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Vol.24056 自分の祖母の認知症のリアル 女医が家族と経過を見てきて思うこととは?

医療ガバナンス学会 (2024年3月27日 09:00)


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この原稿はAERA dot.(2024年1月10日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/210876?page=1

内科医
山本佳奈

2024年3月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

今年で93歳になる私の祖母は「認知症」です。認知症を患うまでは、食事の買い出しから準備、クリニックへの通院、毎日の掃除など、身の回りのことは全て自分でこなしていた祖母。毎日、家の隅々まで徹底して掃除をするほどのきれい好きであり、身なりには厳しい人でした。

祖母は、年末にはお節料理を、祝いごとの度に赤飯や巻き寿司を作ってくれていました。まさか、そんな祖母の作るおせち料理を食べられなくなる正月がやってくるなんて、私は思ってもいませんでした。妹も両親も、同じ気持ちだったと思います。

大学を卒業し、祖母と両親と住んでいた実家のある大阪を離れ、仕事にがむしゃらになっていた私が、祖母が認知症であることを知ったのは、7年ほど前のことです。

ちょうど、祖父が亡くなってから数年後のことでした。「まさか、あのおばあちゃんが?」と、その話を聞いた時に、耳を疑ったのは言うまでもありません。他人に頼らず自分で全てをこなして生活してきた祖母でしたから、認知症とは最も縁遠い人だと信じて疑っていなかったからです。

同居している母によると、最初は、物忘れから始まったといいます。昔のことは鮮明に覚えているのですが、直近のことは覚えていないのです。
●物盗られ妄想も

例えば、昼食を食べたこと自体を忘れ、昼食を食べていないと言って、再び食事をとってしまいます。記憶することができないため、直前に話していたことを、延々と繰り返すなんてこともあります。

そして、みるみるうちに、認知症の症状は進んでいき、物盗られ妄想が始まったそうです。物盗られ妄想とは、認知症で起きやすい被害妄想の一つであり、財布や現金、貯金通帳など、大切な物を盗られたと訴える症状のことです。

私の祖母は、「通帳がなくなった。財布がない。(私の)母や父が盗んだに違いない。」と思い込んで、毎日のように訴えては、家の中をひっくり返すかのように必死になって探すことを繰り返すようになりました。何度も犯人扱いされた母は、とても辛かったと言います。

そんな物盗られ妄想が、ようやく落ち着いた頃だったと思います。夜に突然、家を飛び出してしまい近所を歩き回ることや、「長男が帰ってくる……」と言って、夜な夜な玄関の扉を開けて待つようになったようです。

幸い、家を飛び出すことは数回だけで落ち着いたのですが、頻繁ではないものの、玄関を開けて誰かと話しているようなことは続いていると言います。

物盗られ妄想があまりにも酷かった頃、認知症の祖母の面倒をみていた両親が、祖母に施設に入ってもらうことを検討したことが一度だけあります。
●デイサービスは「つまらない」と

しかし、祖母は全力で施設に入ることを拒否し、「緊急時にやむをえない場合」に身体拘束をすることがあると施設の人に聞かされた父も、実の母親を施設に入れることをやめたそうです。

なんとか説得し、週に1回のペースで通ってもらっていた認知症デイサービスも、コロナパンデミックをきっかけに、通うのを中断してしまったままの状態が続いています。祖母も、「つまらないから行かない」といい、断固としていくことを拒否し続けているそうです。

幸い、中等度および高度アルツハイマー型認知症における症状の進行を抑制することで知られている薬が祖母には効果的だったようで、物盗られ妄想や幻視といったひどかった症状が落ち着いていることもあり、なんとか、両親が祖母の身の回りのことをみることができているのが現状です。

しかし、特に、持病のために身体の自由が効かない母への負担は相当なものであり、祖母も両親も共に歳をとっていく中で、日本を離れてしまったことに申し訳なさを感じています。

さて、世界保健機関(WHO/※1)は2021年時点で、世界の認知症患者は5,500万人を突破しており、毎年1000万人近くの人が新たに認知症を患っていること、そして、年間1兆3,000億ドルの経済損失が生じていることを報告しています。

また、WHO(※2)によると、これまでの研究で、身体活動をすること、禁煙、有害なアルコールの摂取を避けること、体重を管理すること、健康的な食事を摂ること、健康な血圧やコレステロールや血糖値を維持することによって、認知機能の低下や認知症のリスクを軽減できることがわかっているほか、うつ病、社会的孤立、低学歴、認知能力の低下、 大気汚染(※3)などが、その他の認知症の危険因子として報告されているといいます。

昨年12月13日(※4)には、カナダのマギル大学のAntonios氏らが、英国の50歳以上の認知症ではなかった約426万人の記録を解析したところ、平均11年の追跡調査後に約4万人(0.95%)がアルツハイマー病を発症し、ヘリコバクター・ピロリ感染は、感染なしと比較して、アルツハイマー病のリスクを11%増加させたこと、そして、アルツハイマー病のリスクの増加は、ヘリコバクター・ピロリ感染の発症後10年で、24%のピークに達したことが、報告されました。

加齢はどうすることもできませんが、これらの情報によると、健康的な生活習慣を意識するほか、良好な健康状態を維持するほか、ピロリ菌の除菌など、自分で意識して認知症の予防のために自らアクションを起こせることが多いこともわかります。

今からでも遅くはないはずです。私も、今一度、自分の生活習慣や健康状態を認識することから始めてみようと思います。

【参照URL】

※1 https://jp.reuters.com/article/idUSKBN2FZ024/

※2 https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/dementia

※3 https://www.bmj.com/content/381/bmj-2022-071620

※4 https://alz-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/alz.13561

 

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