010年12月21日Vol.384 朝日新聞「がんワクチン」報道をメディアの姿勢から考える:2011年1月5日 Vol.4 ひとりの勤務医から日本医師会へ)、意外にも、いくつかの反響をいただいた。
同僚からは、「先生、朝日新聞や日本医師会を相手に、あんなこと書いちゃって大丈夫ですか?」と尋ねられた。むろん、「よく考えて書いたものだから大丈夫 だよ」と答えたが、”インターネットによる情報発信”という手法については一考を要する。今後のこともあるので、私なりの考えを述べさせていただこうと思 う。

インターネットによる情報発信に関してのメリットといえば、言うまでもないことだが、「クイックリーでレスポンシブな環境」ということに集約される。タ イムリーに情報を届けることによって、即座に意見の交換ができる。一度に多くの閲覧者を募ることも可能であるし、情報の共有も幅広く行うことができる。一 方、デメリットとしては、顔の見えないコミュニケーションの弊害であるところの高圧的な批評である。
確かにインターネット上での書き込みは、他のメディアに比べて自分の意見を発することのハードルが格段に低く、また、対話する相手の生の感情を読み取る材料が少ないために、他人への配慮を欠くような言葉を発してしまう可能性がある。
そういうことを重々理解した上で情報発信を行わなければならないと、いま、私は痛切に感じている。

ただ、ネット上での言論というものは、いや、ネット上であるからこそ、言いたいことがあるのなら、ある程度好き勝手に自分の意見を述べた方がいい。なぜなら、少なくとも現時点では、もっとも忌憚なく意見を発信できる媒体だからである。
多くの人たちは、「万人に受け入れられる話がいつも正しいとは限らない」ということを頭では理解している。ときには、少数の意見が本質を突いている場合 がある。むしろ、本質を突くのは、いつの時代でも少数の異端者であることが多い。全員賛成の結論を得て、それで世の中が良くなるのなら、世の中はとっくに 良くなっている。
「与しにくい意見を発信する識者を捉えやすい」ということが、インターネットの最大のメリットではないかと考えている。

「医師は斯くあるべき」という、ひとつの虚像ができあがっている。確かに清貧や仁徳を重んじる職種だとは思う。しかし、いかなる時も「均一で、純粋で、平常であるべき」という思想は危険な予断を含んでいる。
私は、「ネットで持論を展開する自分」と「大学病院で診療に没頭する自分」がいて、適切に分離できる人格で構わないと思っている。もちろん、それ以外 に、「つまらないことを言って看護師さんから白い目で見られる自分」もいるし、「会議で空気の読めないことを発現して反感をかう自分」もいるし、「小鷹と いう医師はなかなか反骨精神があってよろしい、と言われる自分」もいる。
限定された場所で、断片化された性格を、便宜的に使用できる自分がいるから、節度を持って医療ができると考えている。「ある場面での自分」と「違う場面での自分」というものを上手に切り分けることによって無難に診療をこなしている。

人間は同じ質問をされても返答が常に一定とは限らない。
コミュニケーションを上手く行うためには、私たちは相手が変わる度に、声色や言葉使いやトーンや語彙を変える。そういう口述法は、医師であれば誰でも骨の髄まで染み込んでいる。
たとえば、教授から「小鷹先生は将来どうしたいのですか?」と尋ねられれば、「はい、大学と、そして神経内科のためにがんばります」と答えるが、後輩か らだったら、「いつか絶対、医者を辞めてゆっくり暮らしてやる」と答えるし、親からだったら、「今の忙しさで、そんなの判るかよ」と答える。どれも本当の ことである。しかし、自分の思っていることの切り出し方が違う。
上司には下手な査定を受けないように無難な答えで受け流すし、同僚には尊敬を得られるように眺望的なことを言うし、親にはオレの将来に対して下手に干渉してくるな、というメッセージを込めている。
これは、別に不思議なことではない。そういうものである。

だから、ネットで私の語る言説というのは、私のひとつのキャラに過ぎない。私のすべての思想を傾注して述べているわけではない。”ものを書くキャラの小 鷹”がものを書いているだけで、”小鷹の人格の一部”がものを書いている。他の方々も、そういう思考で自説を説いているのではないだろうか(違うのか な?)。「その代わり」と言っては何だが、私は匿名ではものを書かないし、これからも書くつもりはない。
これまで私は、主に書籍でしか意見を発信させてこなかったために、インターネットによる情報の授受に慣れていない。しかし、どのような媒体であろうと、”小鷹昌明”でものを書いても全然平気である。
だから、ブログやツイッターというものを利用して匿名で意見を発信させている人の言うことには、ほとんど耳(目)を貸さない。それは、「匿名でしか意見 を述べることのできない人の責任が乏しい」とかそういう理由ではなくて、「リアルでピュアな自分の存在を違う場所に担保しておきながら、別の自分によって 意見を発信したい」という、そういう夢幻的、妄想的な考えが不気味だからである。

さらに、インターネットで私が勝手なことを述べていられるのは、「私のこんな一言では医療は変わらない」ということが判っているからである。私の言っていることは一理あるかもしれないが、一理でしかないと思っている。もちろん、それで構わないと思っている。
医療者たちが快刀乱麻を断つような言論を展開し、弁舌が爽快なのは、医療に関しては、いま何を言っても誰からも効果的な反論がなされないからである。医療問題に関しては、やっと議論が始まったばかりのように思う。
一般的に議論の進め方の王道は、まず、「それではフロアの皆さん、自由闊達なご意見、コメントをお願いします...」から始まり、「それでは意見も出尽 くしたと思いますので...」とやるのが普通である。そこで、私のような意見に対して「やぁ、これは元気のいい意見が出ましたな」とスルーされてしまって も仕方がない。そうやって静かに処理していただいて結構である。礼儀正しい不干渉を保つことも重要である。
いま、やっと、そういう医療議論の時代が幕を開けたのではないかと思っている。

MRICでは、すべての人が実名で自分の意見を述べている(そういう規則だとは思うが)。”自由闊達な意見”とはこういうことを言うのであろうから、これからも皆さんで良い知恵を出し合ってガバナンス活動に従事できればいいのではないかと思う。
「鼻持ちならない」と思わずに、実名でのネット発信者に対してはもっと寛容に振る舞っていただきたい。”蟻の一穴”が効を奏するいつの日かを信じて。

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