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Vol.24125 能登半島地震とクスリの継続 (薬のおカネを議論しよう 第109回)

医療ガバナンス学会 (2024年7月1日 09:00)


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この記事は医薬経済2024年3月15日号に掲載された記事を改変したものです

医療ガバナンス研究所医師
尾崎章彦

2024年7月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

災害時の処方継続を支援する仕組みが整いつつある。2月28日から3月4日まで、能登半島地震の被災地に支援活動に入り、実感したことだ。今回の災害は有史以来、最も高齢化が進行した地域で発災した大規模災害と言える。奥能登の高齢化率は極めて高く、筆者が滞在した輪島市の21年の65歳以上人口割合は45.7%に達している。東日本大震災で被災した福島県沿岸部、例えば南相馬市の65歳以上人口割合は当時26.6%だった。今回の被災地域の高齢化がいかに進行しているかが窺い知れる。

高齢者は糖尿病や高血圧など慢性疾患を抱えていることが多く、災害時に彼らが切れ目なく服薬を継続できるようサポートすることが重要だ。実際、11年の東日本大震災や05年のハリケーンカトリーナ(米ニューオーリンズ)など、過去に起きた大規模災害でも慢性疾患における薬剤継続が常に課題となった。東日本大震災では筆者らも現地に入り、以来診療・調査に関わってきたので、「避難所で薬がなくなり、現地で医療機関を探し、処方してもらった」といった声を多く耳にしてきた。

それが今回の災害では、患者が緊急的に薬を受け取ることができる仕組みが2つ存在した。

ひとつは、医師の処方箋なしに薬を処方する方法だ。厚生労働省は1月2日、今回の地震で被災した住民が、医師の出した処方箋を持っていなくても薬を受け取れるよう通知を出している。医師の診察が難しい場合、「お薬手帳」や薬の包装などから処方を推定し、医師への確認を事後的に行うことを条件に、薬局で薬の処方を認めた。同通知は東日本大震災のときにも出ていたが、被災地で仕事をしていた薬剤師によると、「周知が不十分だったかもしれない」とのことだ。

もうひとつは、「災害処方箋」である。これには筆者も滞在中、何度かお世話になった。災害処方箋は災害救助法が適用になった被災地で利用可能な仕組みであり、具体的には、保険医療機関でない救護所や避難所でも、DMATやJMAT、その他支援に入っている医師から処方箋を受け取ることを可能にしている。調剤は通常の薬局に加えて、車などで現地に入ったモバイルファーマシーで実施し、患者の元まで届けるケースもある。

筆者が滞在した輪島市の福祉避難所では、抗生剤や鎮痛剤、下剤などが一式ストックされていた。ただ、ストックのない薬剤を処方する場合や、避難者が日頃内服している薬剤を処方するケースでは、災害処方箋を利用した。定期薬を処方することができた高齢の避難者さんには、「助かった!」とずいぶん感謝された。

いずれの仕組みも、自宅の損傷や世帯収入の減少など明らかな震災の被害がない住民には、通常の費用が請求される。「震災当初は支払いを保留にしていたが、現在は厚労省の通知に基づき、過去に遡って請求を進めている」という地元の薬局もあった。役所からは「どちらの措置も徐々に終了するようにとの通知がきている」という。

市立輪島病院では1月22日から外来診療が、2月5日からは入院診療が再開され、市内を巡回する無料バスも運行を開始した。医療機関の受診と定期的な状態観察を促すためにも、緊急措置終了へと向かう判断は、一見妥当にも感じられる。ただ、福祉避難所での活動経験を踏まえると、もう少しきめ細やかな対応が行われるべきだろう。高齢者を中心に、医療機関や薬局まで周囲の支援なしに出向くことの難しい方々は多い。

2ヵ月経過した現在でも、倒壊した建造物やボロボロになった道路が目立つ。高齢者などに、どのような形でどの程度の医療や介護を提供していくのが妥当か、個別に検討していくことが重要だ。住民の帰還が進むなか、健康状態の悪化が復興の妨げにならないよう慎重な対応が必要だ。

 

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