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Vol.24167 オレンジキッズケアラボのコミュニティと専門性が作るゼロイチ体験

医療ガバナンス学会 (2024年9月3日 09:00)


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医療法人社団オレンジ
オレンジホームケアクリニック 医師
小坂真琴

2024年9月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

8月上旬、20年以上ぶりに海水浴場に行った。福井市鷹巣の海水浴場でオレンジキッズケアラボ(以下ケアラボ)のイベント・「シーラボ(Sea lab)」にスタッフとして参加するためだ。シーラボは、ケアラボに通う医療的ケア児(以下ケア児)とその家族たちが、集まって海水浴に行く夏恒例のイベントだ。当日は快晴に恵まれた。

http://expres.umin.jp/mric/mric_24167-1.pdf

オレンジキッズケアラボは児童発達支援・放課後等デイサービス・生活介護などを行なっている施設である。特徴は、グループ内に医療機関(医療法人社団オレンジ)があり、連携が密に行われていることだ。全国的には、療育や発達支援の施設はケア児の家族が主体となって立ち上げているケースが多いが、ケアラボは在宅医と連携することで、経管栄養や喀痰吸引、人工呼吸器管理といった医療的処置が必要な子どもたちまで幅広く受け入れている。

設立当初から運営に関わる戸泉めぐみさん(代表理事)によると、最も大事にしているのは「本人を主語にして、家族と一緒に伴走できる」施設であることだ。
本人を主語にすることを徹底し、様々なレベルのケア児を受け入れるため、ケアラボでのケアは基本的に1対1で行う。同時に、ケアのみにとどまらず、本人が地域の学校や保育園に通うことが大事だと判断すれば、学校との話し合いにも第三者の専門家として参加し、「ドクターゴー↔︎ドクターストップ)」をかけることで通園・通学を実現してきた。
また、家族と伴走するためには、退院時から関わり始め、「最初に多めにサービスを利用してもらうことが重要だ」(戸泉さん)という。一昔前は重症の子どもが家に帰る時には「お母さんが医師も看護師もしないといけない、頑張るように」と言われていたそうだ。しかし、一度家族でケアが完結してしまうと、その後に改めてサービスを利用して専門家に頼るのはハードルが高いという。ケアラボの関わりは、医療部分を専門家が担い、家族を家族としての関わりに近づけることとも言える。

ケアラボを始めた頃、戸泉さんは福祉分野の第一人者から「歩行も難しければコミュニケーションも難しい、さらには医療的な処置も常時必要としている。そういう意味では、普通から一番離れた外側にいる子どもたち。でもその一番外側に線を引きなさい」と言葉をかけられたそうだ。「一番外側に線を引くというのはつまり線を引かないということ。線を引かないと決めてしまったのは楽でした。全て受け入れるということが決まった上でどう実現できるかだけに集中できたから」(戸泉さん)と振り返る。

話を冒頭に戻そう。海水浴に行くシーラボが始まったきっかけは、ケアラボに通うケア児の家族が海の家を運営していたことだった。ケアラボからの帰りがけにお母さんが「毎年家族で海の家に行くけど、この子は呼吸器もあってなかなか行けないから」と話したことでケアラボのスタッフに火がついた。「医療的ケア児だから行けないと決めつけるのはおかしい。」そこでケアラボのスタッフが付き添いでそのケア児の海水浴に同行した。以降、それが定期的なイベントとなって他のケア児と家族も参加するようになった。私が参加した今年は12人のケア児とその家族が参加し、そのうち3人はオレンジの施設「ほっちのロッヂ」がある軽井沢からの参加者だった。

http://expres.umin.jp/mric/mric_24167-2.pdf

興味深いのは、福井からの参加者の一人のお母さんが、「自分は海の匂いが苦手で、家族で行こうという考えはなかった。でもケアラボでのイベントがあったから参加することにした。」と話してくれたことだった。福井県は海に面しているが、「海に接しているため特別感や憧れはないが、それほど近くもない」(オレンジスタッフ)ためか、福井県は「海への愛着スコア」で海あり県としては最下位の44位だった(1)。そして海に遊びに行く習慣があるかどうかは家族ごとに全く異なる。つまり、ケアラボというコミュニティの中に海の家に関わる人がいたからこそ、多くのケア児とその家族が海水浴の体験をできたと言える。その点、20年以上ぶりに海水浴場に足を運んだ筆者もその恩恵を受けた一人だ。

筆者は、2019年にケアラボが主催した全国8組の医療的ケア児とその家族がディズニーランドに行くイベント・「医療的ケア児とディズニーに行こう」の参加者にインタビューを実施した(2)。その際、「他者に頼ってもいいという感覚が得られた」と答えた保護者が多かったのが印象的だった。医療的ケア児の保護者の社会的孤立感は海外の論文でも議論されている(3)が、こうしたイベントを通じて、他者への信頼感を高めることで孤立感の改善につながる可能性もある。ケアラボでは年々イベントが増え、今年は海水浴、夏祭り、夜のイベント、気球搭乗体験、キャンプ、卒園旅行…と目白推しだ。そして「イベントへの参加率は非常に高い」という。ケアラボがコミュニティとして重要な役割を果たしていることが窺える。

関わるケア児・家族・スタッフがコミュニティとして繋がるからこそ新たな機会に目が向き、「線を引かない」というマインドセットを持つ専門家がその挑戦をバックアップする。ケアラボは、この組み合わせで今年も次から次へと新たなゼロイチ体験を切り開いている。

参考文献
(1)日本財団『「海と日本人に関する意識調査について」』https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2022/07/new_pr_20220715_01.pdf
(2) Kosaka M, Kotera Y, Masunaga H, Bhandari D, Miyatake H, Nishikawa Y, Komori N, Ozaki A, Beniya H. Emotional impacts of excursions on parents of children with medical complexity. Pediatr Int. 2023 Jan-Dec;65(1):e15683. doi: 10.1111/ped.15683. PMID: 37969062.
(3) Caicedo C. Families with special needs children: family health, functioning, and care burden. J Am Psychiatr Nurses Assoc. 2014 Nov-Dec;20(6):398-407. doi: 10.1177/1078390314561326. Epub 2014 Nov 26. PMID: 25428686.

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