医療ガバナンス学会 (2011年3月26日 14:00)
膠原病は比較的稀な疾患ですが、関節リウマチは全人口の1%と言われており、被災地にも少なからず患者様がいらっしゃると考えこれを書かせていただいております。
公式発表としましては、3月13日付で日本リウマチ学会HPには、膠原病患者様宛に治療薬に対する注意点が掲示されております。
http://www.ryumachi-jp.com/info/news110314.html
しかしこのページが一般の患者さんおよび現地の医師の目にとまりにくいこと、
実際の現場での対処についてあまり書かれていないこと、より、多少の私見を交えて書かせていただきます。
病態・鑑別が複雑であり、マニュアルとして画一化は出来ないのですが、参考にしていただければと存じます。
被災地にいらっしゃる膠原病患者さんで心配しなくてはいけない点は以下の3点で、この順に緊急性が高くなります。
1.ステロイド離脱症状:ステロイドは飲み止めない。
2.日和見感染症:病院へかかれない時には、免疫抑制剤と生物学的製剤は中止を。
3.内服出来ないことによる膠原病の再燃:肺・腎・脳の合併症の方は転院も考慮。
以下、詳しく述べさせていただきます。
1.ステロイド離脱症状
患者さんの注意点:
・ステロイド剤(プレドニン、リンデロン、メドロールなど)の内服は絶対にやめないこと。離脱症状が起こり、急激に下痢・脱水・高熱・低血糖が起こります。
・どうしてもステロイドが手に入らない状況にある方の場合⇒半分量、あるいは1日おきにして飲みつないでいただくしかないかもしれません。
医師の注意点:
・膠原病の患者さんに上記の症状を認めた場合には、必ず普段のステロイドの内服の有無、ここ最近きちんと飲めていたかどうかを聞いて下さい。感染と思って抗生剤治療をしている間にどんどん悪くなる方もいらっしゃいます。
・離脱を疑った場合にはハイドロコートン100mgのi.v.、その後補充療法を始めて下さい。
・点滴のステロイドで補充する場合には1.2倍量を1日1回投与すれば同等の力価になります。(5mg内服であれば6mg点滴)
2.日和見感染症
患者さんの注意点:
・しばらく医療機関を受けられない可能性の高い患者さんは、免疫抑制剤(プログラフ・リウマトレックス・メトレート・アラバ・エンドキサン)の内服や生物 学的製剤(ヒュミラ・エンブレル)の自己注射は中止しておいて下さい。お薬の効果は短くても2週間以上続きますので、再燃より感染の方が危険です。
・ステロイドや免疫抑制剤を内服されている患者さんは、免疫力が落ちているため熱や痰が出にくい状態です。また、日和見感染であるニューモシスチス肺炎やウイルス性肺炎は元々痰が出にくく、空咳のみのこともあります。
・ステロイド・免疫抑制剤・生物製剤(レミケード・エンブレル・ヒュミラ・アクテムラ)を使用している患者さんで空咳が続く場合には遠慮せず医療機関を受診されて下さい。
医師の注意点:
・特に避難所など人込みの中、かつ入浴の出来ない状態では、膠原病患者さんは易感染状態にあります。
・関節リウマチの患者さんが1か所だけの関節を痛がって高熱が出ているときには、化膿性関節炎も疑って下さい。リウマチよりこちらの方が命取りとなります。
・また、膠原病患者さんの咳を見たら、まずSpO2と血圧を測って下さい。熱や聴診以上の指標になります。
・特にMTX・生物学的製剤ではニューモシスチス肺炎の危険があります。分からない時にはバクタで加療も考慮ください。
・生物学的製剤は他にも結核感染(50%が肺外結核)の危険があります。
・資材の乏しい所では難しいかもしれませんが、SpO2 、血圧のいずれかが低い咳の患者には上記を疑い検査・治療をお願いします。
・その他のリウマチ薬・免疫抑制剤:やめてすぐに再燃するわけではないので、中止は可です。
・生物学的製剤の効果も、数週間続くので同様です。
3.膠原病の再燃
関節リウマチの関節症状だけであれば免疫抑制剤は中止が好ましいですが、臓器病変を伴う膠原病、特に間質性肺炎、腎炎、漿膜炎、血管炎に関しては再燃自体も危険な状態です。
薬・検査が満足に届かない地域でこのような疾患をお持ちの患者さんに関しましては、搬送もご考慮下さい。
ご不明な点などございましたら以下までご連絡いただければ幸いです。