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Vol.24034 奨学寄附金廃止とその他の助成金の特徴とは?

医療ガバナンス学会 (2024年2月20日 09:00)


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この記事は、2024年1月15日に医薬経済で発表された記事を改変したものです。

公益財団法人ときわ会常磐病院・医療ガバナンス研究所
尾崎章彦

2024年2月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「医薬経済」(2023年7月27日号)によると、24年度以降に奨学寄附金を継続する大手製薬企業は、中外製薬のみになるという。例えば、23年度まで奨学寄附金を支出していた大塚製薬は、「近年の環境変化」を踏まえ、24年度には奨学寄附金を中止する。
製薬企業と医療界の間でカネの流れが健全化しつつあるのは歓迎すべき流れだ。一方で、奨学寄附金は、大学医局にとって貴重な財源だったことも事実である。その廃止は多くの医局にとって痛手であることは間違いない。

その文脈で、製薬企業が、奨学寄附金以外にどのような助成金の仕組みを持っているか確認しておくことは重要だろう。

例えばファイザーは、2018年度から奨学寄附金を廃止した一方で、「医学教育プロジェクト」と呼ばれる助成金を主催している。注目すべきは同助成金が科研費などの競争的資金と同じ「公募制」であることだ。奨学寄附金が製薬企業と大学医局の「お付き合い」で分配されていたことと大きく異なる。

実は筆者も2022年に、ファイザーの医学教育プロジェクトに申請を行ったことがある。規定のフォームに、調査の目的や趣旨・意義などに加えて経費の詳細を記載し、オンラインで提出した。科研費の申請などと概ね同様だ。また、国内プロジェクトの他、グローバルのプロジェクトも多数あり、世界に冠たるファイザーという印象だ。

ただ、審査がどの程度厳格に実施されているか、確かめる術はない。その点、科研費のように、審査結果を公表した方が良いのではと個人的には感じている(採択されなかったせいでそう感じるだけかもしれないが……)。

ファイザーと異なる戦略を採用している企業もある。

20年度から奨学寄附金を廃止したアステラス製薬は、出資するアステラス病態代謝研究会、また、AMEDを通じ、間接的に助成を実施していくという。この辺り、企業毎の考え方が反映されていて興味深い。
ただし、社内審査を回避すれば直ちに中立性が保たれるかといえば、そこには疑義がある。むしろ、第三者機関を通じたマネーロンダリングの手法に類似した状況を招く懸念もある。最も重要なのは、どのような手法を採用するにしても、審査プロセスについて透明性を確保することだろう。

以上を踏まえ、製薬協に加盟する企業を中心に、86社について、奨学寄附金やその他の助成金の仕組みを網羅的に調査した。

まず奨学寄附金は、データが出揃っている21年度を対象とした。その結果、同年に奨学寄附金を実施している企業は67社(77.9%)だった。総額は約115.7億円、支払いがあった企業の金額中央値は1.0億円だった。
次に、奨学寄附金以外の助成金は、46社(53.5%)が運用しており、11社(12.8%)が2種類、6社(7.0%)が3種類実施していた。
なお、奨学寄附金を実施していない19社のうち、その他の助成金を運用している企業は11社(57.9%)にとどまった。この結果は、全体の傾向と大差なく、奨学寄附金廃止が他の助成金の運用と直結しないことを示唆している。

最後に、奨学寄附金以外の合計69件の助成金について、特徴を分析した。その結果、69件全てが公募制で、66件(95.7%)が国内プロジェクトだった。また、31件(44.9%)は企業が主催し、残る38件(55.1%)は、企業の出資した別組織によって運用されていた。
ここで最も重要な結果は、奨学寄附金以外の助成金は全てが公募制であることだ。そこには奨学寄附金に見られたような「馴れ合い」はない。
医局運営側に視点を移せば、奨学寄附金の廃止が進む中、資金獲得方法は今後ますます重要な課題となっていくだろう。

 

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