医療ガバナンス学会 (2024年3月22日 09:00)
この原稿は中村祐輔の「これでいいのか日本の医療」(2024年2月25日配信)からの転載です。
https://yusukenakamura.hatenablog.com/entry/2024/02/25/183733
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
理事長 中村祐輔
2024年3月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
米国では年間70,000頭のサルを研究用に利用していたが、その半分以上が中国からの輸入であった。しかし、コロナ感染症流行後の2020年以降、中国がサルを輸出しなくなったため、全世界的にサルが不足し、価格が高騰したのだ。研究や薬剤開発に利用するサルを減らす動きはあるものの、現時点においてゼロにするのは無理である。再び、感染症の流行が起こった時の備えとしても、一定数のサルを維持しておくことは国家的な危機管理対策として、絶対的に必要なことだ。
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所には霊長類研究センターと薬用植物センターがあり、前者は約2000頭のカニクイザル、後者は3000-4000種類の薬用植物の種子を維持している。恥ずかしながら、理事長に着任するまでは、このような日本の医学研究の根幹を成す重要施設があることは知らなかった。
日本の国家安全保障の常識的な観点で考えると、90%を輸入に頼る薬用植物の維持管理や感染症対策やバイオテロ対策としてサルの維持管理は不可欠だ。特に病原性のある細菌やウイルスにさらされない環境で飼育されているサルは、新規感染症対策として極めて重要だ。米国の危機意識が現れているのが、冒頭の「町を挙げてサルの飼育する施設」の話だ。もちろん、動物愛護の観点で反対する声もある。
この国には、先のコロナ感染症流行で目にしたように、国を守るためにという十分な危機意識がない。だからPCR検査の備えもなかった。防衛装備だけで国を守ることができると思ったら大きな間違いだ。永田町にも霞が関にも科学的なリテラシーが決定的に欠如している。どうする日本は!