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Vol.24063 能登半島地震で被災した福祉避難所での支援活動報告

医療ガバナンス学会 (2024年4月8日 09:00)


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福島県立医科大学 放射線健康管理学講座
山村桃花

2024年4月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

この度、1月1日に発生した令和6年能登半島地震からおよそ3ヶ月後の3月25日から29日までの5日間、石川県輪島市にある福祉避難所「海と空」にて支援活動をした。コーディネートは平素より講座と繋がりのある医療法人オレンジグループの紅谷先生、そして現地での活動は主に池口先生にしていただいた。被災地の現状が3ヶ月経過した今どうなっているのかということを視察するのと同時に、福祉避難所の運営についても学べる貴重な機会であった。今回の支援活動で得られた知見や、能登の現状についてご紹介したい。
1.活動内容、日程

2024年3月24日に新高岡に入り、25日から29日まで石川県輪島市内にある福祉避難所、「海と空」にて支援活動を行った。支援の内容は主に避難者の生活介助や避難所撤収の手伝いであった。(食事の用意や排泄の介助、避難者との交流、物資の片付けなど)
2.輪島の現状

輪島市内に入ると、倒壊した建物が数多く目についた。二次被害を防ぐため、被災建物の倒壊の恐れを知らせる応急危険度判定が輪島市を含む石川県の11市町村で行われ、建物にはその結果が貼ってあった。実施件数は31,600棟に及び、それぞれの割合は次の通りであった;危険:12,615件 要注意8,790件 調査済10,195件。建物全体の約4割が危険と判断され、立ち入ることが困難となっている。
取り壊しが始まっている建物もあった一方で、ほとんどの建物は3ヶ月経った現在でも、1月1日から時が止まったかのようにそのままの状態で残っていた。また、輪島市の観光名所「朝市通り」では、地震で発生した火災で200棟以上が焼け、およそ5万平方メートルが焼失したが、焼け落ちた建物もそのまま残っていた。

電気やガスなどのインフラは通っていたが、下水管が損傷している影響で時々断水になるなど、水の供給は安定しているとは言えなかった。給水車が絶えず小学校の横に停まり、住民は断水の間、そこから水を得ていた。福祉避難所「海と空」では事前の断水の連絡を受け、施設にあるだけのタンクに水を貯め、その水を使って生活をしていた。また、道路の修復なども進み、1月の地震発生直後に比べると道路の状態も日々改善されていた。ただ歩道などの整備はほとんど進んでおらず、砂利などを使って応急処置的に舗装されていた。仮設住宅の建築も進んでおり、順次入居も始まっている。
3.福祉避難所「海と空」の現状

輪島入りした3月25日の時点で、海と空に避難している避難者は21名であった。避難者は介護度1〜3ほどの、多少の見守りや介助を必要としている方だった。運営団体は、キャンナス、医療法人オレンジグループ、株式会社ぐるんとびーの三つである。現在支援を行っている三つのグループは3月末で海と空から撤退し、社会福祉法人の弘和会がグループホームを再開することになっているため、避難者の数も日に日に少なくなっている。3月末には最終的に15名ほどに落ち着くそうだ。

避難所の運営をしているのは主にキャンナスの全国から集まってきた看護師で、食事の用意や避難所の片付け、物資の分類、避難者の排泄や入浴介助などが主な仕事内容である。海と空はあくまでも一時的な生活の場であり、病院でも施設でもないため、「避難者の自主性を尊重し、避難所に来た時よりも元気になって帰ってもらう」ということに重きをおいて運営をしている。
4.支援中に見られた課題

支援を行う中で、さまざまな職種の方とお話をする機会をいただいた。ここではそれらのお話を通して見えてきた被災地支援の課題について紹介したいと思う。

i.ボランティアのあり方
海と空では3つの団体を通して絶えずボランティアが支援活動を行っている。
支援活動を全て外部に委託し、ボランティアの数を回すことで支援する側が疲弊してしまうのを防ぐという数の利を活かし、3ヶ月間支援を続けてきた。しかし、絶えず全国各地からさまざまな人が支援に入るということは、多様な考え方を持つ人たちを1つのチームとしてまとめていかなければならないという課題もある。先述の通り、福祉避難所としての海と空では、あくまでも「生活の場を提供する」ということを第一優先にしているが、普段病棟で業務をしている看護師や医療職のボランティアの中にはそれを受け入れるのに時間を要する人もいる。
病院のように管理したり、制限したりすることは避難者にとって必ずしも良い結果になるとは限らず、震災から時間が経ってボランティアの人数が縮小した時に、果たしてその支援が継続してできるのかということを常に考えながらできる支援、やる支援を選択していく必要がある。元の生活に戻った時にも避難者自身で続けられるような支援をしていかなければならない。

ii.支援する人の支援
輪島では震災発生直後から3ヶ月間、絶えず支援が続いている。短期ボランティアの人が多くを占めるが、中には長期に渡って支援を続けている人もいる。被災地という非日常の中で、支援任務のプレッシャーに曝されたり、悲惨な話を見聞きしたりすることで心身に過度な負担がかかることがある。使命感や高揚感のために、自分の心身の不調を自覚しにくく、自覚しても休養や治療が後回しになることも少なくない。
よって、「支援者の支援」という概念を共有することが重要である。心身に過度な負荷がかからない範囲、日数で絶えずボランティアを募集し、数の利を活かして支援のレベルを維持するのと同時に、どうしても長期で支援を続ける必要のあるマネジメントにはカウンセリングを受けさせるなどの支援が必要不可欠である。

iii.DMAT撤退に伴う災害支援の継続性確保
震災発生直後からDMATが被災地の支援を継続していたが、約三週間を過ぎると現場のニーズ医療ではなく介護、介助、物的支援に移行していった。急性期医療から高齢者や被災者のケアに移行する繋ぎ目を担う組織がなく、今回の震災ではDMATがソーシャルワーカーとしての役割を果たさざるを得なかった。また、物資の仕分け作業などもDMATが行なっていたという。しかし、しかしこれは本来のDMATの役割ではないため、支援物資がうまく全体の避難所に行き渡らなかったり、どこに何があるのかわからなかったりという問題を引き起こした。もっと早期の段階でケアマネージャーや、資源分配のプロなど、ソーシャルワーカーを外部から呼び込むような仕組みづくりが必要なのではないか。

iv.中間支援
今回の災害では、被災地の現場に入る医療者のコーディネートをNPO法人のふわりが担った。新高岡にある入居前のグループホームを3ヶ月間借りとり、新高岡駅からの送迎や、輪島までの送迎などをサポートしている。そのほかにも震災直後には輪島で足りていない支援物資を買って届けたり、状況が落ち着いた後は仮設住宅やアパートに入居する人のための生活物資を届けたりするなどしている。このような中間支援団体の重要性が広く認知され、国や行政から適切な金銭的援助を受けられるようにすることが課題である。

v.地元へ還していくこと
地震から3ヶ月経って輪島には徐々に人が戻ってきており、地元の開業医や歯科医、ケアマネージャーなどの医療従事者も帰ってきている。建物や施設の損傷は未だ見られるが、クリニックの機能としては戻ってきている。「地域につなげて地域に帰していく」ことが必要であり、これを適切なタイミングで行うことが復興の促進にもつながる。外部委託で回していた福祉避難所に、徐々に輪島の人を巻き込んでいく仕組み作りがこれからの課題であった。
5.活動を振り返ってみて

まず、輪島に入ってすぐ、想像よりはるかに多くの建物が全壊または半壊している現状に衝撃を受けた。テレビで何気なくみて、想像していた輪島の状態と、現実があまりにも乖離していて、百聞は一見にしかずとはまさにこのことだった。東日本大震災でも、地震のみでここまでの建物の損傷は見られなかったのではないかと思う。あまりにも非現実的な光景には、輪島に5日滞在しても全く慣れなかった。

福祉避難所に入ってみて、「ボランティア」の難しさを知った。「ここは施設ではなく、避難所です」と毎朝のミーティングの時にチームのリーダーから伝えられるが、その言葉を理解して行動するのがチームの中の一番の課題であった。普段患者として接することに慣れている人が多い中で、いかにその共通理解を徹底させるか、という難しさを感じた。
「熱意ある人がたくさん来るから、ここ改善したほうがいいと思うんです、ってよく言われる。でも改善がどこに向かう改善なのかとか、それって人が少なくなってからも継続できる改善なのか、とか、考えて相手を納得させるのはかなり体力使うよね」

「そもそもあそこは避難所だし、病院でも避難所でもない。転ぶ人を絶対に転ばさないようにっていう絶対的責任はない、ただ転ばせたくない。ベッドから落ちる人を全部助けようとするのは無理だし、ベッドから落ちても、落ちちゃったのね、っていうだけ。お酒飲んでいるのを止めたりしないし、お酒がないと寝られない人にはコップでこっそりお酒をあげたりする、そうやって人間らしい生活を送れるようにするのが大事」
6.謝辞

現地で活動されている現地スタッフの皆様、支援者の皆様に心より敬意を表するとともに、被災された方々には一刻も早い復興をお祈りいたします。また今回支援に行くにあたって、お世話になって皆様に深く感謝申し上げます。
7.写真集
http://expres.umin.jp/mric/mric_24063.pdf

 

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