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Vol.24133 安全性がおざなりにされた医療保健製品 薬のおカネを議論しよう(第113回)

医療ガバナンス学会 (2024年7月11日 09:00)


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この記事は医薬経済2024年5月15日号に掲載された記事を改変したものです

医療ガバナンス研究所 医師
尾崎章彦

2024年7月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

このところ世間を賑わせている小林製薬の紅麹問題。4月7日現在、紅麹に関連して、3000人余りが健康被害を訴えており、212人が入院し、5人が死亡したと報告されている。

問題の本質を考えるに当たって示唆に富む報告が、米国からタイムリーに上がってきた。

24年5月2日に出版された米国医師会雑誌に、「ヒト由来細胞・組織、また、それに基づく医薬品における承認プロセスの迅速な見直しの必要性」という論説が掲載された。米アジヨ・バイオロジクスが販売したヒト由来の骨基質が、結核菌で汚染されていたケースを取り上げたものだ。

驚くべきことに、21年に同製品を使用した113人のうち87人(77%)に結核のアウトブレイクが起きた後、23年にも36人で結核感染が指摘されている。

なぜ短期間に、結核のアウトブレイクが続いたのか。最大の理由は、米国食品医薬品局(FDA)の承認体制にある。

実はFDAでは、「ヒト由来細胞・組織、また、それに基づく医薬品(HCT/P)」(具体的には、骨グラフと、皮膚グラフと、幹細胞など)の審議プロセスは、通常の医薬品や生物学的製剤と異なっている。驚くべきことにHCT/Pは、薬事承認に臨床・臨床前データが必要ない。結果としてHCT/Pは、臨床的意義が不明な状態のまま広く使われている。
同様に、FDAがHCT/Pについて定めた安全基準も杜撰だった。通常の医薬品や生物学的製剤では市販前後で厳密な安全性調査を実施する必要があるが、HCT/Pでは同様の基準はない。

当該製品の対応も杜撰だ。21年のアウトブレイクを受け、PCR検査で結核の存在を調べるようになったという。しかし使用された検査キットは、喀痰のPCR検査についてFDA承認を受けているに過ぎず脊椎カリエスについて承認は受けていなかったという。

この事例を受け、米国では、HCT/Pにおける結核のスクリーニングと、より包括的にHCT/Pの管理を強めるための法案の策定が進められているという。

さて、これを踏まえて今回の紅麹の事例を見ていきたい。

紅麹は、「機能性表示食品」として販売されていた。これは、「事業者の責任で、科学的根拠を基に商品パッケージに機能性を表示するものとして、消費者庁に届け出られた食品」をいう。

よく比較されるのが、「特定保健用食品」いわゆる「トクホ」だ。トクホは91年、生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含む食品に、国がお墨付きを与える制度として生まれた。有効性や安全性について国が個別に審議を行い、消費者庁長官が許可を与える。このお墨付きを得るハードルの高さから、15年、手続きを簡素化した機能性表示食品制度が始まった。

機能性表示食品市場は拡大を続け、22年の売り上げは前年比24・0%増加の5462億円となった。経済的観点から保健食品を盛り上げる目論見は成功していると言っていい。その一方、安全性がおざなりにされてきた面はないか。

もちろん今回紹介した両事例とも、一義的には企業側に責任がある。だが、国や業界が適切な仕組みづくりに努めていれば、被害の発生や拡大は防げた可能性がある。

人の健康に関わる分野で、安全性が経済性に劣後するケースは枚挙に暇がない。だが、安全性を蔑ろにすれば、結局のところ破綻は必至だ。この当たり前の事実に、今一度真摯に向き合う必要がある。

そして、最後に強調したいのが、現場の役割だ。詳細は紙幅の都合から割愛するが、両事例とも患者を診察した医師からの報告が問題発覚につながっている。私も医師の端くれとしてゲートキーパーの役割を果たせるよう気を引き締めたい、そのように感じた。

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