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Vol.24053 坪倉先生の放射線教室(6)

医療ガバナンス学会 (2024年3月19日 09:00)


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この原稿は福島民友新聞『坪倉先生の放射線教室』からの転載です。
https://www.minyu-net.com/

福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授
坪倉正治

2024年3月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

東日本大震災後、2011年4月より福島県浜通りにて被災地支援。
現在、福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授を務める坪倉正治先生が放射線や処理水について正しく、分かりやすく解説します。

●水や食品にもトリチウム(2023年06月03日配信)

私たちの周りには、さまざまな種類の自然界の放射線が存在し、そこから日常的に私たちはある程度の放射線を浴びています。日本で自然から受ける放射線のうち、最も多くの半分弱を占めるのが、食品中に含まれる放射性物質によるものです。

食品からの放射線は、自然界に存在するさまざまな放射性物質が影響していました。代表的なものが魚介類に含まれるポロニウムで、その次に多いのはほとんど全ての食品に含まれている放射性カリウムによるものでした。この二つで、食品からの放射線量のおおよそ90%を占めています。その残りの1割以下の部分は、ほかのさまざまな天然と人工の放射性物質によります。

その中にトリチウムも含まれます。トリチウムは、核実験や原子力施設で作られる人工の放射性物質である一方、自然界で作られる天然の放射性物質でした。トリチウムによる健康影響は、身体の外から放射線を浴びる外部被ばくは問題とならず、あったとしても内部被ばくです。

トリチウムもわれわれの生活の中で水や食品などに含まれ、それによる放射線量はゼロではありません。しかし、トリチウムを口から取り込んだ際の身体への影響はとても小さく、私たちの食品からの放射線量全体の10万分の1にもならないことが知られています。
●空気中に含まれるラドン(2023年06月10日配信)

私たちの周りには、さまざまな種類の放射性物質が存在します。これまでもいろいろな名前が登場しました。原発事故に伴って放出され、食品の検査や除染などで主に対象となる「セシウム」、水素の仲間で出す放射線が非常に弱い「トリチウム」、私たちの身体やほとんどの食品に含まれる放射性「カリウム」、魚介類に多く含まれる「ポロニウム」など、たくさんカタカナが並びます。

空気中に含まれる放射性物質として、重要なのが「ラドン」でした。なぜなら、私たちが天然から受ける放射線の「量」の多くの部分を、このラドンとその周辺の放射性物質が占めるからです。日本だと天然の放射線全体の約4分の1を、世界平均では約半分を占めます。

「ラドン温泉」という言葉が示すように、温泉地に多い傾向にあります。水にもある程度溶けており、井戸水などの地下水に比較的多い傾向にあります。

このラドンは、一般的に花こう岩が地下に多い地域では、地下水に高めの濃度で含まれていることが知られています。これは、花こう岩に含まれるウラン鉱物からラドンが出て、地下水に溶け込むためです。ちなみに、阿武隈山地は国内で花こう岩が多く含まれる地域の一つです。
●事故要因、井戸汚染なし(2023年06月17日配信)

私たちの周りには、さまざまな種類の放射性物質が存在します。これまでもいろいろな名前が登場しました。空気中に含まれる放射性物質として、重要なのが「ラドン」でした。なぜなら、私たちが天然から受ける放射線の「量」の多くの部分を、このラドンとその周辺の放射性物質が占めるからです。

このラドンは、花こう岩が地下に多い地域では、地下水に高めの濃度で含まれています。花こう岩に含まれるウラン鉱物からラドンが出て、井戸水などの地下水に溶け込むためです。

阿武隈山地は、国内で花こう岩が多く含まれる地域の一つでした。そのため阿武隈山地の井戸水を調べると、場所にもよりますが、ラドンが検出されます。「ラドン温泉」などの温泉水にも含まれます。水に溶けているため、煮沸をするとラドンは数十分の1に減ります。

その一方、今回の原発事故に伴い、2011年から井戸水のモニタリングは継続して行われています。これまでの調査で、井戸水から放射性セシウムや放射性ヨウ素といった放射性物質は、浜通り、中通り、会津、どこでも一度も検出されていません。地下水なので、そこに放射性物質が到達しないのです。井戸水の汚染はありません。
●原子炉の形で違う発生量(2023年06月24日配信)

先日、他国の原発からトリチウムが放出されたというニュースが報道されました。中国が国内で運用する複数の原発が、今夏にも始まる福島第1原発の「処理水」の海洋放出の年間予定量と比べ、最大で約6・5倍の放射性物質トリチウムを放出しているというものです。

トリチウムは最も軽い元素である水素の仲間で、核実験や原子力施設で作られる放射性物質です。原子炉の中では電気をつくる反応を起こす途中に、さまざまな過程でトリチウムができるのでした。そして、原発でできたトリチウムは基準値を確認し、これまでも主に海へ放出されていました。そのため、初めてトリチウムが放出されたかのように表現するのは正しくありません。

また、原子炉の形は、世界中でいくつかの種類があり、原子炉の形によって、トリチウムの発生量が異なります。放出されるトリチウムの量が原子炉の形によって、数十倍から数百倍異なることが知られています。

特にトリチウムの放出量が多いのが、使用済み核燃料再処理施設です。フランスの再処理施設では、毎年、事故前の福島第1原発から毎年放出されていたトリチウムの、合計で数千倍のトリチウムが液体や気体の形で放出されていたことが知られています。

トリチウムの放出に関して、他が放出しているから、何も問題ないかのような主張はよろしくないと個人的には思いますが、実際にこれまでもいろいろな原子力施設から安全を確認後に放出されてきたことも事実です。

 

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