医療ガバナンス学会 (2024年12月20日 09:00)
Tansaリポーター
中川七海
2024年12月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
満栄工業の元従業員を取材する中で、同社がPFOA含有活性炭の取引をしていた相手が判明した。岡山県発祥の化学メーカー「クラレ」だ。
満栄工業が水源近くに放置していた活性炭の元の持ち主は、クラレなのか。
クラレに質問状を送ると、「当社の関与の可能性はほぼないと判断しております」という回答がきた。
しかし、その根拠としてクラレが示した内容は、あやふやだった。
●満栄は「履歴辿れず」、クラレが独自調査
汚染の原因は、満栄工業が他社から引き取ったPFOA含有活性炭を、水源近くの町営地「財産区」に置いていたことだ。活性炭から漏れ出たPFOAが、土壌→川→ダム→水道水のルートで移動し、町民の高濃度曝露につながった。
財産区に置かれていた活性炭の中に、クラレが引き渡したものがあるのではないのか。その点を問うと、クラレはこう回答した。
満栄工業から使用済み活性炭の履歴が辿れないと連絡を受けていますが、当社における以下の調査結果から、当社の関与は限りなく低いと認識しております。
「使用済み活性炭」とは、PFOAなどの化学物質を吸着させた活性炭のことだ。これ以上物質を吸着できない活性炭は「使用済み」となり、リサイクル業者に出すことになる。リサイクル業者は、活性炭中のPFOAを熱処理などで除去。活性炭を再利用できるようにして元の持ち主に返す。クラレは、満栄工業にリサイクルを委託していた。
クラレによると、今回の汚染発覚後、満栄工業から「財産区に置いていた活性炭が、どの企業から引き受けたものなのかを辿れない」との連絡を受けた。そこで、みずから調査を行ったという。
どのような独自調査を行ったのだろうか。
●戻ってきた活性炭の記録は?
財産区には、2008年〜2023年の15年間に、満栄工業によって運び込まれた大量の活性炭が置かれていた。その量、容量1トンの袋で約580個分。
クラレは、満栄工業の主要取引先だ。財産区にある大量の活性炭の中に、クラレが引き渡したものがあると私は疑った。だが、クラレは独自調査の3つの結果を根拠にそれを否定した。
1つ目の調査結果はこうだ。
当社と満栄工業の再生炭加工委託は2004年頃に開始し、2010年頃から拡大しています。この加工委託原料となる使用済み活性炭については、再生加工を前提としているため、満栄工業での長期在庫は発生しません。
「当社と満栄工業の再生炭加工委託」とは、クラレから満栄工業に対して、使用済み活性炭のリサイクルを依頼する取引のことだ。
満栄工業が財産区に活性炭を置いていたのは、2008年から汚染発覚までの15年間だ。これに対して、クラレは2004年頃から満栄工業に委託し、2010年頃から取引を拡大したという。時期が重なっている。
だがクラレは、「加工委託原料となる使用済み活性炭については、再生加工を前提としているため、満栄工業での長期在庫は発生しません」と説明。満栄に預けた活性炭はリサイクル処理され、すぐに自社に戻ってくるので、財産区に放置されていたものではないという主張だ。
そうであれば、満栄工業から戻ってきた活性炭の記録があるのだろうか。そのことには言及していない。
●2007年以外の販売活性炭は?
次にクラレは、満栄工業に「販売」した使用済み活性炭について説明した。
一方、加工委託とは別に満栄工業へは同社が販売する再生炭の原料として、使用済み活性炭を販売しております。
販売実績は、2007年に約10トン、2013年から2015年の期間と、2021年から2022年の期間を合わせて数百トンとなります。
クラレと満栄工業の使用済み活性炭の取引には、「リサイクル」と「販売」の2種類ある。
預けた活性炭からPFOAを除去して返してもらう「リサイクル」に対し、「販売」は使用済み活性炭を「資源」として売ることだ。クラレから買った使用済み活性炭をどうするかは満栄工業次第だ。再利用できるよう処理して、別の業者に販売することもできる。
販売した使用済み活性炭についての調査結果はこうだ。
2007年に販売した使用済み活性炭は、飲料用原水の処理に使用されたものであり、高濃度PFASの含有のリスクは低いと推定しています。
要するにクラレは、こう主張しているのだ。
販売した使用済み活性炭は、飲料水の原水を浄化するために使ったものであり、PFOAが含まれている可能性は低い。一方で、満栄工業が財産区に放置していた活性炭からは高濃度のPFOAが検出された。自分たちが販売した活性炭ではない。
しかし、クラレが「飲料用原水の処理に使用した」と主張しているのは、2007年に販売したものだけだ。販売実績について「2007年に約10トン、2013年から2015年の期間と、2021年から2022年の期間を合わせて数百トン」と答えているのに、2007年以外の活性炭については説明していない。
●広報部署に繋いでもらえず
最後の回答は、本汚染へのクラレの関与を否定する理由とは、全く無関係な内容だった。
なお、当社においては、2010年に再生炭管理体制全般について見直しを実施し、同年以降の再生炭加工委託・売却分使用済み活性炭在庫については、土壌にPFASが流出する可能性が無いよう屋内保管に変更しております。
私は、クラレ社内でのPFOA含有活性炭の管理について尋ねているのではない。
クラレの回答はいずれも疑問が多い。論点もズレている。これで「当社の関与の可能性はほぼないと判断しております」と回答されても困る。
一体、誰がこのような回答を作成し、誰の責任でクラレの回答とすることを許可したのか。回答部署は「IR・広報部」だが、それ以上の情報がない。
質問状を提出するにあたり、私は取材の窓口となる広報部署の連絡先を探した。しかし、非公開。クラレの代表電話にかけたが、広報部署に繋いでもくれなかった。
案内されたのは、一般の問い合わせフォームだ。
フォームは、質問状を添付できない仕様だった。そこで、外部のファイル共有サイトに質問状をアップロードし、そのURLを問い合わせフォームに記載した。多数の問い合わせに埋もれないよう、配達証明でも郵送した。
回答の知らせはメールで届いた。しかし署名はない。送信専用で、こちらから返信できない設定になっている。
質問状を送ってから回答を得るまで、一度も担当者が姿を見せなかった。
だが、疑問点をそのままにしておくわけにはいかない。クラレを引き続き取材する。
=つづく
(敬称略)
※この記事の内容は、2024年8月27日時点のものです。
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