医療ガバナンス学会 (2011年3月15日 14:00)
これからは、もう少し長い目でみた対策を考える必要があります。被災地では電力供給や水の供給に問題があり、医薬品も不足しますので、通常の医療を受け られなくなります。普段から医療を継続しなければならない患者(透析や呼吸器疾患など)を、被災地の外へ搬送する必要があります。通常の医療を受けられる 場所へ早く搬送しなければ、せっかく助かった命を落とすことにもなりかねません。
三陸海岸の県立久慈病院、県立宮古病院、県立釜石病院、県立大船渡病院は高台にあり無事でしたが、いずれも自家発電のための重油が(3月14日時点で)あと2日分しかないとのことです。電力の問題は短時間で解決できるような状況ではありません。
運べる患者をできるだけ大量に、被災していない地域の医療機関へ搬送する必要があります。物資や食糧が不足している被災地へ医師や看護師を送り込んでも、丸腰では、手術や機械を必要とするような医療はできません。被災地から患者を運び出すことが重要です。
県境を越えて大量の患者搬送ができるのは、自衛隊や米軍です。できる限り大量の患者搬送を実現するためには、自衛隊だけでなく、米軍に対して、日本政府 は一刻も早く患者搬送の要請をしていただきたいのです。米軍は既に”Operation Tomodachi”と名付けて第7艦隊を展開し、本州沖で救援活動に当たる米艦船は計9隻になると報道されています。たとえばUSS Tortugaは、救援や搬送に欠かせないヘリコプター2機を韓国で搭載し、第7艦隊のフラッグシップであるUSS Blue Ridgeはシンガポールで救援物資を搭載するなど、地震発生から短時間のうちに準備を完了して日本へ向かったのです。
3月13日(日)には、被災地から羽田空港に患者が搬送されたようですが、羽田空港は大量の民間機が利用しており、ヘリコプターの離着陸がひどく制限されます。自衛隊の基地、米軍の空母や横田基地などを利用する方がはるかに効率的に大量搬送できます。
私自身、横須賀米海軍病院で働いたことがありますが、患者搬送(Medical Evacuation; MedEvacメドバックと言います)は、米軍のルーチンのオペレーションです。医師や看護師の他にも、戦場で患者のケアや搬送をするためにトレーニング された衛生兵も大勢いて、患者搬送には慣れています。横須賀から沖縄の米海軍病院や米本国の病院へ、長距離搬送もしていました。横須賀基地から日本の病院 へ搬送するときは、私たち日本人医師が、受け入れ可能な病院を探し、患者の医療ニーズのマッチングや、受け入れ病院の医師と米軍の医師との間のコーディ ネーションや通訳を担っていました。現在も、横須賀と沖縄の米海軍病院で働く日本人医師が6人ずつ、計12人いるはずですし、その卒業生医師たちが日本各 地にいます。他にも、日米で臨床経験のある医師たちや、英語で医学的なコミュニケーションができる医師たちはたくさんいますので、支援を呼び掛けることが できます。
日本政府が米軍に患者搬送を要請すれば、被災地の医師、受け入れ病院の医師、米軍の医師との間で、患者の医療ニーズのマッチングや通訳などを担える医師 たちは現場にいるのです。それだけではありません。被災していない地域の医療関係者たちは、それぞれ自分に何ができるかを考え、着々と受け入れ態勢を整え つつあります。皆、一刻も早く被災地の方々の役に立ちたいと準備しているのです。日本政府は米軍に対し、一刻も早く患者搬送の要請をしていただきたいと思 います。
最後になりましたが、被災地の皆様の置かれた状況や、自衛隊、消防、警察、自治体、医療関係者など様々な方々の献身的な働きを思い、心よりエールを送り ます。必ず助けに行きますから、どうかそれまで心を強くして、生き抜いてくださいますようお願いいたします。そして、すべての日本国民が世界各国からの救 援に感謝しつつ、人類が心をひとつにして、一日も早く復興できますことを祈ります。
※亀田総合病院の小松秀樹先生に一部情報提供いただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。
筆者プロフィール
村重直子(むらしげ なおこ)
1998年東京大学医学部卒業。横須賀米海軍病院、ベス・イスラエル・メディカルセンター内科(ニューヨーク)、国立がんセンター中央病院を経て、 2005年厚生労働省に医系技官として入省。2008年3月から大臣直属の改革準備室、7月改革推進室、2009年7月から大臣政策室。2009年10月 から内閣府特命担当大臣(行政刷新担当)付、2010年3月退職。現在、東京大学勤務。著書に「さらば厚労省 それでもあなたは役人に命を預けます か?」(講談社)。