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Vol.24055 「記者活動の指針」を自ら破る共同通信(シリーズ「保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~」共同通信編 第26回)

医療ガバナンス学会 (2024年3月25日 09:00)


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Tansaリポーター
中川七海

2024年3月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

共同通信は我を失っているとしか、石川陽一には思えなかった。

審査委員会は、石川が著書『いじめの聖域』(文藝春秋)で長崎新聞を批判するにあたり、長崎新聞の社としての見解を取材できなかったことを、責任追及の切り札にしてきた。

だが共同通信の加盟社である長崎新聞に見解を求めれば、取材を妨害される恐れがある。共同通信法務部長の増永修平も石川への聴取で「うちと長崎新聞の関係で、それができるかどうかはまた別」と言っている。

そもそも、石川が著書で書いたことは、事実に基づく論評だ。それを咎めるならば、共同通信の多くの報道自体が成り立たなくなる。

石川は意見書で、共同の自己矛盾を突いた。

●「共同通信の配信記事にも大きな悪影響」

石川は意見書で、共同通信が配信し長崎新聞が掲載した、ある論説記事を例に挙げた。

見出しは「論説/国を危うくする予算膨張/防衛増税1兆円」だ。2022年12月9日付で配信し、翌10日に長崎新聞に掲載された。

首相の岸田文雄が防衛費増額の財源として増税を表明したことに対し、筆者による批判が多数記載されていた。

“必要な財源が確保できるかは不透明で、財政悪化が一層進みかねない。国を危うくする予算膨張と言わざるを得ない”

“だが具体的な中身はいまだ国民に示されておらず、首相の指示は「規模ありき」のそしりを免れまい”

“世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題などで支持率低迷に苦しむ首相が、求心力維持へ党内保守派にすり寄ったと見られても仕方なかろう”

“政府の財源捻出策は国民負担が最小に抑えられるように見える。しかし甘い「皮算用」である点を見逃してはならない”

記事の最後も、筆者による見解で締めくくられていた。

“歴史的な安保政策の転換と負担増が説明を欠いたまま既成事実化しようとしている。その国民軽視の姿勢を容認するのか、われわれも問われている”

石川は、この記事に問題があるとは思わない。

だが審査委員会の主張に照らせば、筆者は首相の岸田に直接取材していなければ、「取材を尽くした」とは言えない。石川と同様、聴取を受けて審査委員会にかけられなければならない。

しかも、同様の記事を共同通信は日常的に配信し、加盟社が掲載している。防衛費増税に関する論説記事を掲載した長崎新聞に限らず、加盟社に多大な迷惑をかけていることになる。

石川は意見書で指摘した。

“たとえ客観的ないし公然の事実を前提にした論評の範疇であっても必ず相手へ取材して言い分を載せなければならない、と貴委員会が主張されるのであれば、それは共同通信の配信記事にも大きな悪影響を及ぼすこととなります。

赤字で示した部分は、執筆者による論評であることは明らかです。この論説記事を配信するに当たり、執筆者は岸田文雄首相へ該当箇所に関する取材を行っているのでしょうか。もし岸田首相へ取材していないのであれば、貴委員会の主張に当てはめれば、この記事は「取材を尽くした」(2022年12月22日付の「ご連絡」より)ことにはならず、〈共同通信の「記者活動の指針」に準拠しない(社の記事水準を満たさず、記者としての基本姿勢に反する疑いがある)表現がされたことで、報道機関である共同通信の配信記事及び記者の資質に対する信用が毀損された疑いがある〉(同前)となります。他の多くの論説記事についても同じことが言え、共同通信は自らの記事水準を満たさない記事を大量に生産して発表し、加盟社へ損害を与えていることとなります。この点を貴委員会はどう説明するのでしょうか。

<中略>

共同通信が配信する論説記事さえも貶めるものであり、自らの首を絞める愚行であるとさえ言えます。”

●「社会的弱者の視点を大切にする」?

石川が共同通信に感じる重大な自己矛盾が、もう一つある。

それは共同通信が、加盟社である長崎新聞の顔色ばかりをうかがい、遺族の方を向いていないということだ。

共同通信の「記者活動の指針」では、基本姿勢として次のように書いている。

「社会的弱者の視点を大切にする」

福浦勇斗(はやと)の遺族は、海星学園だけではなく、県とも対峙しなければならない状況に追い込まれた。さらに地元で影響力がある長崎新聞が県を庇い、追い討ちをかけた。まさに社会的弱者である。

ところが共同通信は長崎新聞から抗議を受けて以来、一貫して遺族に向き合わない。勇斗の遺族は、石川の報道は全て真実であることを伝える手紙を共同通信に出した。ところが手紙を受け取った正村一朗は、手紙の存在を石川に伏せた。そればかりか、手紙を受け取った翌日に審査委員会まで立ち上げている。

“貴委員会の態度こそが、遺族から見れば強者である長崎新聞におもねり、「社会的弱者の視点を大切にする」と謳う共同通信の「記者活動の指針」に反するものであることは明白で、遺族からすれば本人たちや息子の尊厳を抹殺するものに他なりません。”

=つづく
(敬称略)

※この記事の内容は、2023年6月22日時点のものです。

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