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Vol.24209 現場からの医療改革推進協議会第十九回シンポジウム 抄録から(9)

医療ガバナンス学会 (2024年11月6日 09:00)


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( https://genbasympo.net/ )

2024年11月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

【Session 10】 利益と倫理のはざまで:医療者と企業の共存を考える 15:30 – 16:40(司会:鈴木寛)

★パネルディスカッション形式

●王 宝禮   大阪歯科大学 歯学部 教授

アデノウイルスに対するオゾ水の抗不活化比較研究  ―医療機器認可に関しての医療従事者、企業見解、厚労省への考察―

2020年2月、COVID-19に伴い、器具や手指衛生に用いる消毒薬アルコールが街から消えました。その後、政府は製品評価技術基盤機構(NITE)にSARS-CoV2へのアルコールの代替消毒薬の抗ウイルス活性研究を委託し、その結果、代替品として微酸性次亜塩素酸水の有効性を認めたものの推奨に留まりました。その理由は、微酸性次亜塩素酸水生成装置には医療機器認可がなかったからです。

パンデミック最中に私達の研究グループは、SARS-CoV2に対する消毒薬アルコール、微酸性次亜塩素酸水、オゾン水の比較研究結果からそれぞれの有効な消毒方法を提唱し、さらに不活化のメカニズムを分子生物学的に解明しました。本研究結果は、WHOのデータベースに掲載されました。
時は流れ、2023年5月にSARS-CoV は2類相当から5類感染症に移行し、新規患者数は緩やかな増加傾向となっています。これまでと違うのは、コロナ感染の流行とインフルエンザやアデノウイルス感染の流行が一緒に起きていることです。

ところで、日本眼科学会「アデノウイルス結膜炎院内感染ガイドライン」では、消毒薬の点眼使用として0.2%ポロビニールアルコールヨウ素剤(ポピドンヨード)を推奨しています。しかし一部の眼科医は、アデノウイルスによる流行性結膜炎に、医師の裁量権でオゾン水を使用しています。オゾン水は、白内障手術4583眼、網膜硝子カラア手術545眼、その他を含む5820眼の手術に適用され、術後の感染症や角結膜障害の発症は認められなかったという臨床研究報告があります。ところがオゾン水生成装置は手指衛生の医療機器認可はあるものの、眼洗浄に対しての認可がないため、「医師の裁量で」となるのです。

今回はアデノウイルスに対する消毒用アルコール、ポピドンヨード、オゾン水の抗不活化実験の比較研究結果と、医療機器認可に関する医療従事者と企業サイドからの見解を考察していきます。
●黒山 祥志   レコルダティ・レア・ディジーズ・ジャパン株式会社 代表取締役社長

日本市場への新薬導入

現在、日本政府もドラッグ・ロス(欧米で承認・販売されている新薬の半分以上が、国内で承認・販売されていない状況)を、解決すべき課題としてとらえている。その主な原因は、世界的に創薬のメインプレイヤーが、大手の製薬会社から規模の非常に小さな海外バイオテックカンパニーに移行したことにある。米国バイオテックカンパニーの場合は、新薬候補についてFDAとまずは交渉し、承認までの道筋の合意の上で、臨床開発(Ph I, II and III) を実施し、承認・発売につなげる。発売された際には、患者さんへの貢献と同時に多大な利益を得ることができるため、日々弛まない努力を続けている。
しかしながら、メガファーマと比較すると資金力そして人的リソースは小さく、日本を含めた世界的な臨床試験を行う余力の無いケースが多い。そこで日本人患者さんを組み入れた臨床試験を行わない「ジャパン・パッシング」が起こり、結果、日本のドラッグロスは広がっている。

各種の製薬団体は、日本の薬価制度が新薬開発へのインセンティブや市場としての魅力を損なっており、それがジャパン・パッシングの理由の一つであると訴えている。だが、それだけではない。日本では、海外のPivotal Study(Ph III)に日本人患者さんが参加する前に、日本人患者さんによるPhI Studyが必要であったことも大きな理由と言われている。実際、隣国の韓国は医療技術評価(HTA)が積極的に導入されており、高い薬価を獲得しづらく、日本よりも医薬品市場の魅力度が低いとされるが、韓国の患者さんは海外のPivotal Studyに参加しているケースが多々ある。
現在、当局は、日本人によるPhIは必須ではないとしている。今後、海外のバイオテックカンパニーからの日本市場への新薬導入を促進するために、製薬企業と医師のさらなる協業、そして商社型のビジネスモデルが重要と考えている。このセッションでは、その打ち手について僭越ながら私見を述べる予定である。

 

●鈴木 蘭美  ARC Therapies 株式会社 代表取締役社長 CEO

利益と倫理のはざまで:創薬のカタチ

希少疾患、慢性疾患、感染症、自己免疫疾患、神経変性疾患の多くにおいて、今日、根本的治療法は存在しません。患者さんの苦しみを目の当たりにすると、新薬の必要性は極めて明白です。しかし、新しい薬を承認するための開発には多額の資金が必要であり、成功確率を正確に見極めることは困難です。その結果、製薬企業の研究開発費は平均して売上の約2割に留まっています。例外としては、Regeneron Pharmaceuticals、Incyte Corporation、Vertex Pharmaceuticals、BioNTechなどの企業は売上の3割を超える研究開発費を投じ画期的なイノベーションを生み出そうとしており、意欲的な研究開発こそが新薬の創出と知的財産の差別化に直結すると主張しています。
一方、ジェネリックなどが多い必須医薬品の多くは十分な利益が見込めないため、近年、企業の撤退や費用の縮小が重なり、結果として安定供給の問題が生じています。製薬企業の機関投資家の大半は、年金などの長期大型ファンドが関係することもあり、ハイリスクハイリターン型の画期的イノベーション企業や成長率が見込みにくい必須医薬品への投資には慎重にならざる負えない状況が続いています。

このような中、今回はSFDR(サステナブルファイナンス開示規則)第9条をひとつの基準とし、より環境や社会への影響を明確に示すことを求めることで、持続可能な創薬活動に励む企業、並びに投資家の実例を紹介します。また、SFDRではカバーしきれていない公平性の課題や、報告義務の費用効率化、生成AIなどの新技術の可能性と課題についても言及します。
●尾崎 章彦   公益財団法人ときわ会常磐病院 乳腺甲状腺センター センター長、医療ガバナンス研究所 理事

「医療機器マネー」データベースを初公開:不祥事が相次ぐ背景

近年、医療機器企業をめぐる不祥事が相次いでいる。国立がん研究センター東病院とゼオンメディカル、三重大学臨床麻酔部と日本光電の贈収賄事件は、その代表例である。このような状況を受け、医療ガバナンス研究所は2024年10月1日より、「医療機器マネー」の公開を開始した。
公開されたデータは、日本医療機器ネットワークに所属する医療機器企業を中心に109社から、2019年度に医療者に支払われた謝金と医療機関への寄付金等である。支払いを公開しているのは74社に留まった。その上で医療者への謝金を分析したところ、総額52億4801万8552円が支払われていたことが判明した。そのうち、具体的な金額が公開されていた企業からの延べ24,567人(一部医療機関含む)への謝金総額50億6730万2136円(全体の96.6%)について分析を行った。

注目すべきは、13人に各1,000万円以上の支払いがあり、最高額は千葉西病院院長の三原和雄医師の2,297万1,841円、次いで川崎幸病院循環器内科の桃原哲也医師の2,113万40円であった。なお、1,000万円以上受領した13人のうち、10人が循環器内科・心臓血管外科であった。また、受領者全体で、1件あたりの支払いが100万円を超えている者は31人に上った。
興味深いのが製薬マネーとの比較だ。同じ2019年、製薬企業から1,000万円以上の支払いを受けた医師は148人で、医療機器マネーの11.4倍であった。一方、1件あたり100万円を超える支払いを受けた医師数は38人と、医療機器マネーの1.2倍にとどまった。製薬マネーの規模はもちろん誉められたものではない。しかし、医療機器業界では製薬業界と比較して医療者への支払い額が非常識に大きく、医療機器マネーが日常的に、半ば賄賂として使われている可能性が示唆される。

注意すべきは、冒頭の贈収賄事件で問題となった金銭は、これら公開データには含まれていない点だ。例えば、日本光電の事例では、納入する医療機器の価格を卸売企業に極端にディスカウントして仕入れ、卸売企業の「利益」からキックバックの原資が作られた。このような「見えないカネ」は、医療機器業界に特有であり、数々の不祥事の原因となっている可能性がある。
医療費高騰が問題となる現在の医療環境において、こうした反則プレーに手を染めなければ生き残れない企業は、即刻退場すべきだ。同時に、医療者自身も、そのような企業に手を貸すことが自身の首を絞めている事実に、より真摯に向き合う必要がある。
●小沼 士郎   道南森ロイヤルケアセンター 施設長

公益通報者保護法は通報者保護のためだけではない

2019年4月、私はフィリップモリスジャパンに就職した。サイエンティフィック&メディカル アフェアーズ ディレクターとして私が前任から引き継いだのは、東京大学教授と京都大学教授との協力案件だった。その案件を知人の検事にも相談して、贈収賄と判断した私は内部通報し、10月、解雇された。

解雇後、私は公益通報者保護法が想定するステップに倣い、日本の行政機関、次に報道機関と、通報をエスカレーションさせていった。しかし、いずれの機関も行動しなかった。国会議員にも相談した。保健医療に関心をもつ議員は、「そういうことをすれば解雇されるに決まっている。優秀な君にしては、大きな間違いを起こしたな」とコメントしただけだった。後に、その議員は念願の担当閣僚の座を手に入れた。
こうして、たばこという人々の命に係わる問題において、医師あるいは薬学研究者であり公務員でもある大学教授が犯した過ちは日本で放置され、私は海外の司法当局や報道機関に助けを求めることになった。

2004年、日本でも公益通報者保護法が成立した。それから20年ほど経った今も、権力者自身の行動は伴っていない。それは、9月現在で問題になっている兵庫県知事と県庁幹部たちだけではない。「木原事件」では、告発者である被害者家族、公益通報者である元警察官、調査報道を行った報道機関を、政権中枢の権力者が刑事告発し、警察権力を使って恫喝することまで行った。
今回のシンポジウムでは、演者自身が関わることになった2国立大学教授事案の経験にもとづき、現場からの医療改革の一助となるよう、この国の病について説明したい。

 

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