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Vol.24166 ボストン・ウェルネス通信その12 GLP-1受容体作動薬、長期的な成功の鍵

医療ガバナンス学会 (2024年9月2日 09:00)


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米国ボストン在住内科医師
大西睦子

2024年9月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

先日30代前半男性Bさんに、GLP-1受容体作動薬についてのカウンセリングを行いました。

Bさんは、もともと体育会系男子。以前は野球、アクションスポーツなどさまざまな運動をしていましたが、現在はゴルフとウォーキングを少々。責任感が強く、物事やると決めたら最後までやり遂げる性質です。

ただし社会人なり20代前半頃から生活が一変。Bさんは「毎日5時に起床し終電を利用していました。そのため好きな運動ができず、食べ過ぎ、飲酒量が増えて体重が増えました。睡眠時無呼吸症候群が悪化して、日中眠くて、ストレスがたまりました」といいます。

そんな状況で、主治医から、1ヶ月前にGLP-1受容体作動薬の処方を受けたそうです。すると「1ヶ月後には過食が減り、体重が3〜4キロ減りました。さらに飲酒が1日平均ビール3杯からビール1杯(あるいは、ワイン1.5本がワイン0.5本、ウィスキー6杯がウィスキー2杯)に減りました。最近は睡眠の質が高まり、体調が改善しています」とのこと。仕事の調子も良さそうです。

そんなBさん、GLP-1受容体作動薬がよく効いているようですが、長期的にはどうなるのでしょう?

●結局のところ、体重管理は長期的な取り組み

先日、イーライリリー社は、3 年間にわたる SURMOUNT 1 臨床試験の結果「チルゼパチドが糖尿病リスクを最大94%低下」という驚異的なデータを公表しました。またこの研究では、「チルゼパタイドが 3 年間にわたり減量を維持するのに効果的」であることが示されました(1)。

*イーライリリー社のGLP-1受容体作動薬:2型糖尿病治療薬で減量効果のあるチルゼパチド(商品名マンジャロ)、減量のための高用量のチルゼパチド(商品名ゼップバウンド)。ちなみにノボ ノルディスク社のGLP-1受容体作動薬は、肥満治療薬セマグルチド(商品名ウゴービ)、2型糖尿病治療薬で減量効果のあるセマグルチド(商品名オゼンピック:ウゴービよりもセマグルチドの用量が少ない)。

この臨床試験では、前糖尿病と肥満、その他の体重管理の問題を抱える成人 1,032 名が調査(多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験)の対象です。176 週間の治療期間と、それに続く 17 週間の治療休止期間 (合計 193 週間) で評価します。参加者はカロリー制限食、定期的な運動習慣を指示されました。ちなみに72 週時点での解析結果は、2022 年の 医学誌New England Journal of Medicine に報告されています。

チルゼパタイドを投与した参加者は、毎週 5 mg、10 mg、または 15 mg の注射、その他の参加者はプラセボが投与されました。結果、176 週間にわたりチルゼパタイドを投与した参加者は、2 型糖尿病への進行リスクが94% 減少しました。

また、15 mg 投与を受けた参加者は体重が平均約 23% 減少、10mg 投与を受けた参加者は平均約 20% の体重減少、5mg 投与を受けた参加者は平均約 15% の体重減少が見られました。

ただし176週間後にチルゼパタイドの投与を中止した参加者は、体重が戻り始めて、17週間の追跡期間中に2型糖尿病への進行の兆候も見られました。

専門家らは、これらの薬が効果的であることには同意していますが、「イーライリリーの治験における治療後のデータは、減量は長期的な取り組みであるという考えを裏付けるもの」、そして「健康的な食事と定期的な運動による長期的な減量への取り組みを推奨」(2)しています。

さてBさんはカウンセリング後、「今日からランニングをスタートします。ランニング×GLP-1の効果を検証します」と言い切りました。運動習慣を復活させることを決心したようです。まずは無理なくランニングを始めて、長期的な減量と目標体重に達した後の体重維持を目標としました。

●運動や食事で、自然にGLP-1の分泌を改善

まだまだ、身体活動とGLP-1の関係はわからないことが多いものの、短期および長期の運動トレーニングは、GLP-1の分泌を改善することが示唆されています(3)(4)(5)。

また、全粒穀物や野菜のような食物繊維の多い食品は、たんぱく質や健康的な脂肪を多く含む食品とともに、GLP-1の分泌を促進します。例えば、2016 年の報告(6)によると、卵、アーモンド、ピスタチオ、ピーナッツ、食物繊維の多い穀物(オーツ麦、大麦、全粒小麦など)、アボガドなどはタンパク質と健康的な脂肪が豊富にあり、GLP-1 の分泌に役割を果たす可能性があります。

体重管理は長期的な取り組みです。GLP-1受容体作動薬を定期的な運動やバランスの取れた食事などのライフスタイルの変化と組み合わせることで、その効果が高まります。

●GLP-1受容体作動薬、抗生物質発見みたいなインパクト!?

ところで、米フロリダ州の脳神経外科医ブレット・オズボーン博士はFOXニュース(7)に「GLP-1作動薬は現代医学の 「聖杯 」であり、抗生物質発見と同じようなインパクトを世界の健康に与えることが証明されるでしょう」とコメントしています。

最近の研究で、2型糖尿病や肥満だけでなく、驚くほどGLP-1受容体作動薬の効果が次々と報告されています。例えば、GLP-1受容体作動薬は2型糖尿病患者の10種の肥満関連がんのリスクを軽減する可能性が報告されました。

米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部の研究者らが、2024年8月のJAMA Network Open誌に発表した研究(8)は、全米1億1,300万人の患者の電子カルテから得られたものです。そのうち約170万人が2型糖尿病の治療にGLP-1受容体作動薬を使用していました。これらの患者は肥満関連がんの病歴はありません。研究者らは、比較対象として、インスリン治療を受けた患者を調べました。これらの患者も肥満関連がんの病歴はありませんでした。

結果、15年間にわたり、GLP-1受容体作動薬は、この研究で評価された13種の肥満関連がんのうち10種のリスクを大幅に軽減しました。インスリン治療を受けた患者と比較して、胆嚢がん、髄膜腫、膵臓がんはそれぞれ 65%、63%、59% 発症する可能性が低くなりました。さらに、卵巣がんのリスクは 48% 低下し、肝細胞がんのリスクは 53% 低下しました。大腸がん、多発性骨髄腫、食道がん、子宮内膜がん、腎臓がんも、GLP-1受容体作動薬を使用している患者では発症する可能性が大幅に低くなりました。

他、GLP-1受容体作動薬は、心臓発作のリスクを軽減、喫煙やアルコール依存症などの中毒行動を抑える、関節リウマチの再発軽減、パーキンソン病、アルツハイマー病、変形性関節症、非アルコール性脂肪肝疾患などへの効果も示唆されています。

ところで65 歳以上の患者によく見られる問題には、糖尿病、心血管疾患、メタボリック症候群、がん、認知症などがあります。つまり高齢者が肥満を管理することで、それらのリスクを大幅に減らすことができます。それでは・・・

●高齢者はGLP-1受容体作動薬を使うべきか

さて、カイザーファミリー財団の新しい調査(9)によると、今では、米成人の8人に1人がGLP-1受容体作動薬を服用したことがあると答えています。そのうちの約6%が、現在これらの薬のいずれかを服用しています。

ただし、この調査の結果に対して前述のFOXニュースは、「65歳以上の高齢者のうち、GLP-1受容体作動薬を服用したことがある人はわずか9%で、減量目的のみで利用していると答えたのはわずか1%だった」と指摘します。

高齢者が肥満を管理すると、上記の健康へのメリット以外にも、オズボーン博士は同ニュースに「体重を減らすと、可動性が向上し、バランスが良くなり、転倒のリスクが軽減されます」と指摘します。ただし「筋肉の減少やサルコペニアを引き起こす可能性もある」と懸念も示します。実際、ウゴービの減量効果を検証した2021年の臨床試験では、参加者が減らした体重の約40%が筋肉を含む除脂肪体重であることが示されています(10)。

GLP-1受容体作動薬は、高齢者の生活の質も向上させるようです。ただし、定期的な運動やバランスの取れた食事などの生活習慣を組み合わせなければなりません。また、複数の薬を内服している場合、薬剤相互作用のリスクがあります。使用の有無については、医師、専門家に相談しましょう。
(1)https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/tirzepatide-reduced-risk-developing-type-2-diabetes-94-adults
(2)https://www.healthline.com/health-news/mounjaro-zepbound-lowers-diabetes-risk
(3)https://academic.oup.com/jes/article/6/9/bvac111/6650333
(4)https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/japplphysiol.00680.2018
(5)https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/japplphysiol.00239.2018
(6)https://nutritionandmetabolism.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12986-016-0153-3
(7)https://www.foxnews.com/health/ozempic-push-seniors-doctors-say-more-people-age-65-should
(8)https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2820833
(9)https://www.kff.org/health-costs/poll-finding/kff-health-tracking-poll-may-2024-the-publics-use-and-views-of-glp-1-drugs/
(10)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2032183

 

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