医療ガバナンス学会 (2024年6月21日 09:00)
新型コロナウイルス感染症(COVID―19)が感染法上の5類感染症へ移行されて1年。社会が落ち着きを取り戻した今こそ、新たな感染症パンデミックに襲われる前に、緊急避難的に承認され使われ続けてきたmRNAワクチンの安全性と費用対効果について、一度立ち止まって総括すべきではないでしょうか。
※この文章は、『ロハス・メディカル』vol.169(2024年夏号)(https://lohasmedical.jp/e-backnumber/169/#p=1)に掲載された記事の抜粋です。
2024年6月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
内容をかいつまんで紹介すると(無料の会員登録をすればwebで全文を読めます。グラフも付いていて分かりやすいので、ぜひ、ご一読を)
〇新型コロナウイルスの我が国の人口当たり新規感染者数と死亡者数が、第7波(日本では22年7月から)と第8波(同22年10月から)で、世界でも突出して多かった。
※編集部注 23年5月の5類への変更以降、我が国では全例集計をしなくなったため比較できなくなりました。なお、第6波(同22年1月から)までは、世界の平均に比べて人口当たり新規感染者数も死者数も我が国は概ね少なく推移していました。
〇一方、我が国のCOVID―19ワクチン追加接種率はダントツで世界1位だった。
〇このような不整合がなぜ起きたのか、23年4月に米・クリーブランドクリニックから『Open Forum Infectious Diseases』誌へ報告された論文が参考になるかもしれない。それによると、ワクチンの接種回数が多いほど罹患リスクも高い傾向が認められた。全く予想外の結果だったことから、筆者たちは様々な検討を行ったものの、最終的に「今回の結果はそのまま受け取るしかない」との結論に至った。このような結果に至った原因として筆者たちは、①免疫の刷り込みの影響②IgGのクラススイッチの影響の2つの可能性を挙げている。
〇論文に書かれていない機序として、自然免疫の抑制が起きた可能性も考えられる。
というものでした。
内容は衝撃的ながら、薄々そんな気がしていたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
新規感染者の全例集計がなくなってからも定点当たり報告は続けられており、その推移から、我が国は夏に第9波、冬に第10波と定期的な流行に襲われていたことが分かります。同じ期間の世界の傾向から見ても、COVID―19に対して弱過ぎます。
世界で最もワクチン接種をしているのに、世界でも突出して感染者を出しているというのでは、ワクチンの効果に疑念を持つのは当然です。そもそも3回目以降の追加接種に関して感染予防や重症化予防の科学的根拠は当初から乏しく、その必要性に関する考え方は世界でもバラバラでした。
●治験人数や追跡期間 不十分を承知で承認
こうしてワクチンのメリットが怪しくなってきたのを知ると、当然そのリスクも気になってきます。
で、「新型コロナウイルス感染症予防接種」によって健康被害を受けたとの申し出は24年5月20日現在で累計1万1千件を超え、うち救済認定が7354件(否認1746件)、亡くなった方に限っても593件認定(否認は204件)されており、審査の済んでいない死亡例が554件となっています。23年度当初予算で3億6千万円だった被害救済のための費用も、24年2月の補正予算で何と110倍の397億7千万円が追加計上されました。
厳密な医学的因果関係がなくとも救済される仕組みとは言え、さすがに多過ぎる気はします。
これに関して武見敬三厚生労働大臣は2月13日の記者会見で問われ、「PMDA(編集部注・医薬品医療機器総合機構)の審査及び薬事・食品衛生審議会の審議を経て、その品質や有効性及び安全性を確認した上で薬事承認され」ており、認定件数だけを単純に問題とすべきでないと答えています。
であればこの状況は、PMDAにとって承認時から想定内だったのか、審査報告書の記述を確認してみると、決してそのようには読めません。
『コミナティ筋注』の初回承認に対しては「ベネフィットを踏まえると安全性は許容可能」と書かれており、それ以降は判で押したように「安全性について重大な懸念は認められておらず、許容可能」と書かれています。
そもそもCOVID-19のワクチンは特例承認か緊急承認かされており、治験の組み入れ人数や追跡期間が通常のワクチンよりも極めて少なく判断材料は足りないけれども、「許容可能」との判断だったわけです。
COVID-19の蔓延当初、少なくない国民がワクチン接種を望んでいたこと、22年初頭までの感染者数が世界平均より少なく済んでいたことは事実であり、当時の当局の判断を責めるのはフェアでないでしょう。
しかし、今となっては踏まえるようなベネフィットが果たして存在するのか怪しくなってきており、多くの健康被害救済申し立てがなされていることからも、「許容可能」と言い続けるのは無理があります。
22年半ば以降ワクチン接種に注ぎ込まれた公費の多くが無駄ガネとなった可能性もあり、次の感染症パンデミックの際もっとスマートに対応するためにも、社会に余裕があるうちに総括すべきです。
なお新規承認される医薬品には再審査期間というものが設けられており、その期間が過ぎれば有効性と安全性の再確認は行われる仕組みなのですが、「新有効成分含有医薬品」のCOVID-19ワクチンは期間が原則8年で、このままでは29年まで総括されません。使用事例が少ないと検証不能なのでデータが集まってから再審査という考え方を、何億接種もされた今回に当てはめて8年待つ必要はないでしょう。
●ドサクサの緊急承認 自己複製型ワクチン
さて今回、COVID―19のmRNAワクチンを総括すべしとわざわざ提唱するのは、20年からの一連のパンデミックを経て、厚労省が次回以降の感染症パンデミックの際にも留保なくmRNAワクチンを使う前提で動いているように見えて、とても気になるからです。
3月、厚労省(課長)から都道府県(部長)宛に「『感染症予防ワクチンの非臨床試験ガイドライン』について(改訂)」と「『感染症予防ワクチンの臨床試験ガイドライン』について(改訂)」という文書が発出されました。
2010年につくられた2つのガイドラインは当初、適用範囲が「発現プラスミドやウイルスベクターを有効成分として含む製剤には適用されない」となっていました。それが今回の改訂によって「ウイルスや細菌の遺伝子を組み換えたワクチン」と「発現プラスミドDNAを有効成分とするワクチン」にも適用されることとなりました。
通常の医薬品として遺伝子を人体へ投与するには、遺伝子ごとに安全性を確認する必要があります。遺伝子によってコードされるタンパク質が異なれば、体への影響も違うに決まっていますから当然の話です。しかし、これが感染症ワクチンとして扱われると、同じ疾病を対象にしている限り、遺伝子が変わっても安全性の確認を簡略化することが想定されます。季節性インフルエンザのワクチンなど、含まれる抗原は毎年微妙に異なりますけれど、その安全性をイチイチ厳密に調べていたら流行に間に合わなくなるので、同じ病原体由来だし問題なかろうと運用されてきたからです。
そしてです。後発のはずなのにPMDAから、『コミナティ』の初回承認の際と同じ文言の「認められたベネフィットを踏まえると安全性は許容可能」と第一陣承認のような書き方をされていていたものがあります。23年11月緊急承認の『コスタイベ』です。この表現には、担当者気なりのメッセージが込められていると考えるのが自然です。
どんなメッセージを読み取ればよいでしょう?
はい実はこれ、日本以外には承認されていないsa-mRNAという新しいタイプのワクチン(レプリコンワクチン)なのです。スパイクタンパクのmRNAが体内で複製されるために薬液が少なく済み、副反応軽減を期待できるだけでなく、大規模変異があったとしても全国民に行き渡らせるだけのワクチンを短期間で準備できるというのが謳い文句です。
ただ、スパイクタンパクのmRNAに加えてRNA複製酵素をコードするmRNAも含まれており、普通に考えれば改めて安全性を突き詰める必要があったはずです。しかも23年11月と言えば5類移行の半年後ですから、「緊急時」でも何でもありませんでした。それなのに大きな議論はなく緊急承認されました。
今のうちにmRNAワクチンへの総括をしないでいると、次の感染症パンデミックが起こった際、その病原体由来のmRNAを搭載したレプリコンワクチンが「緊急承認」されて、日本人にシレっと使われるのでないかと危機感を覚えます。それは私たちが大規模な人体実験台とされることに他なりません。