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Vol.24040 揺らぐ審査委員会の正当性(シリーズ「保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち ~」共同通信編 第24回)

医療ガバナンス学会 (2024年2月29日 09:00)


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Tansaリポーター
中川七海

2024年2月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

自殺した福浦勇斗(はやと)の父・大助と母・さおりは、共同通信が設置した審査委員会に意見書を提出した。長崎市内で塾を経営する佐々木大も意見書を送った。

いずれも、加盟社である長崎新聞にへつらう共同通信を批判する内容だ。

2023年1月10日、『いじめの聖域』(文藝春秋)の著者で、共同通信の記者である石川陽一本人も審査委員会に対して意見書を提出する。

まず突いたのは、審査委員会の正当性だ。

●「石亀さんが委員長? 」

石川は意見書で本論に入る前に、「貴委員会の正当性について」と題する章を立てた。今回の審査委員会の存在自体がまやかしであると確信する出来事があったからだ。

話は審査委員会が発足した、2022年12月6日にさかのぼる。

石川はこの日、自身が所属する千葉支局の支局長・正村一朗から、審査委員会発足を知らせるメールを受け取った。

著書の件で社内に審査委員会が本日、設置されました。審査委員会は問題の経過や事実関係の解明、責任の所在や勘案すべき状況の調査などを審査すると社内規定で定められています。
規定では、当事者は委員会で意見を述べ、または文書で報告することができると書かれているのですが、石川君はどうしますか?

正村のメールには、審査委員会の委員長が誰かすら示されていない。「社内規定で定められている」というが、どの規定を指しているのかもわからない。

石川は12月8日、社内規定の何条に基づく審査委員会なのかということや、審査委員会の委員全員の氏名・役職を回答するよう正村を通じ、審査委員会に質問した。その日のうちに審査委員会の回答が返ってきた。

回答には、社内規定は「職員就業規則第72条と審査委員会規定」、委員長はじめ委員が誰かについては「従来から明らかにしていません」と書かれていた。

委員長が誰かも、審査にかけられる自分に伝えないなどということがあるだろうか? 石川は不審に思い、審査委員会規定を調べてみた。

規定によれば、審査委員長は総務局長が務めることが定められていた。共同通信の総務局長は、江頭建彦だ。

ところが12月14日、審査委員会から石川のもとに不可解なメールが届く。

件名は「審査委員会からの新たな文書です」。送り主は、法務知財室長の石亀昌郎だ。メールを開くと、次の記載があった。

石川陽一様
審査委員会の委員長である私、石亀より、連絡文書をお送りします。

「石亀さんが委員長? 」

審査委員会が石川に示した規定に照らせば、委員長は、総務局長の江頭が務めるはずだ。

当初は「従来から明らかにしていない」と委員長名を伏せ、いきなり委員長を名乗ってきた人物は規定通りではない。石川は確信した。

「共同通信は、とにかく早く長崎新聞にいい顔がしたいと焦り、大混乱している」

まずは共同通信の組織としての振る舞いを省みてほしい。石川は意見書で、意見を伝えるだけではなく、審査委員会に次の質問への回答を求めた。

“会社が定める「審査委員会規定」第4条によりますと、審査委員会の委員長は総務局長が務めることとなっています。ところが、貴委員会は委員長が石亀昌郎氏であることを明らかにしています。なぜ、規定通りに委員会を組織していないのか、その具体的な理由をお示し下さい。 “

●「重要証拠を隠蔽」した上司が審査?

所属長である正村が審査委員会の中で果たす役割についても、石川にはよくわからなかった。12月8日に審査委員会の全員の氏名と役職を問い合わせた際、この点も石川は聞いた。

審査委員会は「正村支局長については、所属長として石川さんとの連絡役をお願いしています」と回答した。

だが一方で、審査委員会規定第4条では所属長も委員に選任されることになっている。単なる連絡役なのか、委員なのか。石川は意見書で改めて疑問をぶつけた。

“上記の規定第4条によりますと、所属長も委員に選任されます。つまり、規定通りであるならば、私の現在の所属である千葉支局の正村一朗支局長も委員となっていることと存じます。2022年12月8日付の文書では「正村氏は連絡係」であると書かれていますが、正村氏が委員であるのかないのかをお示し下さい。”

石川にとって、正村が審査委員会の委員であるか否かは重要だった。

12月初旬、共同通信が石川の著書を問題視していることを知った勇斗の母・さおりは、石川の著書の内容は真実であると伝える手紙を所属長である正村に送った。手紙を読んで、石川への責任追及を思いとどまってほしかったからだ。手紙には、長崎名物のカステラを添えた。

ところが正村は、カステラが届いたことのみ石川に伝えた。遺族が書いた手紙の存在は隠した。

“著書に登場する遺族は正村氏に宛てて①書籍の内容が真実であること②長崎新聞の報道姿勢に大きな疑問を抱いていたこと-等を記した書簡を送り、2022年12月5日付で正村氏はこれを受領しました。一方、正村氏は私に対しては「遺族からカステラが届いた」という旨をメールで連絡してきたのみで、この書簡の存在を隠蔽しました。”

遺族の手紙は、石川を審査する上で重要な証拠だ。それを隠す人物が、委員として審査を担えるはずがない。

“ここまで述べたように、貴委員会はそもそも規定通りに設置・運営されているのかが疑問であり、また正村氏が委員であるとすると、重要な証拠資料を隠蔽するような人物が関わっているわけですから、貴委員会の正当性に疑問が生じます。言うまでもありませんが、規定通りに実施されていない、あるいは委員の資質に問題があるのであれば、貴委員会の審議は全て説得力を欠くものとなり無効です。遺族からの書簡をどう取り扱っているのかも含めて、上記の各質問にお答え頂きますようお願いします。 ”

=つづく
(敬称略)

※この記事の内容は、2023年6月20日時点のものです。

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