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Vol.24214 鉄医会附属研究所からの挑戦

医療ガバナンス学会 (2024年11月15日 09:00)


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医療法人社団鉄医会附属研究所 所長
ナビタスクリニック小児科 部長
高橋謙造

2024年11月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2024年10月1日に、私は鉄医会附属研究所(2024年5月より始動)の初代所長となった。全く新規の研究所である。
日中働いていて医療機関に受診できない会社員を医療難民と捉え、JRの駅ビル等にて週末や遅い時間まで診療するクリニックを2006年から運営している医療法人鉄医会(法人設立2013年3月)が設立した研究所である。
加えて、私は全院の小児科診療を統括する部長職も拝命した。

それに伴い、これまで奉職してきた帝京大学大学院公衆衛生学研究科の教授職は2024年9月30日にて辞職した。今回の転身にあたっては、様々の葛藤もあったが、少子高齢化に進んでいる日本の今後の展開を考える時、必要であると判断しての決断であった。

鉄医会附属研究所では、以下の3つの観点から現在の医療問題に取り組もうとしている。
「医療現場での知見を世界レベルの臨床研究に高め、保健医療分野でのオピニオン・リーダーとしてグローバルな役割を果たすこと」、「従来の「医療の常識」がカバーできていない現場からの新たな視点や施策を提供し、制度やシステムの変革を促すこと」、「メディアを通じて広く医療情報を積極的に発信し、予防先端医療や人々の医療リテラシーの向上に貢献すること」である。
これらの観点にたった具体的な取り組みに関しては、今後、鉄医会附属研究所のホームページにて公開してくこととする。

本稿では、今後の具体的取り組み課題の一端に関して3つの側面から論じたい。

1.中高年医師のキャリアモデル/セカンドキャリアの創成

鉄医会としては、中高年医師のキャリアモデル/セカンドキャリアを創成する、という理念をもっている。私はこの理念に強く共感をし、この動きを太い軸にして行きたいと考えたのである。特に小児科領域でこのモデルを構築して行きたい。
これまでは、定年を迎えた医師は、楽隠居して隠遁生活を送る事に価値が置かれていたように思う。しかし、今からの日本は異なっていくはずだ。65歳人口が増加傾向にある中、医療の担い手が65歳で即引退ということはありえない。実際に、私の母も84歳まで一開業医として、地域の子どもや大人を護っており、かつての小児患者が、その子どもを連れて受診するといった話をよく聞かされた。

厚労省が打ち出す医師対策は医師数増加、減少どちらに触れるか不確定であり、状況は刻一刻と変化していくので、現場を知らない役人達に現状の微調整を求める事自体が可哀想である。ならば、現場サイドに立って動かしていくしかない。

厚労省の統計によると、2020年12月31日段階での60歳以上(統計上、65歳以上の統計は入手不可である)の医師数は、約28.1%(90、950/323,700人)である。65歳以上人口が、2023年時点約22%、2036年には、医師の約34%との推計もあり、この多くが現場を離れることは、大きな損失となる。現状の医療を担っているであろう、この医師人口をカバーするために、若手医師を育成するとしても、年間の医師増加数は4, 000人弱である。熟練した医師がいきなり若手に入れ替わることは困難である。
若手医師の育成に捉われる事なく、臨床の現場での蓄積がある中高年医師の活躍の場を準備する方が確実である。

やや話は逸れるが、国際保健分野においては、「適性技術(AT: Appropriate Technology)」と言う用語がある。これは、ある保健課題解決のために、最適解として高額な医療技術を求めるのではなく、既存のすぐ活用できるリソースを用いる次善の策によって課題解決に臨むというものである。低中所得国での保健課題解決のためにATと言う概念、発想は幅広く活用されている。最大の成功事例はタイ国における農村ボランティアシステムであろう。
1970年代に、もともと農村部に存在していた互助システムを強化しトレーニングすることで、非医療職である保健ボランティアを全国の農村に普及した。これが機能し、タイ国は保健医療水準を上げ、健康な国民を育て、やがて今日の発展に繋げている。新たに医者を増やそうと注力するよりも、既存のシステムを活用することで医療水準の向上につなげている。

私は、この適性技術がこれからの日本に必要だと考えている。つまりは、時間のかかる新人医師の養成だけではなく、保健医療職のプロたる中高年医師の活用である。「現役医師はすくない。新人も急に増やせない。だから適正な医療は供給できない。」といった単純な「出来ない理由」を掲げているのが国だとしたら、現場からの回答が適正技術である。

鉄医会としては、臨床の実力、知見を十分にもった人材を受け入れて診療の質を上げることを推進している。専門医制度などで医療現場を混乱させている現状において、例えば、65歳以上の定年退職した医師のセカンドキャリアとして小児医療の専門家を充実させることを戦略モデルとして取って行きたい。
加えて、若手の育成も重要な課題であることは当然である。学術的知見を学ぶ機会を提供しつつ、どんどんと力を付けて行ってもらうことは必要な投資である。
これらのアプローチが成功事例となれば、論文化だけでなく、幅広く知見の周知・展開を行っていくのは当然である。ここに、私が関わる意義も存在する。

2.少子高齢化といいつつ実は高齢化のみを「珍重」する日本への挑戦

日本では高齢化が問題視され、医療のみならず、莫大な資金が高齢化対策というお題目のもとに注入されている。高齢者を支えることになるのは将来の納税者つまり、小児である。しかし、小児に関しては軽視したままだ。それは、医療においても然りである。小児医療のニーズは大きく広がっているのは先述の通りだ。小児医療が最初の窓口になる課題は、すべて社会全体の課題につながってくる。

これはなぜか?それは、「高齢化」と叫んでいれば金になるからである。国政政治家の姿勢を見れば、一目瞭然である。「高齢化」に取り組んでいるといえば、票を取りやすい。それに対して、将来の担い手たる「子ども」を育てる若い世代は、「浮動票」層と判断しているとのことである。手堅く票と利権を稼ぐためには、「浮動票」層などにかまっている暇はないらしい。自分と一族にカネが回ればそれで良しとする。なんと愚かしいことか!日本はSDGsを推進していると言いながら、この体たらくである。世界に対する面従腹背なのである。

小児科医師や、小児科希望の若手医師が常に受けるハラスメントとしては、「少子化だから小児科医はまもなく失職するよ。」と言った脅し文句である。これは他科の医師から発せられるのだが、最も愚かしいアドバイスの一つである。実際に、小児医療のニーズは大きく広がっており、人手はいくらあってもたりない。
たとえば、小児が感染症に罹患することは、即保護者の休業を意味する。病児、病後児保育などの整備は急務だが、全国的に見ても充足しているといえる地域は数えるほどである。
さらに、将来の担い手たる小児への虐待事例はあとをたたない。児童相談所の職員を増やせば解決する、といった短絡的な考えでは解決しないことは明らかだ。小児の発達障害等のサポートも重要な課題になっている。十分なカウンセリングと児の特性に合わせた環境整備が必要である。保健医療が充足すれば解決するという単純な課題ではなく、保健医療が他領域と協働していくべき課題が多い。しかし、小児医療が、問題への最初のコンタクトになることも多く、その意味では、経験を積んだ人材が増えるのが望ましい。「少子化だから小児科医は失職する」とのたまう輩どもは、短絡的な発想を披露する事で自分の浅学を晒している。社会のあり方を考えるという基礎から学び直した方がいい。
この「小児はカネにならない」という短絡的な発想も時間をかけて変えていく必要がある。そのためには、小児保健医療を活性化し、小児への投資は国を豊かにすると示していく必要がある。

3.「官ではない公」へ向けて

コロナ禍において、私は、歯に衣を着せない発言を堂々としてきた。しかし、関係者多方面から「立場をわきまえろ」という注意を受けることが多々あった。これが自分にとっては、一番の失望であった。余分な忖度に時間を使うことの愚かしさを感じていたからである。
今回のお話をいただいた時に、医療法人が立ち上げる研究所であること(医業収入から活動費などは出る)、自由な言論が許されること(誰に忖度する必要もない)などが魅力として映った。

自分のキャリアにとって、大きな影響を与えている2大先輩として、渋谷健司先生、上昌広先生がいる。コロナ禍においては、この2人から様々の薫陶を受けた。これら先輩方の共通項とは何か?それは、「官に媚びない」自由な発言をなさっている事だ。さらに、二人とも、「国費に頼らない」独立採算制の研究所の運営に携わっている。

更に、上先生が運営する医療ガバナンス研究所は、「官ではない公をつくる」ことを明言されている。高学歴なエリート人間どもは霞が関の机にお行儀よく座って、世情に乖離した政策を作る。政治家は自分で考える能力がないので、霞が関の指示の通りに動く。このような「官」の病理に対して、私も鉄医会研究所を通じて、この「官ではない公」づくりに参画したいと考えた。これまで小児の保健医療に従事して来たキャリアの集大成として、これらの挑戦、課題に挑む所存である。

自分の中で大切にしてきた「人づくり」は、自分の中の中心軸でもちろん続けて行くが、一緒に問題解決を考えて行く仲間も大歓迎である。

志のある皆様、「官ではない公」を一緒に創っていきましょう!

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