医療ガバナンス学会 (2024年8月26日 09:00)
この原稿は福島民友新聞『坪倉先生の放射線教室』からの転載です。
福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授
坪倉正治
2024年8月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
今回の原発事故をきっかけに、防災対策の範囲だけではなく、災害発生時の避難の方法についても変更がなされました。その大きなものの一つは、「屋内退避」を重要視している点でした。
通常、「避難」という言葉を聞くと、それはその場所から離れ、遠くに逃げることを連想される方が多いと思います。確かに、地震や火災、津波のような災害の場合、今いる場所が危険なので、そこから遠くに逃げることを避難と呼びます。
しかし、避難という言葉の意味は、遠くに逃げることだけを指しません。難を避けることが、避難です。災害が起こっても、そこにとどまることが安全であるなら、その場所から動かないことを避難と呼びます。洪水で建物の1階が水没したときに、同じ建物の2階に逃げることを垂直避難と呼びます。
原子力災害の場合も、屋内退避というのは結局のところ、自分の家にとどまることを指します。遠くに逃げないので、それは避難ではないと思われるかもしれませんが、そうではありません。今回の原発事故の教訓から、大きな事故であっても、特に要配慮者の場合、遠方への避難よりも屋内退避という、自分の家にとどまるという避難が優先される場合があることが強調されるようになりました。避難という言葉の意味を少し広く持っていただきたいと思い、解説をしました。
●適切な屋内退避、議論続く( https://www.minyu-net.com/news/detail/2024030919205 )2024年3月9日配信
今回の原発事故をきっかけに、防災対策の範囲だけではなく、災害発生時の避難の方法についても変更がなされました。大きなものの一つは、「屋内退避」を重要視している点です。
屋内退避は結局のところ、自分の家にとどまることを指します。遠くに逃げないので、避難していないと思われるかもしれませんが、そうではありません。難を避けることが避難であり、災害が起こっても、そこにとどまることが安全であるなら、その場所から動かないことを避難と呼ぶのでした。
ただ屋内退避を重要視はしているものの、有事の際、どのタイミングで、どのくらいの期間、屋内退避を行うべきなのかについては、まだまだ課題があります。
この屋内退避は、原発事故によって放射性物質が飛んでくるような場合、家の中にとどまり、室内に放射性物質が入ってくるのを避け、放射線をたくさん浴びるのを避けることを主な目的としています。プルームが飛んできた際の内部被ばくの軽減が主たる目的です。
そのため、放射性物質が飛んでくるかもしれないタイミングに合わせて屋内退避する必要がありますし、いつ飛んでくるか分からないからといって、家の中にずっと閉じこもって何週間も全く外出しないというわけにもいきません。
事故は起こってはいけませんが、前もってどの程度まで決めておくべきか、どのような方法がベストなのか議論が続いています。