医療ガバナンス学会 (2011年3月17日 06:00)
しかし、実際には日立市、あるいは茨城県北部は、かなり困った状況にあります。僕としては、当地域の基幹病院である日立総合病院の現状を記すことによって、当地域の窮状をご報告したいと思います。
まず、当院のインフラでは、建物のうち、古いものいくつかが破損して使用できなくなりました。このため大幅な減床を余儀なくされています。また、凝固検査機械も故障し、測定不能です。MRIも故障しました。
また、ライフラインの分断は深刻です。電気こそ3月14日に復旧しましたが、この広域停電の間は携帯電話が使えなくなり、多くの医師が病院から離れられなくなりました。復旧しなかったら、医療従事者は今より疲弊していたことでしょう。一方、水に関しては、3月15日時点で復旧していません。このために、人工透析や生化学検査がきちんと展開できません。このままではあと2日で検査不能に陥ってしまいます。ほぼ全域が断水しているので、スタッフの殆どは入浴はできていませんし、洗濯も滞っています。
さらに、食料とガソリン不足があります。備蓄があった家はともかく、普通の家では食糧不足がおこり始めています。病院での職員への配給は、1食につきおにぎり1個ないし2個で、これも一時は足りないという話があったくらいでした。また、ガソリンスタンドは3月14日に営業を再開したらしく、朝早くから夜まで長い行列が続いていましたが、15日にはなくなっていました。おそらく売り切ってしまったのでしょう。14日までに、出勤してきたスタッフ(主に看護師)で、ガソリン不足で帰れないので泊まり込むという人が増えてきていました。15日からは職員バスを仕立てています。行った先にガソリンがあれば、復旧している近隣に買い出しにも行って帰ってこられるのですが、現状ではそれもかないません。さらに、地域的に遠くから来る患者さんも多く、その「足」もなくなってきていて、薬をもらうための来院そのものが困難になってきています。さらに、常磐線は全線不通ですし、常磐自動車道も通行止めが続いています。
これらの要因のために、当院は、今週いっぱいの休診、通常入院、外来の停止、化学療法の原則延期をしています。
東京からたった150kmしか離れていないのに、そして目に見えるような被害は殆どなかったのに、日立市はひっそりと被災しています。一見ニュースになるほどの非日常ではないのだけれど、日常からは遠く離れています。誰も知らない井戸に落ちてしまって上を見上げているような気がします。
以上、茨城県日立市からでした。