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Vol.24101 坪倉先生の放射線教室(9)トリチウムを含む「処理水」について

医療ガバナンス学会 (2024年5月27日 09:00)


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この原稿は福島民友新聞『坪倉先生の放射線教室』からの転載です。
https://www.minyu-net.com/

福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授
坪倉正治

2024年5月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

東日本大震災後、2011年4月より福島県浜通りにて被災地支援。
現在、福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授を務める坪倉正治先生が放射線や処理水について正しく、分かりやすく解説します。

●基準クリアした上で排出 (2023年09月09日配信)

原発事故のため、放射性物質を含む燃料が溶けてその後固まり、燃料デブリとなりました。この燃料デブリを冷やすために使われた水や、雨水や地下水が原発の建物の中に入り込み、「汚染水」が発生しました。「処理水」とは、このようなさまざまな理由で発生した「汚染水」を、複数の設備で浄化した後、敷地内のタンクに保管している水のことです。

取り除けないトリチウムが中心として含まれますが、トリチウム以外の多くの存在するかもしれない放射性物質に関しては、規制基準以下まで浄化したものになります。

その一方で、通常に稼働している原発でも同様の水が生じてしまいます。

原子炉の種類によって、トリチウムのできる量が異なるのですが、原子炉の中で燃料棒と直接触れている水には、トリチウムが含まれ、核分裂を起こした後のトリチウム以外の放射性物質も微量に含まれるかもしれない状態となります。

そして、これらの水もトリチウムとそれ以外の放射性物質が測定され、基準を下回っていれば排出されるというステップが取られています。このように処理水も、通常の稼働している原発も、トリチウムを中心としてさまざまな放射性物質の管理がなされ、基準をクリアした上で排出がなされています。
●健康影響は非常に小さい (2023年09月16日配信)

原発事故によってできた燃料デブリを冷やすために使われた水が、さまざまな種類の放射性物質を含んだ「汚染水」となります。加えて、雨水や地下水が原発の建物の中に入り込み「汚染水」と混ざり合うことで、新たな「汚染水」が発生します。

「処理水」は、この「汚染水」を、複数の設備で浄化した後、敷地内のタンクに保管している水のことです。トリチウムは取り除くことが困難な一方、セシウムやストロンチウムなど、トリチウム以外の多くの放射性物質全てを規制基準以下まで浄化したものになります。

先日、1回目の放出が終了しています。その放出前のタンクの処理水は、もし毎日2リットルずつ1年間、その処理水を飲んだとして、トリチウムからの影響がおおよそ2・3ミリシーベルト、トリチウム以外のさまざまな放射性物質の影響がその10分の1である、0・28ミリシーベルトとなると計測されていました。

放出前には、この処理水がさらに740倍に薄められました。計算上は、トリチウムからの影響は毎日2リットルずつ飲んだとして、0・003ミリシーベルト程度のリスクになります。トリチウム以外の影響はさらにその10分の1です。そして、これが福島第1原発から1キロ離れた場所で放出され、海の中でさらに薄まりました。

さまざまな検査が継続されることはもちろん必要ですが、現状ではこの放出による私たちの身体の健康に対する影響は非常に小さいということができます。
●濃度を管理した上で放出 (2023年09月23日配信)

原発事故でできた燃料デブリを冷やすために使われた水が、さまざまな種類の放射性物質を含んだ「汚染水」となります。加えて、雨水や地下水が混じり合うことで、新たな「汚染水」が発生します。

「処理水」とは、さまざまな理由で発生した汚染水を複数の設備で浄化した後、敷地内のタンクに保管している水のことです。トリチウムだけでなく、トリチウム以外の多くの放射性物質全てを規制基準以下まで浄化したものになります。

汚染水は、原発事故が起こったため生じています。その一方で、トリチウムおよび他の放射性物質が含まれているかもしれない水は、通常に稼働している原発でも生じています。

原子炉では、核分裂によって生じた熱で水を沸騰させ、蒸気でタービンを回して電気を作るわけですが、この蒸気は冷やされて水に戻された後、再度沸騰させられてタービンを回す、というサイクルを繰り返しています。

このような発電のプロセスで使われた水にはトリチウムをはじめ、いくつかの放射性物質が含まれる可能性があります。そのため、検査され、基準以下であることを確認された後、海洋に放出されていました。

もちろん、汚染水自体の放射性物質の濃度と、通常に稼働している原発でできる放射性物質を含む水の中の放射性物質の濃度は異なるでしょうが、その後、汚染水は処理水となります。処理水と、通常に稼働している原発から放出される水はともに濃度管理がなされた上で放出されています。
●周辺の生物に濃縮しない (2023年09月30日配信)

廃炉作業が進められている原発周囲に保管されているトリチウムを含む「処理水」について、国際原子力機関(IAEA)からの報告書を参照し、これまで説明をしてきました。

放出された処理水にはトリチウムが含まれるわけですから、海水で薄まるとはいえ、そこで生息する魚などにトリチウムが濃縮してたまるのではないかと心配される方もおられると思います。

結論としては、魚などへのトリチウムの濃縮を危惧する必要はありません。

一つの実験として、トリチウムがそれなりに含まれている海水の中で、ヒラメを飼う実験が行われました。そのヒラメは、トリチウムが含まれる海水の中で生活するわけですから、ヒラメの体内のトリチウム濃度は上昇します。しかし、ヒラメの体内のトリチウム濃度は、実験で使われている(ヒラメが飼われている)海水のトリチウム濃度より高くなることはありませんでした。

また、ヒラメの体内のトリチウム濃度は、時間がたつと一定となり、どんどんと濃度が高くなることはありませんでした。加えて、そのヒラメを通常の海水に戻して飼育を続けると、ヒラメの体内のトリチウム濃度は速やかに下がることが確認されました。

トリチウムは基本的には水の形で存在しています。処理水として放出されたトリチウムは、海水で薄まり、それが周辺の生物に濃縮していくという状況ではありません。

 

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