最新記事一覧

Vol.24117 日本の医療は定額パケ放題で持続可能なのか?

医療ガバナンス学会 (2024年6月18日 09:00)


■ 関連タグ

この原稿は6月15日発行の茨城保険医新聞に掲載されたものです
https://www.ibaho.jp/news-paper

坂根Mクリニック
坂根みち子(茨城県保険医協会理事)

2024年6月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

崩壊の足音が聞こえる 〜ビジョンなき診療報酬改定〜

診療報酬改定で医療現場が大変なことになっている。明らかな減額改定であり、加えて改定に伴う事務作業と書類作りが半端ないのだ。
例えば、生活習慣病(高血圧・脂質異常症・糖尿病)管理加算の区分変更は、Dxに逆行する書類の作成と患者の自署を求める作業とセットであり、それを行ってもなお減額される。書類の作成と説明に取られる時間はむしろ患者に向かい合う時間を奪う。働き方改革にもDxにも逆行する悪手としか言いようがない。
NHKの日曜討論で診療所にはもっと頑張って欲しいとDxを連呼された武見厚労大臣、そしてこの改定を「診療の質が上がる工夫をした」と言った眞鍋馨・厚労省保険局医療課長には是非現場を見に来ていただきたいものである。work-as-done(実際に現場で行われているやり方)ではなく、work-as-imagined(現場を知らない人達による想像の上での仕事のやり方)で物事を決められると今回のように現場が大混乱する。

そもそも内科診療所を狙い撃ちした今回の診療報酬削減は大臣レベルでの折衝で決まったが、減額の元となったデータはコロナ禍で補助金が付いた2022年のものである。よもやの、頑張った先に「コロナペナルティ」が待っていたとは。コロナ下でバーンアウト寸前まで走り続けた私達医療者は今回の改定で駄目押しされた。現場のモチベーションを下げてしまうことがどれほど国家にとって損失かわかっていないのだろう。

新設されたベースアップ評価料は、この作業に手をつけられた医療機関だけが初診料と再診料をそれぞれ60円と20円上げることを許されるという全くもって筋の通らない理解に苦しむ加算だ。それを使っても医療界の賃上げは2%台であり、しかも医療事務は評価の対象から外されている。さらに「外来・在宅ベースアップ評価料II」は8段階、「入院ベースアップ評価料」は165段階に細分化され、複雑化しているために厚労省は「ベースアップ評価料計算支援ツール」を用意してくれたそうである。うれしくて涙が出そうだ。

人手不足の医療界は、どの医療機関も医療・介護界隈で働く人の給与を上げて労働条件を良くして人を集めたいと思っている。だが、診療報酬は公定価格で決められており、付加価値をつけて+αをもらうことは出来ない。こんな複雑怪奇な方法を取らずとも素直に診療報酬を上げて各医療機関が昇給に使ったかどうかだけ報告させれば済む話であろう。

ゆっくり考えて患者と話し合って治療方針決める。見逃しがないように全ての検査データや報告書をじっくり読んで医療安全にも配慮する、つまり「必要な人に必要な医療を」届けるには一人当たりの診療時間と診療報酬をあげなければ成り立たない。筆者が以前視察に行ったスウェーデンでは、プライマリーケアで一人の医師が2000人の国民を担当し、毎日の外来は15、6人で、再診に一人30分かけていた。日本の1回当たりの外来医療費は、OECDの中で最低レベル、年間の受診回数は飛び抜けて多く、結果としてダントツの薄利多売型の医療システムとなっている。
https://www.jmari.med.or.jp/download/RE077.pdf ( p28 )
外来診療は量から質への転換をしなければならないのは明白であろう。

さらに日本では専門医としての評価が診療報酬に反映されておらず、病院で専門的な治療のしている医師たちの外来再診料はたったの750円であり、同日に多科受診すると2科目は380円、3科目からは再診料を算定できないという信じがたき設定になっている。理由はない。慣例でそのようになっているだけだ。随分人を馬鹿にした話ではないか。しかも多くの勤務医はそんなことさえ知らない。文句を言われないのをいいことに仕事に見合った対価を支払っていないのである。
さらに専門性の高い疾患に罹患している患者を大病院から専門医を併せ持つ開業医が引き継いでも、生活習慣病や特定疾患がなければ、やはり再診料の750円しか算定できないという矛盾が生じている。日本の開業医の多くは専門医としての勤務医を経て開業している。それが評価されず、かかりつけ医としてまとめてみる「定額パケ放題」へと誘導されつつあるのである。

2年に1度、いとも簡単に経営の基盤をいじられて日本中の医療現場が右往左往している。グランドデザインなき場当たり的な改定が繰り返されては、安心して医療に取り組むことが出来ない。医師の技術料を評価せず、「加算」に踊らされるのは御免である。適正な価格がなければ持続可能な医療システムとはならない。医療者はこのことにもっと怒らなければいけない。

 

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ