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Vol.24231 「貧血」多くが気づかず鉄欠乏症のまま生活している 新たな研究結果でわかったこと 

医療ガバナンス学会 (2024年12月11日 09:00)


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この原稿はAERA dot.(2024年10月02日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/articles/-/235447?page=1

内科医
山本佳奈

2024年12月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


貧血は、臨床医療の現場でよく遭遇する疾患の一つです。鉄欠乏は、世界に共通して最も一般的な貧血の原因となっています。今では、スーパーマーケットやドラッグストアなので、鉄入りの商品やお菓子、鉄のサプリメントなどが多数揃えてあることに加えて、鉄欠乏性貧血や隠れ貧血に関する記事の配信や番組の放送のおかげで、貧血という言葉を聞いたことがある人の方が、多いのではないでしょうか。

鉄欠乏性貧血とは、「体内で鉄が不足した結果、全身に酸素を運ぶヘモグロビンを生産できなくなり、体内の組織が酸欠になった状態」です。体内の組織が酸欠状態になることで、頭痛やめまい、耳鳴りやふらつき、易疲労感や倦怠感などを引き起こすと言われています。他に、酸素が欠乏することによる代償作用として、息切れや動機、頻脈といった症状が現れます。また、鉄を多く含む赤血球の量が減ることによって、顔色が悪い状態や、眼瞼結膜の蒼白などを引き起こすのです。

しかしながら、鉄欠乏性貧血であっても、多くの人は無症状だと言われています。外診療の現場でも、「最近、とても疲れやすくて‥。貧血かもしれない」を主訴に受診される方がいらっしゃる一方で、「健診を受けるたびに、貧血だと言われるけれど、症状が全くないから放置していました」とおっしゃる方も、意外と多いのが現状です。

●よく聞く隠れ貧血とは?

私たちの身体の中で、酸素を運ぶという重要な役割を担っている鉄。しかし、鉄は血液の中だけに存在しているわけではありません。血液中にあるのは、体内全体に存在する鉄の 60~70 %であると言われており、残りの 30~40 %はフェリチンというたんぱく質と結合し、肝臓や脾臓などに蓄えられています。つまり、鉄が不足してしまわないように、備蓄されているというわけです。

この鉄の備蓄が不十分な状態を“隠れ貧血” または“鉄欠乏症”と言います。日本では、番組(※1) などで大きく取り上げられたこともあり、“隠れ貧血”の方が馴染みのある方も多いかもしれません。隠れ貧血の場合、なんとか日常は乗り切れても、激しいスポーツや女性の場合、毎月のようにやってくる月経などで鉄の喪失が続き、鉄の補充が十分でないと、次第に鉄不足に陥ってしまいます。“隠れ貧血”は、鉄の備蓄がない貧血寸前の状態、つまり貧血予備軍なのです。

そんな鉄欠乏症について新たな研究(※2) により、アメリカでは鉄欠乏症が広く蔓延しているものの、十分に認識されていない公衆衛生問題である可能性があることがわかったのです。

この最新の研究は、ボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院のヤヒヤ氏らにより、8021人のアメリカの成人を対象に、コロナパンデミック前の2017年から2020年の全国健康・栄養調査(National Health and Nutritional Examination Survey)のデータを解析して実施されました。

●成人の14%が絶対的鉄欠乏症

その結果、米国の成人の 14% が、体内の鉄貯蔵量の大幅な減少または欠乏によって起こる絶対的鉄欠乏症に、米国の成人の 15% が鉄貯蔵量は十分であるものの鉄の利用可能性が不十分な場合に起こる機能的鉄欠乏症に罹患していると推定されたといいます。

また、鉄欠乏症となる割合が高いことが知られている貧血、心不全、慢性腎臓病、または現在妊娠している成人を除外した成人のうち、絶対的鉄欠乏の推定有病率は 11%、機能的鉄欠乏の推定有病率は 15% であったことに加えて、貧血、心不全、慢性腎臓病、妊娠など、鉄欠乏症を検査する潜在的な医学的理由があったのは、絶対的鉄欠乏症の成人の 33% と機能的鉄欠乏症の成人の14% だけであったことも推定されたというのです。

つまり、アメリカの成人の約3人に1人は、貧血、心不全、慢性腎臓病などがないにもかかわらず、絶対的鉄欠乏症と潜在的鉄欠乏症の2つの状態のいずれかを抱えている可能性があるというわけなのです。
さらに、鉄サプリメントの使用率は、鉄欠乏症の女性では年齢に応じて22% から 35% で、男性では12%から 18% となっており、鉄欠乏症の成人の間で鉄サプリメントの使用がまれであることも明らかになったのです。多くの人が気づかないうちに、鉄欠乏症のまま生活している可能性があることになります。

●健康診断の検査項目ではわからない

この研究の著者の一人であるレオ氏は、「絶対的鉄欠乏症と機能的鉄欠乏症を区別することが重要だ」とインタビュー(※3) の中で指摘しています。「体内の鉄貯蔵量の大幅な減少または欠乏によって生じる絶対的鉄欠乏症の有病率は、閉経前の女性に加え、消化管からの不明な出血と不十分な摂取、鉄の吸収を妨げる慢性疾患等の影響により高齢女性と男性に多く見られます。その一方で、米国で非常に一般的になっている肥満、糖尿病、腎臓病などの病気は、機能的鉄欠乏症を引き起こす可能性があり、機能的鉄欠乏症は、あらゆる年齢層や性別で一般的に見られている」と述べているのです。
残念なことに、鉄欠乏症かどうかは、一般的に日本の健康診断で実施されている全血球数の採血項目だけではわかりません。今回ご紹介した調査でも、絶対的鉄欠乏は、トランスフェリン飽和に関係なく、血清フェリチンが 30 ng/mL 未満として定義され、機能性鉄欠乏症は、血清フェリチンが 30 ng/mL 以上で、トランスフェリン飽和度が 20% 未満であると定義されていたように、血清フェリチンを測定しないといけません。

私自身、健康診断で貧血だとは指摘されないものの、献血基準には達しない状態が続いたため、かかりつけの医師に相談し、フェリチン値を測定してもらったことがあります。その結果、フェリチン値が低かったことがわかり、鉄を多く含む赤身肉や魚を意識して摂取するようになりました。

たかが鉄欠乏、されど鉄欠乏。日々意識してコツコツと鉄を多く含む食品を摂取し、鉄欠乏がさらに深刻にならないようにすることがやはり大切なのだと、最新の研究結果は、改めてそう認識するきっかけをくれたと感じています。

【参照URL】

(※1)https://www.nhk.jp/p/torisetsu-show/ts/J6MX7VP885/blog/bl/pnR8azdZNB/bp/p6v3yQNZrm/

(※2)https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/article-abstract/2823909

(※3)https://www.cnn.com/2024/09/27/health/iron-deficiency-us-adults-study-wellness/index.html

 

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