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Vol.24159 歴史を学び現代社会と繋げる

医療ガバナンス学会 (2024年8月21日 09:00)


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櫻井裕太

2024年8月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

先日、私は医療ガバナンス研究所のインターン生として、光照院の吉水住職にご案内をしていただき、山谷めぐりに行きました。 この日はとても暑く電車から降り集合場所に向かうほんの数分の間なのに背中には汗がびっしょりでした。ですがそんな暑さの中私を待っている吉水さん(吉水岳彦住職)を見たら暑さがなくなりました。

そして吉水住職と軽い挨拶を交わした後に山谷案内の厚いパンフレットと手作りの山谷地図手拭いをいただき、こんなにも準備をされ私たちを歓迎してくださっているのだと思い感激しました。

最初に、山谷の歴史について教えていただきました。そして江戸時代から明治時代初期にかけて小塚原処刑場があった回向院、延命寺にご案内していただきました。回向院は、江戸時代の処刑場跡地に建てられた浄土宗のお寺で、寛文7年(1667年)に開創されました。著名人の墓所には吉田松陰や橋本左内、ネズミ小僧があり、住職のお話では、ある日、日本酒を持った二人組が鼠小僧のお墓に日本酒をかけてお寺なのに手を二回叩き去って行ったというエピソードを聞き泥棒の聖地でもあるのだと知りました。個人的にはその2人がどんな盗みをするのかが気になります。

そしてもう一つの延命寺では、もともと小塚原回向院の一部として存在していましたが、明治28年(1895年)に土浦線(現在のJR常磐貨物線)の敷設工事が行われた際、線路で分断され、その結果、昭和57年(1982年)に線路の南側部分が独立し、延命寺として新たに開山されたとのことです。

そして、内には高さ4メートル近くもある大きな首切り地蔵としても知られる延命地蔵尊があり、この地蔵尊は、江戸時代に小塚原刑場で刑死した人々の霊を弔うために、寛保元年(1741年)に建立されました。吉村さんから当時の発願者の名前が台座に刻まれているとの説明をうけました。元々この地蔵尊は、元々南千住貨物線の線路南側にありましたが、鉄道の敷設工事に伴って現在の場所に移されたそうです。そのために延命寺という名称も、この地蔵尊に由来しているようです。

最後に吉水さんより小塚原刑場の説明がありました。小塚原刑場は、江戸時代に品川の鈴ヶ森と並んで江戸近郊の主要な刑場として使われており、はりつけや獄門、火罪、斬罪などが行われました。広さはおよそ2000坪に及び、ここで20万人以上が処刑されたと言われています。

この刑場は明治6年に廃止されましたが、その歴史の中で多くの命が失われました。罪人の命でありながらもこのような立派なお寺と地蔵尊がたった背景には、浄土宗の深い教えが関わっているのだと思います。浄土宗は、阿弥陀仏の慈悲によって、すべての人が救われると説く宗派です。この教えは、たとえ罪を犯して命を落とした者であっても、仏の慈悲によって救いの手が差し伸べられるべきであるという信念に基づいております。

そのために、小塚原刑場の跡地に建立された回向院や延命寺は、刑死した者たちの魂を慰めるために存在しており、特に延命地蔵尊は、罪人たちの無念や苦しみを鎮めるために建てられ、彼らの魂が迷うことなく成仏できるようにとの願いが込められているのではないでしょうか。

また、山谷を巡る中で見た風景は何か過去にタイムスリップしたような懐かしさと安価な宿泊施設が多くドヤ街ということを感じさせます。また山谷にいる人々は皆、比較的高齢であり体のどこかを痛めているような方が多かった印象でした。ここが日本の資本主義の最下層を支えてきた方、今も支えつづけている方が生活されている場所なのだと歩きながら感じました。

特に私が印象に残ったのは、吉水さんが理事をされているきぼうの家という場所の説明の際に、吉水さんがおっしゃった「死は平等なのでここではマリア様も仏様も一緒に置いています」という言葉です。この吉水さんの言葉から、宗教や信仰の垣根を超えて、全ての命は平等であり敬意を持って接することが大事なのだと学びました。

私の実家は霊園の管理、開発の商売をしており普段から生と死の問題や哲学的なことに考え耽ることが多い環境で育った私は、すべての命は平等であり、どんな命でも分け隔てなく敬意と愛情を持って接するべきであると考えています。そんな私にとって、吉水住職の「死は平等なのでマリア様も仏様も一緒に置いています」という言葉は非常に深い意味を持ちました。

また、今回の訪問では医療と福祉の視点からも多くのことを学ぶことができました。山谷の住民の多くは住民票がないためにワクチンや他の医療サービスを受けることが困難な方々が大勢いらっしゃいます。このことに対して吉水さんは、(住むところがないからワクチンが打てないという人をそのまま放っておくのか、私たちとは関係がないと言って救える命を見捨てるのか、何か自分にもできることがあるのではないのか、)とおっしゃいました。

私自身この言葉に重みを感じ、そして、これは単なる問題提起ではなく、若者がこのような問題に対してどのように取り組むべきか、すべての人が必要な医療と福祉を受けられる社会を築くためにどのような努力が必要かを深く考えるきっかけとなりました。私はこれからも、このような社会を実現するために、できる限りの努力をしていきたいと強く思います。

私は今回の体験を通じて、歴史の重みと現代社会が抱える課題が交錯する現場に行くことができ、たくさんのことを学ぶことができた。そして、吉水住職の言葉や行動から、命の平等や尊厳の大切さを改めて考えさせられ、宗教や信仰の違いを超えて、すべての命に対して敬意を持つことの重要性を強く感じた。また、山谷に住む人々が抱える医療や福祉の問題に直面し、自分が今後どのように社会に貢献できるのかを真剣に考えるきっかけとなった。これからも、命の尊さを意識しながら、自分にできることを探し、実行していきたいと思う。

●吉水住職(吉水岳彦)
吉水岳彦住職は、東京都台東区清川にある浄土宗光照院の16代住職です。1978年生まれ。

現職
•浄土宗光照院住職
•ひとさじの会事務局長
•為先会副代表
•臨床仏教研究所上席研究員
•非常勤講師(大正大学、淑徳大学、上智大学グリーフケア研究所、東京慈恵会医科大学)

社会活動
•2009年、若手浄土宗僧侶有志と「社会慈業委員会ひとさじの会」を発足
•ホームレス状態の人や身寄りのない人の葬送支援
•浅草・山谷・上野地域での炊き出しや夜回り
•東日本大震災被災地支援
•2016年から病院のスピリチュアルケアワーカー
•2017年、浅草山谷に「こども極楽堂」を開設し、子どもの居場所支援を実施
著作
•『浄土宗の教えと福祉実践』(共著)
•『「臨床仏教」入門』(共著)
•『霊芝元照の研究―宋代律僧の浄土教』(単著)
•『お袖をつかんで』(単著)
櫻井裕太
天理高校に野球留学するも2週間で自主退学。
その後約1年間の語学留学をした後、去年の秋よりカリフォルニアのボーデングスクールに入学。

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