医療ガバナンス学会 (2024年12月4日 09:00)
この原稿はAERA dot.(2024年9月18日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/234047?page=1
内科医
山本佳奈
2024年12月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
自費扱いであれば、もちろんいつでも受診することはできたのですが、高額な医療費を請求されるのが怖く、なかなか受診することができずにいました。待ちに待った医療保険への加入が完了し、今回ようやく受診する運びとなったのでした。
私の歯科クリニック受診の目的は、歯の定期検査とクリーニングのためです。恥ずかしながら、私は20代後半で「歯周病」と診断されました。ある日、歯磨きをするたびに、歯茎から出血することに気がついたのです。
「きっと、強く磨きすぎたのに違いない……」当時、電動歯ブラシではなく、普通の歯ブラシを使っていた私は、ゴシゴシと強く力を入れて歯磨きをしがちだったこともあり、出血してしまうことも少なくはありませんでした。そんなわけで、きっと今回も磨き方が良くなったからに違いないと思い、しばらく様子を見ることにしました。
しかし、どんなに優しく磨いても、歯ブラシに血液がついています。そんな出来事が2週間ほど続きました。普段と違う状況に不安を感じた私は、近所の歯科医院を、中学生ぶりに訪問することにしたのです。
「これは、歯周病ですね」
歯や歯茎の状況をチェックするなり、そう先生は言いました。私の歯茎は腫れてしまい、炎症を起こしていました。そのため、歯ブラシが歯茎に当たる刺激で出血してしまっていたというのです。
日本歯周病学会(※1)によると、プラークとは、歯の表面に付着している細菌と代謝物のかたまりのことであり、そのプラークの中の歯周病原細菌によって引き起こされる感染性炎症性疾患のことを「歯周病」というようです。歯の周囲の歯ぐき(歯肉)に炎症が起こり、その炎症がどんどん進行してしまう結果、最終的に歯を支えている骨が溶けてしまうという、恐ろしい病気なのです。
私も電動ブラシを使用していたものの、歯のケアが不十分であったがために、歯と歯肉の境目(ポケット)の清掃にまで十分に行き届かず、そこにプラークが停滞してしまった結果、炎症を起こし、歯肉が腫れてしまっていたのです。
残念ながら、歯周病は自覚症状に乏しいため、気がつかないうちに歯周病が進行してしまうと、歯が大きく動揺するようになり、すでに手遅れ状態となってしまっていることもあるようです。場合によっては、抜歯する必要もあるといいます。
●25~34歳で30%
20代後半で歯周病を患うとは思ってもいなかった私ですが、どうやら、若い世代でも歯周病の罹患率は高いようなのです。日本歯周病学会によると、歯周病の罹患率は、15-24歳が20% 、25-34歳で30% 、35-44歳で40%、 45-54歳は50%、そして55歳以上は55-60%であり、年齢とともに、歯周病のリスクは高くなるだけでなく、若い世代でも歯周病になることがわかります。そして、日本人の歯を失う原因の第1位は、歯周病(37%)だそうなのです。
出血の原因が、歯周病であることがわかった私は、溜まっていた歯石を取り除いてもらうことになりました。それまで歯間ブラシを使って歯間のケアをしたことなかった私の歯石はかなり溜まっていたようで、歯石を取り除く作業は痛みがとても強く、時間もかなりかかってしまったことを覚えています。
そして、溜まりにたまっていた歯石を取り除いたことで、長年の歯周病のせいで、すでに私の前歯(中切歯)の歯茎は、痩せて下がってしまっていることが判明したのです。悲しいことに、「一度、痩せて下がってしまった歯茎は、元には戻りませんよ」と先生はおっしゃるではありませんか。
本来、ピンクの歯茎があるところの歯茎が痩せて下がってしまっているので、隙間ができており、なんだか黒くみえてしまいます。「よりによって、前歯の歯茎が痩せなくてもいいのに……」と歯磨きをするたびに思うのですが、全ては自分が悪いのです。それまで歯磨きをすることを面倒に思い、セルフケアが十分でなかったがために、歯周病を引き起こし、結果的に歯茎が痩せてしまう状態まで放置してしまっていたのですから。
歯周病だったことが判明してからというもの、電動ブラシを朝晩と食後に、毎日欠かさず行うようになりました。歯間ブラシで歯間のケアもするように言われたので、歯間ブラシも夜にはなるべく行うようにしています。歯周病が原因で痩せてしまった歯茎は、残念ながら元には戻りませんが、日本での定期的な受診とその際のクリーニング、そして日々のセルフケアで、歯周病はそれ以上進行することもなく、現状を維持することができています。
日本を離れてからは、日々のセルフケアのみ。最後の歯科受診から半年が経つ頃になると、前歯の歯間に歯石が溜まっていくのが目に見えてわかる状態だったため、「このままでは、また歯周病が進行してしまうのではないか」と不安を感じました。そのため、やっと医療保険に加入でき、アメリカの歯科医院への受診予約ができたときは、ほっとしたことを覚えています。
サンディエゴの歯科医院では、診察室に通されるなり、何枚もの歯のレントゲンを撮られました。角度や向きを変えての撮り直しも加えると、30枚ほどになったのではないでしょうか。予想していなかったレントゲン撮影に、歯や歯茎の状態を確認する前からすっかり疲れてしまったのでした。
長らく歯科受診から離れてしまっていたものの、幸いなことに、虫歯や進行している歯周病もありませんでした。しかし、大量のレントゲン撮影の結果、歯茎の深いところに、歯石(プラークが石灰化したもの)が付着しているところが1箇所だけあることが判明しました。先生曰く、「このまま放置しておくと、将来的に歯周病になってしまうよ」とおっしゃるではありませんか。
それを防ぐためには、日本では聞いたこともやったこともない「ディープクリーニング」という麻酔を使用したクリーニングをした方がいいということで、後日、ディープクリーニングをすることにしました。ちなみに、ディープクリーニングの治療は、保険適応ではありましたが、保険適応ではない抗生物質の処方代などを合わせると、私の場合、250ドルほどの高額な医療費が必要でした。
歯周病になってからでは遅いことは、すでに体感している私は、ディープクリーニングの治療後、さらに歯磨きのセルフケアを徹底するようになりました。このディープクリーニングから3カ月後の定期検診では、経過良好とのことで、普通のクリーニングで済みました。年に一度、大量のレントゲン撮影を行って、歯茎の深いところに、歯石が付着していないかのチェックをするようです。次回は、ディープクリーニングをする必要がないように、歯のセルフケアを怠らずに継続していこうと思った経験となりました。
【参考URL】
(※1)https://www.perio.jp/nyankamuchu/#:~:text=%E6%AD%AF%E5%91%A8%E7%97%85%E3%81%AF%E3%80%81%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%AF,%E3%81%9F%E3%82%8A%E3%80%81%E8%85%AB%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%82%8A%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82