医療ガバナンス学会 (2024年3月1日 09:00)
この原稿はAERA dot.(2023年12月13日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/208717
内科医
山本佳奈
2024年3月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
試験販売の始まった緊急避妊薬「ノルレボ」とは、「レボノルゲストレル」のジェネリック。性交渉から3日以内(72時間以内)に内服しないと避妊効果が期待できない薬であり、3日以内の内服により、80%の確率で妊娠を防げるというものです。
これまでにも、日本の多くの医療機関で処方されてきた緊急避妊薬であり、私自身、緊急避妊薬の処方を希望された方に対して、都内の駅ナカクリニックで数多く処方したことのある薬の一つです。
●世界では多くの国で市販化も
世界にはすでに緊急避妊薬が市販化されている国や、処方箋がなくても薬剤師を通じて緊急避妊薬を購入することができる国が多く存在していますが、日本では、今の所、緊急避妊薬は市販化されていません。
緊急避妊薬を入手するためには、医療機関を受診し、医師に状況を説明し、処方箋を発行してもらうしかありません。
そこで今回、医師による処方箋がなくても、緊急避妊薬を適正に販売できるかを検証することを目的とした試験販売が始まったというわけです。
具体的には、薬局に対して、すべての緊急避妊薬の購入者に薬の説明や指導ができたか、などの販売状況を調べるほか、購入者に対しては、同意が得られた場合のみにおいて、避妊の結果や妊娠検査実施の有無などを調べ、産婦人科医院に対しては、緊急避妊薬の購入者のフォローアップの状況などを調べる予定だといいます。
研究参加の手順のほか、販売価格は7000円から9000円程度で購入者負担になること、試験販売されている緊急避妊薬を購入できるのは、研究参加に同意した16歳以上の女性(本人)に限られており、16歳以上18歳未満の人は保護者の同意が必要(※2)となることなどが、丁寧に記載されています。
●入手するまでにやることがたくさん
ここで、「避妊していたけれど、避妊に失敗してしまった」ため、緊急避妊薬が必要になったとしましょう。
公益社団法人日本薬剤師会による専門サイト「緊急避妊薬一部薬局で試験販売information(※3)」によると、試験販売されている緊急避妊薬を希望する場合、まずは、この研究について理解する必要があります。
研究参加の手順や緊急避妊薬内服に関する留意事項などを理解したことが確認されれば、取り扱い薬局リストを閲覧できるという仕組みです。
取り扱い薬局リストから訪問する薬局を選んだら、事前に薬局に必ず電話をし、在庫の確認や値段、訪問時間を相談しなければなりません。電話でそれらの事項を確認した後、薬局を訪問。薬剤師による面談を受け、緊急避妊薬に関する説明と同意の後、購入して薬剤師の目の前で服用することになります。
取り扱い薬局リスト(※4)を確認したところ、東京都では5つの薬局がこの試験販売の調査に参加していることがわかりました。
しかし、薬局の住所をよく見てみると、台東区や荒川区(2つ)、東大和市、立川市と、オフィス街の多く存在する場所や、利便性のいいところとは言えなさそうな印象です。
避妊に失敗してから3日以内の内服という制限に加えて、研究への同意や事前の薬局への電話での確認が必要となると、薬局で緊急避妊薬の処方を希望するよりも、勤務先や通勤途中にある医療機関を受診して処方してもらう方が、楽なように感じてしまうのは、私だけなのでしょうか。
「意図しない妊娠のリスクを抱えた全ての女性は、緊急避妊薬にアクセスする権利がある」として、世界保健機関(WHO)が「緊急避妊薬の複数の入手手段の確保」を各国に勧告してから、すでに5年が経過しています。
都内(日本)の駅ナカクリニックに勤務していた時、「仕事のない休日や、勤務後に受信できる夜遅くまで診療しているクリニックを探した」という声が多く聞かれたほか、「避妊はしていたけれど、避妊に失敗してしまった」「コンドームをちゃんと使えていたか不安に思って……」という声をよく聞きました。
その度に、「緊急避妊薬を薬局やドラッグストアで購入できたら、必要とする女性にもっと届きやすくなるに違いない」と、何度も思ったことを覚えています。
医療従事者の一人として、そして一人の女性として、試験販売が終了次第、緊急避妊薬を処方箋なしに販売する一般販売について、検討が始まることを切に願っています。
参照URL
※1 https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20230627b.html
※2 https://www.pharmacy-ec-trial.jp/