医療ガバナンス学会 (2025年4月13日 17:00)
この原稿はAERA DIGITA(2025年2月19日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/250694
内科医
山本佳奈
2025年4月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
前回に続いて、今回はGLP-1受容体作動薬の服用をやめてからの体重の変化や現状に加え、GLP-1受容体作動薬の効果や安全性を含めた最新の調査結果をお伝えしたいと思います。
幼い頃からぽっちゃり体型だった私は、糖尿病薬として知られているGLP-1受容体作動薬が、減量にも効果的だという当時の最新の医療記事を読み、信頼していたドクターに相談し、自費での使用を始めました。週に1回、自分で皮下注射するタイプのものだったので、1カ月の費用は8000円前後だったと記憶しています。
●皮下注射は痛い
週に1回、曜日を決めて注射すればよかったので、服薬管理はとても楽でした。ただ、皮下注射自体の痛みや、注射をするときに発せられる「バチん」という音には、最後まで慣れることができませんでした。注射剤の流通が少なくなり、内服タイプのものに切り替えてからは、毎日決まったタイミングで薬を飲むことや、服薬上の決まりを守ることの難しさを痛感しました。
服薬を開始してからすぐに食欲は落ち、半年ほどで見た目でもわかるほど体重が減り、1年半ほど経ったころには、開始時点から8キロほど体重を減らすことができました。食欲が難なく落ちるので、自然と食事量が減ります。その上、一般的なGLP-1受容体作動薬の副作用である胸やけや吐き気も相まって、食べたいという思いもなかなか湧いてきません。もちろん、お腹が空いてはくるので、全く食べないというわけではありませんが、少し食べたらお腹がいっぱいに感じてしまうのです。
吐き気どめを処方してもらうも、なかなか吐き気がおさまらず、「もう投与をやめようかな」と考えたことは正直、何度もありました。ただ、誰かに相談したとして、「それならGLP-1(受容体作動薬)をやめた方がいい」と言われるのは、わかりきっていたので、誰にも相談することはできませんでした。
その当時は、ただひたすら体重を減らしたいと思う自分と、もうやめた方がいいのではないかと思う自分との闘いでした。幸い、酷かった副作用はある日突然消えたことで、継続することができました。後ほど論文でもお示ししますが、GLP-1受容体作動薬の服用を継続するということは、なかなか難しいことのようです。
●減量効果は大いに実感
結果的に、3年間ほどGLP-1受容体作動薬を継続して服用したことで、減量効果を大いに実感することができました。服用をやめてからは、次に体重を維持することの難しさに直面しているのですが、それも含めて、GLP-1受容体作動薬の効果や副作用を、身をもって体感したことで、世界中でこの薬が減量のために使用されているという事実に共感できるというわけなのです。
では、ここからは、私も内服した「GLP-1受容体作動薬」について、どれくらいの速さで減量できるのか、その減量効果はどの程度持続するのか、そして、長期の使用における安全性はどうなのかなど、GLP-1受容体作動薬の効果や安全性に関する最新の医学論文とその内容をご紹介したいと思います。
まず初めは、2024年5月に報告された、糖尿病のない肥満患者に対するGLP-1受容体作動薬の一つであるウゴービ(セマグルチド)の長期的な減量効果に関する報告です。41カ国1万7,604人の患者を対象に、4年間にわたって観察が行われた臨床試験の結果によると、プラセボを投与された人たちの平均の体重減少率は1.5 %だったのに対し、セマグルチドを使用した人は平均10.2 %もの体重の減少をみとめたのです。また、セマグルチド群では、体重減少が65週間減少した後、最大 208 週間、つまり 4 年間もの間、体重が維持されていたことがわかったのです。
さらに、減量効果について解析した結果、GLP-1受容体作動薬によって得られる効果は人それぞれであることがわかりました。具体的には、104週目(観察開始から2年後)に体重を5 %以上減らした患者の割合は、セマグルチド群では67.8 %、プラセボ群では21.3 %であり、体重を10 %以上減らした患者の割合は、セマグルチド群では44.2 %、プラセボ群では6.9 %であり、体重を15 %以上減らした患者の割合は、セマグルチド群では22.9 %、プラセボ群では1.7 %だったのです。
●長期使用の安全性は?
この調査では、4年間という長期使用における安全性についても分析されています。GLP-1受容体作動薬による副作用が原因で研究への参加を中止した人の数は、プラセボ群よりもウィーゴビー群ほうが多く、薬を投与された人の16.6 %に対して、プラセボでは8.2 %であったことがわかりました。また、研究への参加を中止することになった副作用とは、主に吐き気、下痢、嘔吐、便秘であり、服用開始から数カ月は薬の量が増えるにつれて、これらの副作用が強くなることは、過去の調査[※1] によってすでに報告されており、今回の調査で安全性における新たな兆候は見られなかったと書かれています。
結果的に、私は副作用に悩まされながらも、GLP-1受容体作動薬を約3年という長期間にわたり服用することができました。しかしながら、多くの人は治療を継続することがなかなかに困難なようです。
アメリカのブルーヘルスインテリジェンス[※2] が体重管理のためにGLP-1受容体作動薬を使用している約17万人の患者データを解析した結果があります。それによると、約58 %が12週間の治療を完了することができず、治療から脱落してしまっていたこと、そして約30%が最初の1ヵ月で治療を中止していたことが明らかとなりました。
性別は最初の12週間以内の脱落率には影響しなかったものの、18から34歳までの若い患者ほど、GLP-1受容体作動薬による治療から早期に脱落してしまう傾向が強かったということや、一方で、内分泌専門医や肥満専門医のような体重管理や肥満に関する専門知識を有する医師からGLP-1受容体作動薬を処方された患者は、12週間の治療を完了する可能性が高かったことがわかったといいます。
多くの人がGLP-1受容体作動薬による治療を中断する理由[※3] として、副作用はもちろん、服薬順守、効果的でない処方、費用、薬の不足などさまざまなものが考えられています。特に、副作用により中断してしまうということには、自分自身の経験からも非常に納得ができました。次回のこのコラムでは、GLP-1受容体作動薬が、認知症や感染症などのリスクを軽減する潜在能力があるかもしれないという最新の報告をお伝えします。
【参照URL】
[佳山1] https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2307563
[佳山2] https://www.bcbs.com/media/pdf/BHI_Issue_Brief_GLP1_Trends.pdf