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Vol.24049 攻め手を欠く審査委員会の「要求」と「言いがかり」(シリーズ「保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~」共同通信編 第25回)

医療ガバナンス学会 (2024年3月14日 09:00)


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Tansaリポーター
中川七海

2024年3月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

共同通信は、明らかに攻め手を欠いていた。

著書『いじめの聖域』で長崎新聞を批判した石川陽一を、計3時間を超える2度の聴取で責め立てた。だが結局は、「共同通信の記者が加盟社を批判するのはタブー」という範疇を超えない。

それでも共同通信は、2度の聴取では終わらさず、審査委員会を立ち上げた。石川の責任追及の材料にするため、ある「要求」と「言いがかり」を据えた。

石川は審査委員会への意見書で、対抗する。

●共同通信の「詐欺的行為」

「要求」とは、取材メモと録音データの審査委員会への提出のことだ。

共同通信は聴取の段階から、取材メモと録音を提出するよう、何度も石川に迫ってきた。

2022年11月17日、法務部長の増永修平がメールを送ってきて、取材メモと録音の提出を求めた。長崎新聞から名誉毀損で訴訟を起こされた場合、石川の著書が事実に基づいていることを証明するために必要だという理由だった。

だが共同通信は、著書に関し第三者である。出版に関する契約は文藝春秋と交わしている。長崎新聞が訴訟を起こすとしても、相手は自分か文藝春秋だ。第三者に取材メモと録音を渡せるわけがない。

自分たちが第三者であることは、共同通信自身も分かっている。石川への2回目の聴取で、法務知財室長の石亀昌郎が「(訴訟になったとしても)会社に当事者適格はない」と認めている。

にもかかわらず審査委員会は、12月14日、意見書を準備する石川に対して、取材メモと録音の提出を検討するようまた要求した。

つまり、裁判のために必要だというのは嘘だったのだ。

なぜ嘘をついてまで、取材メモや録音データを入手しようとするのか。石川には、責任を追及するための粗探しの材料にしようとしているとしか思えない。

この点を、石川は審査委員会への意見書で強く批判した。

“このような認識がありながら、訴訟で必要だからと証拠資料の提出を求めてきたのは詐欺的な行為であり、部外者である会社が資料をだまし取ろうとしたと評価せざるを得ません。報道機関としてあるまじき行為であり、ここに強く非難します。”

●法務部長「うちと長崎新聞の関係で、それができるかどうかは別としてね」

「言いがかり」とは、石川が「長崎新聞に取材しなかった」ことへの追及だ。

審査委員会は12月22日、石川に対し「ご連絡」と題した文書を送り、こう指摘した。

今回の石川さんの著書の内容を検討すると、「取材を尽くした」と言うには、長崎新聞に対する取材は欠かすことはできなかったはずです。しかし、石川さんは長崎新聞への取材はしていません。

しかしこの審査委員会による「長崎新聞への取材はしていない」との指摘には事実誤認がある。

石川は著書には記さなかったものの、長崎新聞の記者には取材している。県知事の記者会見の後、県を庇って石川に迫った堂下康一とは、直接その場でやり取りしている。

審査委員会が、長崎新聞の社としての見解を取材しなかったということを指摘しているのなら、確かにそこはその通りだし、取材ができたならするべきだっただろう。

だが、それこそ長崎新聞と共同通信が癒着しているような状況では、取材を妨害されかねない。そのことは、今回の石川への聴取で共同通信自身が認めている。

11月14日の1回目の聴取でのことだ。法務部長の増永は、石川が長崎新聞に直接取材していないことについて「批判する以上、相手の言うことを聞かなきゃいけないんじゃないか」と言いつつも、こう述べている。

「まあ、うちと長崎新聞の関係で、それができるかどうかはまた別としてね」

石川は意見書で次のように書いた。

“共同通信に所属する記者という立場上、加盟社である長崎新聞やその記者に対しての取材は難しいと判断し、著書の執筆に当たっては実施しませんでした。加盟社ならびにその構成員に対して批判的なスタンスで取材すれば、その内容が公に発表されることを予想した社内外の関係者たちから、その時点で妨害や圧力を受けることが容易に想像できたためです。また、この懸念が的外れなものでないことは、出版後の長崎新聞や会社の対応、および貴委員会の存在が逆説的に証明していると言えます。”

長崎新聞の社としての見解を取材できなかった以上、公になった事実や取材で得た揺るぎない事実をもとにした論評にとどめた。本来なら内々に得た情報を長崎新聞に取材して確認したかった。

“著書中で記したのは、公に発表された新聞記事や県が公開しているデータベースに基づく記録などのオープンデータ、記者会見場という開かれた場所での実際の発言、また著書では記していない取材結果など客観的ないし公然の事実を前提とした論評のみであり、それが正当な範囲内にとどまることは明らかです。”

それにしても、と石川は意見書を書きながら思う。

「審査委員会は、共同通信の報道機関としての仕事を自己否定していることに気がつかないのだろうか」

審査委員会の主張が、ブーメランのように共同通信を直撃すればどうなるか。石川はその点に筆を進めていく。

=つづく
(敬称略)

※この記事の内容は、2023年6月21日時点のものです。

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