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Vol.24169 偶然の連続をつなげる人材になりたい

医療ガバナンス学会 (2024年9月5日 09:00)


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キャピタル高校
アメリカ合衆国 ワシントン州
ドイル仁万

2024年9月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は現在、アメリカの高校に通う3年生(17歳)です。日本では高校2年生ですが、6月生まれなので、アメリカでは1年上の学年になります。

今回、医療ガバナンス研究所でインターンとして参加する背景は「偶然の連続」だと表現できます。私は、高校の心理学の授業で脳科学に興味を持っていました。「それならば、医療系のところで、インターンをしてみてはどうか」というアメリカの我が家を訪問していた女医の向田公美子先生からアドバイスをいただきました。そして、母のラオス駐在時代の知人、高橋謙造先生の奥様という、どう見てもつながらない点、まさに「偶然の連続」が繋げてくれたものとなります。

本研究所でのインターンとしての経験は、医療分野だけでなく、政治・ビジネスなど、多種多様な分野の著名な方との対話にはじまり、日本だけでなく世界のいろんな国で学ばれている他のインターンの大学生や高校生との出会いでした。

私はアメリカ人と日本人とのハーフですが、この私の中の半分しかない「日本」というキーワードで、いろいろな分野の方々と交流できることに驚き、広いネットワークを構築できるプロセスを学びました。まさに、全く関係がないと思いがちな遠い地域や遠い分野の点と点の繋がりが、糸となり、大きなネットワークとして広がっていく経験でした。それは、子供のころ京都少年合唱団で唄った大好きな曲、中島みゆきさんの「糸」という歌を思い出します。

当初、17歳の高校生である私がインターンとして、「私は何ができるのか」という不安がありました。「何ができるのか」という問いかけは、常に母が私に聞く言葉です。研究所で学ぶだけでなく、何を貢献できるのかを考えました。そのひとつが「持続可能な開発目標(SDGs)ゲーム」のファシリテートでした。
研究所で実施させていただき、皆さんからのフィードバックとそのゲームの構造を協議することによって、ゲームの素晴らしさを再認識することができました。

SDGsゲームは、世界的な社会課題に対する意識を高め、集団的な行動を喚起するために考案された対面式のゲームです。「ファシリテーターになりたい」と思ったきっかけは、途上国開発の仕事をしながら博士号を取得し、SDGsゲームの公認ファシリテーターでもある母の強い影響です。教育と持続可能な開発に対する母の情熱を見ていて、私も母の活動を次の世代に繋いでいきたいと思うようになりました。そして、日本やアメリカ、ケニアでの母の活動のサポートをするようになったのです。

その中でも私が最も印象に残っているのは、ケニアでの経験です。首都ナイロビと地方のカジアド地区の学校で実施したとき、同じケニアという国の中でも教育の質、社会の格差が、ゲームの結果に強く反映されていました。カジアド地区で実施した場所は、少女救済センターと呼ばれるところです。そのセンターには、暴力や性的被害から逃れてきた女の子たちが寮生活をしていました。
ゲームの進行の状況は、置かれた社会の環境を強く反映します。悲しいことに、彼女たちは、集団の目標達成や長期的な成果よりも、個人的成功や短期的視野に焦点があたっていました。勝つためにルールを無視し、不正行為に走る人が続出し、結果持続可能でバランスのある社会は達成されませんでした。そして数日後、ナイロビの公立校でゲームを進行したときのゲームの結果は明らかに違ったものでした。
彼らも多少のズルはあったものの、セッションが終わるころには、全員が協力して世界の状況を改善しようとしていたのです。彼らが、集団的な成功プロセスを通して、協力と目標共有というゲームの潜在的力を発揮した瞬間でした。私はこの二つの学校の違いに驚きました。その時、母は「彼らが悪いのではない。教育、特に倫理教育の有無、社会のシステムや構造が問題なのだよ。」と言いました。

その後、最も私自身に激震的な瞬間が訪れたのは、ナイロビの公立校でゲーム終了後、マイケルという学生が私に声をかけてきたときでした。彼は「このゲームはとても素晴らしい。多くの家族や友人とも共有したいので、どこで買えますか。」と聞いてきました。「残念ながら、このゲームは誰にでも手に入るものではない。」ということを彼に伝えることは、とても心が痛みました。
このゲームの素晴らしさを理解してくれる人が世界にいるという嬉しさと同時に、このように社会的に大きなインパクトのあるツールが、ファシリテーター・トレーニングにかかる高額な費用や、ゲームセットを購入するのに必要な高価な追加料金のために、多くの人の手の届かないところに置かれているという事実があることに強い衝撃を受けたのです。

このSDGsゲームには計知れないほど社会を動かす力と可能性があるにもかかわらず、世界で広く認知されていないことを私は危惧しています。教育と啓発のために開発されたにも関わらず、いくつかの障壁があるため、より多くの人々に普及するには至っていません。対面で行うため、コロナによって実施ができない時期が数年あり、ゲームを普及させる機会を逃したこともありますが、大きな障害のひとつは、認定ファシリテーターになるための高額な費用にあると考えます。トレーニングプログラムは高額であるため、SDGsの普及に熱心な多くの人々、特に若者には手が届きません。
さらに、ゲーム本体も誰でも購入できるわけではなく、認定ファシリテーターだけが購入できる状況です。また、ファシリテーターとしてゲームを主催するためには、一定の料金を参加者に請求することが求められています。

しかしながら、私は教育、特にSDGsのような社会において重要なトピックに関する教育は、市場化や商品化がされるべきではないと信じています。そして、子供たちが経済状況に関係なく、誰もが世界や社会が直面する課題について学び、関わる機会を得る権利があると考えています。私は、この金銭的制約がゲームの普及を阻むだけでなく、これから世界を担っていく我々子供が主体となって、持続可能な開発をより大規模に推進する機会を逃していると懸念しています。

ですので、母も私もできるだけセッションを無料で実施することにしています。そして、多くの子供たちが古い視点に捉われることなく、各自が行動を起こす力を持つようになる素晴らしいツールを共有できるようにしたいのです。
このSDGsゲームでは、それぞれが「何ができるのか」を考えることができ、「各自の行動によって世界を変えることができる」と体感することが可能になります。私は、より持続可能で公平な世界を創りたいと願っているので、経済的な余裕の有無にかかわらず、誰もがこのゲームを活用できる方法を見つけたいと感じています。それによって、SDGsの重要なメッセージが可能な限り多くの人々に届き、可能な限り社会に大きな影響を与えることができると信じているからです。

「SDGsは2030年には達成できないさ」と笑う人もいます。しかし、SDGsは目標だけでなく「世界の共通言語」なのです。この共通言語で遠い国や違う分野の様々な点を繋げ、それが糸になり、そしてネットワークとなり、多くの人々つまりChange agents(世界を変革する人)を動員するツールとなるのです。

そして、このゲームを通して、私は「糸」の唄のようなハーモニーを創り出す伴走者でありたいと考えています。「我々は何ができるのか」を皆と一緒に問いながら、進んでいくのが私の夢であり、使命であると考えています。来年は大学生ですが、このツールと共に社会に実践できること、世界に役立つ技術を見つけていくのが私の目下の課題でもあります。インターンシップを通して、次へのステップを見つけることができました。「偶然の連続」とご支援いただいた関係者の皆様に感謝しています。

 

 

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