医療ガバナンス学会 (2024年3月11日 09:00)
本稿は、3月8日に医療タイムスに掲載された記事を転載したものです。
公益財団法人ときわ会常磐病院
尾崎章彦
2024年3月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
本稿を執筆しているのは3月1日、石川県輪島市に入って3日目の朝です。滞在しているのは、社会福祉法人弘和会傘下のグループホーム「海と空」の建物内に1月8日に開設された福祉避難所です。
通常の避難所では対応困難な住民(要配慮者)の人たちを常時30人程度受け入れ、そのケアに継続的に携わっています。
つないでくださったのは、以前から懇意にしていただいている医療法人オレンジグループ代表の紅谷浩之先生でした。
紅谷先生は以前から、長年現地で在宅看護に携わって来られた弘和会スタッフの中村悦子さんと信頼関係を築かれていました。今回の地震でも、紅谷先生は発生の翌々日には現地入りし、福祉避難所立ち上げにも携わられました。
輪島市の市街地は驚くべき規模で家屋が破壊されており、直下型地震が引き起こす被害には言葉を失うばかりです。
また火事が起きた輪島朝市も、まるで空襲にあったかのような惨状で、ウクライナやパレスチナで破壊された市街地を想起せずにはいられませんでした。
輪島市の死者数は2月1日時点で103人と報告されていますが、死者数が100人台でとどまったとは正直信じがたいほどの衝撃的な光景でした。
■急性期から復興へのタイミング
さて、2月28日に市役所で行われた輪島市医療福祉調整会議では、さまざまな自治体や医療系団体から派遣された支援者が一堂に会しました。そこでの情報を参考にすると、徐々に支援を終える団体もあるようです。
実際、当院(常磐病院)も派遣に協力していた福島県JMATは、3月9日で活動を終えます。震災の急性期、亜急性期が終わり、ここからまさに徐々に復興が始まっていくタイミングで、筆者は輪島市を訪問したのだなと理解しています。
実際、輪島市内では水道が復旧しつつあり、市外に避難していた住民の方々も市内に戻りつつあります。
(https://www.city.wajima.ishikawa.jp/article/2024011700016/file_contents/wajima1.pdf)
ただ、復興を進める上で、1つ念頭におくべき要素が輪島市の高齢化率です。
■高齢者地域での大規模災害の課題
2021年3月1日時点での同市の65歳以上人口は、45.7%に達します。ちなみに例えば東日本大震災と福島原発事故を経験した南相馬市では、10年時点の65歳以上人口割合は26.6%でした。震災後、現地では多くの若年者が避難しましたが、それでも15年時点で34.6%でした。
今回の事例がそうであるように、高齢者が極めて多い地域で大規模災害が発生した際、コミュニティーの復興を医療・介護面から中長期的にどう支えていくかは難しい課題です。
超高齢地域における災害医療・介護支援は、DMATやJMATなど既存の仕組みが必ずしもフォーカスして来なかった領域であり、地域の事情や利用可能なリソースにも左右され、個別性が極めて高い案件といえます。
今回特に気づかされたのが、大規模災害で特別養護老人ホームなどの介護施設や病院などは、人的・物的ロジスティックスの維持が極めて難しい状況に置かれるということです。
■腰を据えて復興に取り組む人材の必要性
実際、閉鎖した介護施設も少なくないようです。さらに病院の再開も、規模を縮小して少しずつにならざるを得ないとのことです。
そのような中で今後より存在感が高まっていくと思われるのが、訪問診療や訪問介護を主体としたモデルです。
すなわち、高齢者に自宅や仮設住宅などに入居してもらった上で在宅診療や在宅看護などを提供するモデルは、ハコの整備を待たずに済み、機動性が高くロジスティックスの維持が容易な分、相対的に実施可能性が高いように思われます。
ただし冒頭で紹介した中村さんのように、現地で長年にわたり在宅看護を行い、今後も腰を据えて復興に取り組んでいこうという人材は不可欠です。地域によっては実現が難しいかもしれません。
■求められる年単位の長期的支援
われわれとしては、東日本大震災と福島原発事故後の活動に続き、医療・介護支援に加え、現地で踏ん張る人たちの活動を学術的にサポートできればと考えています。
第一に為すべきは、震災後の高齢者の避難と、避難先からの帰宅過程を支援しつつ、その過程を記録することです。
さらに、慢性疾患患者に関する被害を明らかにすることも重要です。日ごろがん診療に従事し研究を続けている身としては、今回の震災でがん患者が受けた被害なども、現地の医療機関の先生方と連携しながら記述していければと考えています。
また、福島の経験を踏まえると、仮設住宅に入居された人たちは、自宅とは異なる限られた環境で身体的にも精神的にも大きなストレスを受けます。
入居中はもちろん仮設住宅から自宅に戻った後、あるいは復興住宅に移った後の孤立対策も注視し協力していく必要があるしょう。
少なくとも今回の震災の被害がすぐに収束するとは思えず、今後も年単位のスパンで長期支援が必要であることは間違いありません。
適宜、形を変えながらになるかもしれませんが、継続的に現地を支援しつつ、また、現地に学ばせていただければと思っています。