医療ガバナンス学会 (2024年10月9日 09:00)
サッカー通りみなみデンタルオフィス
院長 橋村威慶
2024年10月09日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
歯周病は罹患率が高く、65〜74歳代が57.5%、25〜34歳代では32.4%が歯周病になっており、重症化(歯周ポケット5㎜以上)は65〜74歳代で43.3%、25〜34歳代でも9.6%いる。高齢化率が進んでいる近年、歯科医療機関の歯周治療または歯周治療予防の割合が増えつつある。
歯周治療と肥満は密接に関係している。歯周病菌が産生する内毒素は脂肪の代謝を抑制する。また脂肪組織から放出される抗炎症物質TNF-αは歯周病を悪化させ負のスパイラルとなる。そしてインスリン抵抗性が増加して、肥満から糖尿病など全身慢性疾患となる可能性を上昇させる。
歯周治療は体内のGLP-1分泌を促進する。先述した通りGLP-1薬の作用はインスリン分泌を促し、血糖値を改善する働きがある。この2種の治療はそれぞれホルモンと歯周病菌を標的とし、2面的なスコープで肥満、インスリン抵抗性を改善させ、負のスパイラルを断つ効果が期待できる。また最近の研究では口腔機能(咀嚼)を使うとよりGLP-1分泌が促進されることがわかっている。経口投与の際、GLP-1薬をガム状にするなど口腔機能を使えばより効果が高まるかもしれない。
GLP-1による歯周治療の有用性はさらにある。GLP-1の作用は骨芽細胞(骨形成)の増殖と破骨細胞(骨吸収)の減少をもたらすことが研究でわかっている。歯周治療の最終目標は失われた歯槽骨の回復にあるため、GLP-1薬投与を歯周治療にアプローチすれば、より効果が上がるのではないかと考えられる。特に歯周内科治療(抗生剤ジスロマック投与中に初期治療(スケーリングルートプレーニング)を短期間で行い、治療期間中はカンジダ菌の増殖を抑えるためファンキゾン抗真菌薬を歯磨剤として使用する)はGLP-1薬服用すれば従来の歯周基本治療より高い効果が期待できる。また歯周内科治療時に、患者に抗生剤とGLP-1薬を同時に服用するように勧めやすいという点も挙げられる。
GLP-1薬の有効性が歯周治療に生かされていないのは、歯科医療の特徴が関与している。歯科治療上の薬剤投与はあくまでも感染防止などの側面的な意味合いが大きく、抜歯などの口腔外科関係などで服薬する程度だ。服薬が主たる治療になる場合は少ないため、投薬下で治療を行う発想が歯科医師には乏しい。また患者にも理解を得づらい面もある。筆者が知る限り薬剤が主体の一部となる治療法は先述した歯周内科療法だけだ。
実際にGLP-1薬療法の中に歯周治療を選択肢として取り入れている医療機関やプログラムはない。また、歯周治療においてもGLP-1薬を使用するという動きもない。今後さらにGLP-1薬の需要が高まり続ければ、新たな活用が期待される。