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Vol.24193 ボストン・ウェルネス通信その13 人気の痩せ薬、と同じ効果がある食べ物

医療ガバナンス学会 (2024年10月10日 09:00)


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米国ボストン在住内科医師
大西睦子

2024年10月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

先日外来で、40代後半の女性Aさんに「更年期になって体重が増えました。なるべく薬を使わずに、食事を変えて自然に体重を減らしたいです。どんな食事がお勧めですか?」という質問を受けました。

そこで今回は、Aさんのような悩みを抱えている人に、最近米国でホットなグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)関連のダイエット情報をご紹介します。

●体内のGLP-1は食事で増やせる?

世界中に大旋風を巻き起こしている「GLP-1受容体作動薬」。2型糖尿病を患う人の血糖値と体重のコントロール、肥満の人の減量に役立ちます。

ところで、そもそもGLP-1は、私たちが食べ物を摂取すると、脳や消化管で作られるホルモンです。その信号は、膵臓からのインスリンの放出を刺激し、血糖値を上げるホルモンのグルカゴンの放出を減らすことを指示します。また、胃から腸への食物の消化を遅らせるため、満腹感が早く感じられ、しかも長く続きます。こうしてGLP-1 が増えると空腹感が減り、血糖値が安定し、体重をより適切にコントロールできるようになります。

GLP-1 の血中濃度は、空腹時は一般に 5 pmol/L から 15 pmol/L の範囲にあり、食後は 2 倍から 4 倍に増えます(1)。より具体的には、GLP-1 の血中濃度は食後 15 分以内に上昇し、約 60 分後にピークに達します。2 時間後には、GLP-1 濃度は次の食事まで徐々に低下し始めます(1)。ただし体が十分な GLP-1 を生成しないと、満腹の合図が体に伝わらず、食べ続けてしまう可能性があります。

一方、GLP-1受容体作動薬の半減期ははるかに長く、薬剤の種類によって 違いますが、1.5 時間から 5 日間持続します。この安定性で、薬は食欲と渇望を抑えることができます(2)。

とはいえ嬉しいニュースがあります。食事で体内の GLP-1 生成を増やすことができるのです。

●白パン VSライ麦パン

以下、NPRニュースに専門家らが食後のGLP-1の反応を説明しています(3)。

朝起きて空腹を感じ、白パン 2 枚と目玉焼きを食べたとします。消化された食物が小腸に入り、炭水化物、脂肪、アミノ酸などの栄養素の多くが血液と脳で雪崩のような活動を引き起こします。そして、GLP-1などのホルモンが放出されます。

ミッドウェスタン大学の腸生理学者シンジュ・スンダレサン博士は、「食べ物は腸の細胞を活性化し、そこから大量のホルモンを分泌します」「GLP-1など約20種類のホルモンは、満腹ホルモンとして知られています。そのため、食べるスピードが遅くなり、やがて満足感を感じて食べるのをやめるのです」と語ります(3)。

ただし、GLP-1 の作用は非常に速い。コロラド大学ダーリーン サンドバル博士は「ホルモンが血液に入ると、分解が始まります」「GLP-1 が心臓や血液循環の残りの部分に到達する頃には、ほとんど残っていません」と言います(3)。そのため、この繊維質のない朝食を食べてから 1 ~ 2 時間後には、血中の GLP-1 レベルが急激に低下します。そして昼食の時間になると、また空腹になります。

ところが白パンの代わりに、食物繊維が8~10グラム入ったライ麦パンを2切れ食べたらどうなるでしょう?大量の繊維を追加すると、食事から何時間も経ってから腸が GLP-1 を放出します。私たちの体は食物繊維を分解する能力がありません。そのため食物繊維は小腸をほとんど変化せずに通過し、最終的には食後約 4 ~ 10 時間で大腸に到達します。

食物繊維は大腸で、食物繊維を消化する細菌たちと出会います。細菌たちは、特定の食物繊維をより小さな分子に分解し、GLP-1だけでなく、PYY(ペプチドYY)と呼ばれる食欲を減らすもう一つの重要なホルモンの放出を誘発します。

GLP-1 と PYY は食後数時間後に起こるため、食間の空腹感、さらには次の食事の食欲さえも抑えることができます。

つまり、食事で体内の GLP-1 生成を増やす鍵の一つは「食物繊維」となります。

●GLP-1を増やす食品1:発酵性食物繊維

ただし、すべての食物繊維が同じというわけではありません。満腹ホルモンを高めるには、腸内細菌が消化できる「発酵性食物繊維」を摂取する必要があります。発酵性食物繊維は、腸内の善玉菌のエサとなる食物繊維です。

例えば、オートミールはオーツ麦を食べやすく加工した食品ですが、発酵性食物繊維を多く含みます。ルイジアナ州立大学の研究者は、健康な若年成人を対象に、オートミールと、同カロリーの即席朝食シリアル(低繊維)の食欲反応を比較しました。結果、即席朝食シリアルと比較して、オートミールは食欲を抑制し、満腹感を高め、エネルギー摂取量を減らしました。

発酵性食物繊維を多く含む食品のリスト(6)は次のとおりです。

リンゴ
アーティチョーク
アスパラガス
大麦

ベリー類
キャベツ
ニンジン
柑橘類
亜麻仁
ニンニク
レンズ豆
オート麦
タマネギ
根菜類

これらはほんの一部の例です。多くの果物や野菜には発酵性食物繊維が含まれています。

●GLP-1を増やす食品2:タンパク質

タンパク質を多く含む食事は GLP-1 の分泌を大幅に刺激し(7)、血糖値の低下や満腹感を高めます。

例えば、卵。セントルイス大学の研究者らの、太りすぎや肥満の参加者(25~60歳のBMIが25 kg/m2以上の女性30名)を対象にした調査では、卵の朝食は、同カロリーのベーグルベースの朝食と比較して、満腹感を高め、食欲を減らし、その後の短期的なエネルギー摂取を大幅に減らしました(8)。

高タンパク質の食品には、豆類、ナッツ・種子類、鶏肉、魚、乳製品、大豆製品があります(9)。
●GLP-1を増やす食品3:脂質

食品の種類によっては、より多くのGLP-1 を自然に増やします。デンマークの研究者らによる報告によると、オリーブオイルに含まれるような不飽和脂肪酸は、バターのような飽和脂肪酸よりもGLP-1の放出を刺激する効果が高いことを示唆しています(10)。

2016 年の報告によると、例えばアーモンド(30.0~90.0 g)やピスタチオ(28.0~85.0 g)のようにタンパク質、多価不飽和脂肪酸、繊維含有量の高い食品を高炭水化物の食事に加えると、用量依存的に食後血糖反応が改善されることも示されています(11)。

また肥満の女性では、標準的な朝食にピーナッツ(42.5 g)またはピーナッツバター(42.5 g)を摂取すると、食後インスリン血中濃度が上昇し、標準的な昼食後の食欲が減りました。さらに、ピーナッツバターは、標準的な昼食後の食後PYY血中濃度を有意に上昇させ、食後血糖濃度を低下させました。GLP-1とPYYは小腸にあるL細胞から共分泌されることから 、ピーナッツバターが食後のGLP-1分泌も促進する可能性は十分考えられます。メタボリックシンドロームの成人に炭水化物を含む食事にピスタチオ85.0gを加えたところ、GLP-1とグルコースインスリン刺激ペプチドの血中濃度が上昇したことを発見しました(12)。

●GLP-1を増やす食べ方

2022年にインドネシアのジャカルタで実施された研究によると、炭水化物を食べる前に野菜を食べると、炭水化物の後に野菜を摂取した人に比べて、特に食後60分で2型糖尿病患者の血糖値とGLP-1レベルに有意な影響が出ることがわかりました。

研究者らは、炭水化物の前に野菜を食べることは、血管合併症を防ぐ有望でシンプルな糖尿病食であると結論付けました(13)。
以上が最近の知見です。発酵性食物繊維、タンパク質と質のいい脂質を含む食品を毎日の食生活に取り入れて下さい。またGLP-1受容体作動薬を使用していれば、何を食べても言いわけではありません。GLP-1受容体作動薬を使用しながら栄養価の高い食事を摂ることは、これらの薬の効果を最大限に引き出すために不可欠です。上述のような食品を積極的に取り入れてくださいね。

(1)https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/physrev.00034.2006
(2)https://www.drugsincontext.com/a-clinical-review-of-glp-1-receptor-agonists-efficacy-and-safety-in-diabetes-and-beyond/
(3)https://www.npr.org/sections/health-shots/2023/10/30/1208883691/diet-ozempic-wegovy-weight-loss-fiber-glp-1-diabetes-barley
(4)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24024772/
(5)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26273900/
(6)https://mana.md/do-you-need-fermentable-fiber-in-your-diet/
(7)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23466396/
(8)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12600850/
(9)https://www.health.harvard.edu/nutrition/high-protein-foods-the-best-protein-sources-to-include-in-a-healthy-diet
(10)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8235588/
(11)https://nutritionandmetabolism.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12986-016-0153-3
(12)https://nutritionandmetabolism.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12986-016-0153-3
(13)https://nutritionandmetabolism.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12986-016-0153-3

 

 

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