医療ガバナンス学会 (2025年3月31日 09:00)
この原稿はAERA dot.(2025年2月5日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/249250
内科医
山本佳奈
2025年3月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
摂食障害を克服してからも、残念ながら体型を気にしない日はありません。アメリカにやってきてからは、日本ほど気にしなくていい雰囲気に救われましたが、油断をすると鎖骨のラインが消え、顔がぽっちゃりしてきてしまいます。そんな自分がどうしても受け入れることができず、毎日のジム通いだけは欠かさず行っています。
実は、私はアメリカに来る直前の3年間ほど、体重管理のためにGLP-1(ジーエルピーワン)受容体作動薬を内服していました。手持ちの薬がなくなったことをきっかけに服薬をやめてから、2年以上が経過しているので、今はもう内服していません。今では多くの方が一度は聞いたことがあるであろうGLP-1受容体作動薬ですが、私が服用を決めた頃は、すでに流通はしていたものの、減量目的にはまだまだ使用が少なかったと思います。
たまたま、糖尿病薬として知られているGLP-1受容体作動薬が「痩せ」にも効果があるという医療記事をネット上で拝見。信頼できる美容整形や内科の先生にGLP-1受容体作動薬について詳しく話を聞き、自分なりにGLP-1受容体作動薬についての情報をたくさん集め、メリットやデメリットを考慮した結果、自費で服用することにしたのでした。
●この薬で痩せると話題に
GLP-1[※1] とは、もともと私たちの体にあるホルモンの一種です。血糖値を下げる働きがあり、消化管の中に食べ物が入ってくると、小腸からGLP-1が分泌されます。その一部は、血液の中を流れてすい臓に運ばれます。すい臓にたどりついたGLP-1は、すい臓に「インスリンを出しなさい」と呼びかけるのです。このGLP-1からの呼びかけに応じてすい臓からインスリンが分泌される結果、血糖値が下がるという仕組みです。
GLP-1受容体作動薬は、私たちの体内でこのGLP-1と同じ働きをします。空腹時の血糖値が高くないときは、GLP-1は分泌されず、インスリンも分泌されません。食事をとることにより血糖値が高くなったときにだけ働くため、低血糖を起こしにくいということも、GLP-1受容体作動薬の特徴の一つです。
そのため、GLP-1受容体作動薬は糖尿病に対する治療薬として誕生しました。実は、体重が減少する効果は、糖尿病治療における副作用だったのです。しかし、「体重を減らすことができる!」「この薬で痩せることができる!」と話題になり、成人の41.9 %[※2] が肥満であるアメリカでは肥満の治療のための服用が爆発的に広がりました。2023年にはアメリカの肥満率が10年以上ぶりに低下を記録し、この薬がその要因の一つであると考えられているほどです。
●全世界で爆発的流行
実際に、2024年5月に公開されたグローバルデータ[※3] のレポートによると、GLP-1受容体作動薬の市場は前例のない速度で成長しており、2033年までに1250億ドル以上の価値に達するだろうと推測されています。ノボノルディスク社によると、毎週少なくとも2万5000人[※4] の米国人がノボ社のウェゴビーによる肥満治療を開始しており、その数は今後ますます増加することが予想されています。GLP-1受容体作動薬は、全世界で爆発的に流行している薬の一つであることは間違いないでしょう。
さて、私は皮下注射タイプのGLP-1受容体作動薬から始め、流通量が減り皮下注射タイプのものが手に入らなくなってからは、経口タイプのGLP-1受容体作動薬に切り替え、内服を続けました。1年半という期間で8キロほど体重が減少したところで、体重は減らなくなり、そのまま体重は変化しなくなりました。
一般的なGLP-1受容体作動薬の副作用は、胸やけ、下痢、便秘、頭痛です。服用し始めた頃は、軽い吐き気を感じるだけで、すぐに食欲は落ち、食事量も減りました。皮下注射は週に1回するだけなので服薬管理は楽でしたが、想像以上に皮下注射をすることは痛く、その時だけは辛かったです。皮下注射を自分ですることの痛みや恐怖感を実際に体感できたことは、私にとって良い経験となったと思います。
●服用から半年、吐き気や胸焼け
服用から半年ほど経った頃だったと思います。日に日に吐き気や胸焼け感が強くなり、なかなか改善されない日が続きました。ちょうどその頃、ガクッと体重が落ち、「痩せたね」と言われることが多くなりました。気がつくと、体重は開始時点から6 キロほど減っていました。さらに体重が2キロほど減ったある日、吐き気や胸焼け感は自然と消えたのでした。
経口タイプのGLP-1受容体作動薬は、週1回の投与で良かった皮下注射タイプと異なり、毎日内服しなければなりません。飲み方にも注意が必要で、朝食の30分前に、空腹状態でコップ約半分ほどの水と一緒に内服する必要がありました。毎日飲むことだけでも大変な上、内服したら30分は食事ができないという服薬上の決まりを守ることは、思ったよりも大変だったことを覚えています。
副作用はあったものの、GLP-1受容体作動薬を継続して服用できたことで、減量効果を実感することができました。しかし、吐き気があまりに辛かった時は「もう投与をやめようかな」と考えたことも数回ありました。
同じ頃、GLP-1受容体作動薬を内服していた知人が数人いたのですが、その中には副作用が辛く早々に投与を中断してしまった人が何人もいました。糖尿病に対する保険治療としてGLP-1薬を処方されていた患者さんからは、「体重が減るのは嬉しいが、食べることが好きだったからご飯を食べられないことが辛い」「吐き気が辛すぎるので薬の内服をやめたい」といった声を聞いたことも多々あり、GLP-1受容体作動薬による治療を継続することの難しさを目の当たりにしました。
さて、多くの方が気になっているのは、GLP-1受容体作動薬の効果や安全性だと思います。「どれくらいの速さで減量できるの?」「減量効果って、どの程度持続するの?」「長期間服用することの安全性はどうなの?」といった疑問を解決してくれる最新の調査結果や、服薬をやめてから私が体感したことなどを、次回、このコラムでお話ししたいと思います。
【参照URL】
[※2]https://www.cdc.gov/obesity/data/adult.html
[※3]https://www.biospace.com/glp-1-receptor-agonist-market-to-reach-125b-by-2033-globaldata
[※4]https://www.fox5dc.com/news/wegovy-price-supply-how-many-americans-use