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Vol.24225 自分の子供にはピロリ菌はいるだろうか?自治体で広がる中学生ピロリ菌検診に関わるアンケート調査の結果から

医療ガバナンス学会 (2024年12月3日 09:00)


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相馬中央病院 内科
福島県県立医科大学 放射線健康管理学講座 博士研究員
医師 医学博士
齋藤宏章

2024年12月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

今回は、2024年6月28日にJournal of Gastrointestinal Cancer誌に原著論文として掲載された、中学生の保護者を対象としたピロリ菌に関するアンケート調査の論文をご紹介したいとと思います。私は数年前から横須賀市の医師会でがん検診対策の委員をされている水野靖大医師と共に、横須賀市が行なっている中学2年生に対するヘリコバクター・ピロリ菌検診について、検診事業の分析や、中学生や保護者の方に安心して参加してもらうための適切な情報提供について取り組んでいます。今回紹介する調査は、横須賀市が2022年から中学1年生の保護者を対象に行なっている。ピロリ菌に関する知識や、子供への検診の認識を尋ねたアンケート調査になります。

●そもそもピロリ菌とは
ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)は胃の中に生息することで、慢性胃炎や胃十二指腸潰瘍を引き起こします。子供の頃に感染し、成人になっても感染を続けることで、胃の粘膜を炎症状態とし、胃がんを引き起こすと考えられています。潰瘍などの症状を起こさない場合には、ほとんどの人が無症状で保菌をしています。
成人では、胃がん検診や人間ドックなどで内視鏡検査などを行なった際に、感染が発覚し、抗生物質の服用で、除菌治療を行います。除菌治療によって将来の胃がんのリスクを下げるためです。一方で、すでに感染から長い年月が経ってしまった場合には除菌による胃がんリスク低減効果が乏しく、若いうちの除菌の方が、効果が高いことが知られています。

横須賀市を含む日本の複数の自治体では、中学生に対してピロリ菌検査を行い、除菌を行うことで、将来の胃がんのリスクを下げる取り組みを行なっています。これは成人では、検診参加率が低く、さまざまな要因(健康関心、経済、職業等)によって検診を受けられない人が一定数存在してしまうこと、中学生であれば成人と同等の抗生物質が使えること、義務教育のため、学年全体にアプローチできること、この年齢での胃がん発症はほとんどいないこと、などの理由から導入されています。
2019年のヘリコバクターピロリ学会の報告では、全国で約80の自治体が同様の検診を導入しており、近年では100を超えてきていると言われています。今後も導入していく自治体が増えていくと考えられる中で、参加する中学生生徒や、保護者の方がどのようにピロリ菌のことを捉えているか、検診について認識を持っているかを把握していくことはとても重要です。

●自治体との協力によって行なったアンケート調査
横須賀市では2017年から中学2年生に対してピロリ菌検診を実施していますが、参加者への周知や、意識調査を目的に、2022年の4月から5月にかけて市内中学校1年生の保護者を対象にアンケート調査を行いました。調査の配布にあたっては回答が容易なように、アンケート回答サイトを作成いただき、配布した資料のQRコードから回答を受け付けました。結果として、618名の保護者から回答が得られました。
一学年の生徒数が約2700名ですので、およそ2割強の方から回答を集めたことになります。回答者は生徒の母親が549名(90.4%)でした。230名(37.2%)はご自身がピロリ菌の検査を経験したことがあり、49名(7.9%)はピロリ菌の治療を行なっていました。回答者の8割以上が30代から40代であることを踏まえると日本人のピロリ菌に対する平均的な経験と思われます。ご家族に胃がんがいると答えた人は43名(7.0%)いました。

●ピロリ菌に関しては正確な認識をされている人が多い
アンケートではピロリ菌に対する幾つかの知識の調査も行いました。ピロリ菌の毒性(ピロリ菌は良い菌か悪い菌か:正答=悪い)、ピロリ菌の感染箇所(正答=胃)、ピロリ菌の感染様式(正答=手や口を介して感染)、家族感染(正答=家族の中で感染しうる)に関する項目に関する正答率はそれぞれ88.7%、84.1%, 61.5%, 47.2%でした。感染様式や家族の中で感染するかどうかは用語や言葉の選択が難しかった可能性もあり、回答率が低い傾向にありました。

実際、昔は飲用水として使っていた井戸水などが主な感染経路と考えられていましたが、現代では家族、特に母親が感染していた場合に乳幼児へ感染していくリスクが高いと考えられています。ピロリ菌が引き起こす病気(正答=消化器疾患)に関する正答率は95.7%で、検査で見つける項目(正答=検診で見つけることが可能である)の正答率は85.6%、治療方法(正答=内服治療)を正しく回答したのは90.3%でした。
質問数7個のうち、8割を超える499名が5個以上を正答していました。
非常に高い正答率は、アンケートの参加者というバイアス以外にも、横須賀市が成人にもピロリ菌検診を提供していることなども影響しているかもしれません。

●自身の子供へのピロリ菌検診希望
対象となった中学1年生の保護者の人は、翌年に中学生ピロリ菌検診の対象学年となります。自身の子供・生徒にピロリ菌検診を受けさせたいですか、という質問については618名のうち、534名(86.4%)が賛成、あるいはどちらかというと希望すると回答しました。残りのほとんどの方はどちらでもないという回答で、受けさせたくないあるいはどちらかというと受けさせたくないと回答した人はわずかに12名のみでした。
賛成あるいはどちらかというと希望することに関連する因子の解析では、ピロリ知識量が豊富(正答数が5個以上)、家族のピロリ菌感染歴、回答者のがん検診への高い遵守(毎年)、回答者が医療従事者であることが関連しており、やはり、ピロリ菌への理解や、経験、がんに関する健康意識が高い場合に希望しやすいのではないかと予想されました。

●子供へのピロリ菌検診の賛否の理由
子供にピロリ菌検診を受けさせたい理由で最も多かったのは「せっかくなので」(53.2%)という回答で、ついで「ピロリ菌検査は必要だから」(44.0%)、「費用がカバーされるから」、「家族がピロリ菌検査を受けたから」と続きました。一方で、子供にピロリ菌を受けさせたくないと答えた12人の理由で最も多かったのは、「ピロリ菌検査は不要である」であり、「ピロリ菌はいないと思う」、「ピロリ菌についてよく分からない」、「子供の友人は希望していない」、「家族でピロリ菌の検査を受けたことのある人はいない」という回答が一つずつえられました。

今回は横須賀市で行なったアンケート調査を紹介しました。アンケートの結果では、参加された保護者の多くはピロリ菌について正確に理解をされている、ほとんどの方が子供へのピロリ菌検診を望んでいるということが明らかになりました。
一方で、ピロリ菌についてよくわからないという回答に見られるように、そもそもどのようなものかを知らない人もいることも事実です。
ピロリ菌検査自体が簡便で侵襲の低い検査であること、将来の胃がんのリスク軽減のために行なっている検診であることなどのポイントを広くわかりやすく伝えていく取り組みが今後も必要といえます。

参考文献
Parental Knowledge and Attitudes Towards Helicobacter Pylori Screening in Adolescents: A School-Based Questionnaire Study Among Guardians of Junior High School Students in Yokosuka City, Japan
【掲載URL】
https://link.springer.com/article/10.1007/s12029-024-01082-y?utm_source=rct_congratemailt&utm_medium=email&utm_campaign=oa_20240627&utm_content=10.1007/s12029-024-01082-y

 

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