医療ガバナンス学会 (2024年11月8日 09:00)
介護福祉士
鈴木 百合子
2024年11月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
今回は松重さんが企画も務めた「孤独でないグルメ」。
ボランティア役の松重さんとW主演を務めるのは、両親が共働きの小学生と、妻に先立たれて一人暮らしになったばかりの高齢男性です。台本も出演者も全部プロですが、私たちが伝えたかった「ここにおいで。みんなで同じ釜の飯を囲もう」という思いはちゃんと共有できています。
実際の私たちの活動は月2回、大人も子どもも一律で一食200円。その時の寄付の状況によって、お菓子や野菜や日用品などのお土産もつきます。ちなみに教会が会場とはいえ、お客様もボランティアも宗教は関係ありません。
数年前に活動を始めた頃は全部で30食だったそうですが、今や200食でも足りなくて、教会での会食の予約解禁時間には電話が殺到、持ち帰り分も販売開始直後に売り切れる人気ぶり。来訪者の内訳はシングル家庭が約4割、一人暮しの高齢者が約3割で、最近では若い非正規労働者も増えています。
さて、このボランティアには報酬こそありませんが、食事を作った人に褒めてもらいたくて「今日、ニンジン食べられた」「ボクだってサカナをがんばったよ」「すごいでしょ」と集まってくる幼い子らの弾ける笑顔は、まさに宝物。普段は仕事に追われる保護者の皆さんもここで友人ができるそう。そして、ここで顔見知りになった子らに微笑むお年寄りの幸せそうなお顔、それを見交わすスタッフ同士のやわらかい笑顔も含めて、私にとっても至福の時間です。
スタッフの最高齢は昨年末に80歳のお誕生日をみんなで祝った女性。最年少は不登校の小学生の女の子で、みんなにさりげなく可愛がられながら料理の下拵えを元気に手伝ってくれています。
平塚は旧い街のせいか、「近所の子どもに美味しいものを食べてもらいたい」と願う地元の人が多いようで、お客様が一食200円支払いながら横の募金箱に千円札を入れてくれたり、私たちが調理しやすいように捌いて味付けしたイナダがトロ箱いっぱい船宿から届いたり、ミカン山の大量のミカンや畑の作物が届いたり。もちろん、平塚に本拠地のあるフードバンク湘南の支援も大きいです。
先月は私も、収穫期を迎えた平塚の新米を皆さんに食べてほしくて、裏の農家のおじいさんにお願いして食堂の開催日に合わせて新米を15キロ刈り取ってもらって、寄付をしました。食事の時、牧師さんが「これは今週初めまで平塚の田んぼに生えていた稲からとったお米だよ。おじいさんが苗から大事に育ててようやくできた稲を、この日に合わせて刈り取って、精米してくれたんだよ」とみんなに話しかけてくれて、大人も子どもも盛り上がりました。
平塚の子ども食堂も最近は20か所以上あるようで、平塚八幡宮の関係者が市内2か所で展開する「寺子屋」、駅に近い飲食店が経営する子ども50円の「朝ごはん食堂」、YWCAの中高生限定「ふらっと寄るカフェ」などユニークな活動が増え、平塚商工会青年部もがんばってくれているようです。
ところで、私たちは一食200円で提供していますが、実際には材料費だけで200円以上かかります。これまで子ども食堂に寄付してくれていた国のお米も、先日からのコメ不足で「子どもの食べる分に限る」と変わってからは諦めざるを得なくなり、今は寄付を募っています。
それでも、市や県の補助金は申し込んでいません。お米の例に見られるように、公的支援は平等を期すために線を引いた「一律の支援」が基本ですが、本当に困っている人は行政の「一律に引かれた線」に弾かれたところにいるからです。「こひつじ食堂」を主催している牧師さんはまだ若いけれど、平塚市でシェルターやホームレス支援団体と組んだ活動などもしているので、私よりさらに多くの「思うところ」があるでしょう。
医療の隙き間。行政の隙き間。
現場を知らない人が作った画一的な線引きから見落とされたところにこそ人がいて、本物の鍵がある。
それはこの研究会とも共通する視点かと思います。
医療の問題は国や地方の政治と関わらざるを得ませんが、幸い、行政からお金を引き出さなくても、地元の小金(こがね)持ちの「地域の孫へのお小遣い」で何とか回っていくのが子ども食堂です。可愛い子どもたちに「大好き」と懐かれて、仕事終わりに気持ちのいい仲間と軽くお茶会をして、いつも前を向いて、孤独を超えて生きていけたら。
皆様もぜひ番組をご覧になって、そんな幸せもちょっと感じていただけたら嬉しいです。
【第6話】11/8のお店はここ!?『それぞれの孤独のグルメ』こども食堂編【平塚バプテスト教会】神奈川県平塚市
https://kodojo.main.jp/2024/11/02/sorezore_06_pre/