医療ガバナンス学会 (2024年5月8日 09:00)
この原稿は中村祐輔の「これでいいのか日本の医療」(2024年4月24日配信)からの転載です。
https://yusukenakamura.hatenablog.com/entry/2024/04/24/201938
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
理事長 中村祐輔
2024年5月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
今後は、子育て支援分を社会保険料として徴収するという。一人約500円のはずだったが、年収によっては一人1500円を超える。「給料が上がるから、増税にはならない」という、なんとも不可解な詭弁を使っていて、選挙でしっぺ返しを食らうと思わないのだろうか?どんな形であれ、税金が増えれば増税と思うのが市民感覚だ。給料が増えれば保険料もそれに応じて増えるし、物価もかなり上がっているので、実質的な所得は減っているにも関わらず、何という言い草だ。
また、保険証をすべてマイナ保険証にするそうだが、義務でないマイナンバーカードを保険証に結びつけること自体が、大きな矛盾なのだ。本当に施策がちぐはぐだ。霞が関の文化は、先輩官僚が実施した制度・施策を批判しないことだ。そして、自分たちの実績を、予算獲得という形で残すことだ。後年になって批判されないので、やりたい放題で誰も責任を取らされることはない。反対に、先輩たちが実行にうつした施策がうまくいっている場合、それを継続しても自分たちの成果にならない後輩たちは、成否にかかわらず、新しいことをしたがるのだ。
当然ながら、継続する意味がないプロジェクトでも打ち切れないものが増えていけば、新しいことに予算を割くことができなくなり、先細りになる。それが、日本が停滞する根源となっている。経済が右肩上がりであれば、新しいプロジェクトを展開する財政的余裕が残っているが、経済が行き詰まると、消化しにくい食物が腸に詰まってくるので、栄養価の高い食事が摂取できず、やせ衰えていくのと同じで、日本の科学は衰退の一途を辿っている。
まったく将来の見通しが立っていないものでも、研究者が嘘とごまかしを続けて膨大な無駄を続けているものも少なくない。研究者と、先輩の失敗をかばう後輩役人たちの馴れ合いがこの国を蝕んで根底を揺るがしている。
政治が強くなりすぎて、官僚人事権を握ったのがそもそもの間違いだ。戦後日本の復興をけん引してきたのは、志と能力の高い官僚が政治と戦ってきた、あるいは、政治を動かしてきたからだ。しかし、今の官僚を20―30年前の官僚を比較すると、今の官僚の多くは勉強をしないし、現場を知らない。机に座って、パソコンを操作して、施策を作り上げるものだから、世間の実態との乖離が大きくなり、それを繕うためにさらに悪手を打つ。患者さんの顔も見ずに、パソコンとキーボードに目を落として診療をしている医師と同じだ。お腹を触ることなく、CTの写真で、患者さんの腹水に気づく医師と同じようなものだ。
国を思う政治家と官僚が、革命を起こすくらいの気持ちで日本を立て直してほしいと心から願うばかりだ。