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Vol.24097 とある医学生とガザ紛争-ナクバの日に考える-

医療ガバナンス学会 (2024年5月21日 09:00)


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北海道大学医学部6年
金田侑大

2024年5月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「モンスター2体を生贄に、出でよ、青眼の白龍!!!!」

遊戯王は私の青春でした。150円を握りしめて近所のスーパーに出没し、ピアノ教室には、友達との決闘<デュエル>を楽しみに、楽譜とデッキをカバンに入れて通う少年でした。このアニメの舞台が古代エジプトだったため、エジプトはずっと、私の行きたい国No.1でした。十数年の時を経て、そんな憧れのエジプトに今年1月に留学することができました。

しかし、世界情勢はそれどころではありませんでした。2023年10月7日以降、イスラム組織ハマスによる、越境攻撃を口実にしたガザに対する軍事侵攻が、日に日に過激さを増していたからです。ガザ地区は、私が留学したSuez Canal Universityからは300kmほどしか離れていませんでした。

2024年2月の段階で、ガザの人口の1.5%に当たる3万人以上の死者が報告され、その4割は子どもだと言われています。学校や病院といった社会インフラもイスラエル軍の攻撃の標的となり、既に、150以上の医療施設、300以上の学校が破壊されたりしたとの報告もあります。当時のエジプトは大統領選の直後で、この問題には、何となく、触れたくなさそうな空気を現地では感じていました。ただ、ドイツ人である私は、ユダヤ人が絡むこの問題に、なかなか無視を決め込むことはできませんでした。

と、それっぽいことを書いてみたのですが、やっぱり以前、ロシアのウクライナ侵攻が始まった際、ロシア人とウクライナ人の友達が、目の前で仲が悪くなっていくのを見ていたイギリス留学中の自分とは、どうしても少し”ワケ”が違います。( http://medg.jp/mt/?p=10859 ) ガザで起こっている紛争や飢餓、人権侵害といった問題と、日本で来年2月に迫り来る国家試験対策に、必死で孤独になっている自分が、あまりに遠いのです。いくらパスポートがドイツだからといって、小学校からしっかり『君が代』を歌っていた自分にとって、当事者意識を持つことは簡単ではありませんでした。

世界のニュースを見てみると、この問題に関して、学生運動の高まりが報道されています。例えば親イスラエルの立場をとるアメリカでは、今年4月下旬からデモ行進や座り込み、ハンガーストライキなどが相次ぎ、特にコロンビア大学で多数の逮捕者が出たことを契機に、その勢いが加熱しています。イェール大学、ウィスコンシン大学、ニューヨーク大学など、全米各地の主要大学で、既に多数の学生が反イスラエル運動への参加を理由に逮捕されており、その総数は1700人を超えているとされています。

同じくイスラエル寄りの立場をとるドイツでも、ベルリン自由大学で学生が奮起し、弾圧のために警察が出動する騒ぎとなりました。しかし、これを教授ら120人が非難し、パレスチナ支持派学生の側に立つことを表明したことで、ますます反イスラエルの機運が高まっています。ドイツでは、その歴史的経緯から、反イスラエルの立場は取りにくく、例えば『我が闘争』の本も、ついこの間の2016年まで販売禁止でした。そんな国でも、学生たちが、ガザの平和のために声をあげているのです。

では、日本はどうでしょうか。実は、2013年の第二次安倍政権以降、特に軍事・防衛面で、日本とイスラエルの距離はどんどん近くなっています。しかし、学生の運動としては、少なくとも北大でstandingなどを行っているのは、私の農学部の知人一人だけです。

そうでなくともこの件に関して、一般的に日本人は消極的です。私もつい先日、とある寄稿で「日本は即時停戦を呼びかけるべきだ」とする論考を提出しましたが、返ってきたのは、「即時停戦を呼び掛けるのは時期尚早なのではないか?」という返事でした。そうなのでしょうか。

当事者意識を持つためには、歴史を学ぶことが重要です。例えば、今、ガザで起こっている問題は、第二次世界大戦末期の沖縄とパラレルしているように、私は感じます。1945年の太平洋戦争末期、住民が沖縄南部に追いやられ、結果としての集団虐殺となってしまった歴史です。

当時、沖縄県の八重山諸島の住民は、日本軍の命令により、マラリアの流行地域である山間部に強制的に移住させられました。これは、本土防衛のための最後の砦と位置づけられた沖縄を、要塞化するための措置でした。しかし、結果的に住民3万1千人のうち半数以上がマラリアにかかり、1割強にあたる3,647人もの命が失われてしまいました。最も罹患率の高かった波照間島では、患者は住民の99%、死者は3割にまで上りました。

この原稿を書いている今日、5月15日は、1948年のイスラエルの建国に伴い、パレスチナ人が住んでいた土地を追われ、難民となることを強いられた『ナクバの日』から76年にあたります。地上戦に進んでも地獄、強制的に避難させられても地獄。そんな状況を経験している日本人も、人間の尊厳・権利を考える当事者として、世界での立ち位置を考えなければならないのではないでしょうか。

世界の悩みを一緒に悩むために、勉強しよう。
患者の悩みを一緒に悩むために、勉強しよう。

そんなことを考えながら、私は今日も、医師国家試験の過去問に泣かされているのです。

【金田侑大 略歴】
北海道大学医学部6年生。冒頭の1文を何も見ずに“ブルーアイズ・ホワイトドラゴン”と読んでくれたそこの君!デュエル、スタンバイ!!

 

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