最新記事一覧

Vol.25075 論文作成で得た「君子不器」への第一歩

医療ガバナンス学会 (2025年4月23日 09:00)


■ 関連タグ

この原稿は医療タイムス“OneVoice OneAction”からの転載です。(4月16日配信)

カレル大学(チェコ・プラハ)
第一医学部
村澤玖宣

2025年4月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「君子不器」:すぐれた人物は1つの分野の才能にすぐれているだけではなく、どんなことにも通用する才能を持つということ。

●世界的なジャーナルに論文が掲載

私は、チェコのプラハにあるカレル大学に通う医学生だ。このほど米国臨床腫瘍学会のJCO Oncology Practice (以下、JCO OP)に私が執筆に携わらせていただいた論文が掲載された

内容としては、日本のがん臨床試験における未公表の利益相反(以下、COI:conflict of interest)について、論文著者と製薬会社との関係性をもとに横断的に分析したものである。

なぜ、このような世界的に影響力のあるジャーナルに寄稿し、掲載にまで至ったのか、順を追って説明してみたい。

●COIに関する論文の誘いが

私は1年生修了後に日本へ帰国した際に、大学での座学からは得られない、多種多様な知見を広げるために、医療ガバナンス研究所で約1カ月間インターンに参加させていただいた。

その際、上昌広理事長を通じて、ときわ会常磐病院の乳腺外科医、尾崎章彦医師と出会った。これまでも同研究所のインターン生としてデータ解析、英訳などを手伝わせていただいた経験があり、2024年7月ごろ、尾崎医師が第一線で尽力されている、COI(conflict of interest)に関する論文のお誘いをいただいた。

私にとって「COI」という言葉は聞いたことはあったものの、特になじみがあるわけではなかった。そこで、自身でCOIと医療業界との関係性を調べたところ、過去に製薬企業と研究者の間でCOIが適切に開示されず、研究の信頼性が損なわれた事例が複数見受けられた。

●国際的に重視されるCOIの透明性

そのため、製薬企業との金銭的COIが医療行為に与える影響を理解することを訴える上で、がん医療の質の向上に焦点を当て、経済的側面のみならず、多様な観点から、腫瘍学の臨床応用に直結するテーマを扱うJCO OPへの論文掲載は有意義なものになると考えた。

近年、COIの透明性が国際的に重視される中、医療従事者が製薬企業から金銭その他の贈与を受けることで、自覚の有無にかかわらず、製薬企業の利益を優先し、医療行為に影響を及ぼす可能性が指摘されている。

このような状況で、製薬企業との金銭的COIが医療行為に与える影響を理解し、適切に対応することは、医療従事者が患者中心の医療を優先するために最も重要であると考えられる。

そこでわれわれは、腫瘍学に焦点を当て、20年に発表された58件のがん関連ランダム化比較試験(RCT)、およびそれらに関与した226人の日本人著者を体系的に抽出・分析した。

●COI開示が不十分な日本のがん臨床試験

これらの著者と製薬企業との金銭的関係について、筆者らが独自に集計した製薬マネーデータベースYen For Docs(https://yenfordocs.jp/)から、18年から19年にかけての支払いデータを抽出したところ、56社から、少なくとも1件の支払いがあった(企業当たりの支払いの中央値:258万8642円 (IQR 67万5850円 -1984万1704円) ※1米ドル=110.05日本円(2019年の年間平均電信売買相場)。

さらに、各論文からCOIに関する記載を抽出し、申告された企業と実際に支払いを行った企業を比較することで、COIの申告率を算出した。

分析は著者レベルと論文レベルの両方で実施され、著者レベルでは申告ごとの率を、論文レベルでは各論文に関連する支払いを集計して評価した。

分析の結果、著者レベルにおいては、COIを正確に報告した著者はわずか29件(10.4%)であり、80件(28.6%)は「COIなし」と報告した。

論文レベルでは、58本の論文のうち、COIを完全に開示したのはわずか2本(3.4%)であり、7本(12.1%)が「COIなし」と報告し、大多数に当たる49本(84.5%)が部分的な開示のみとなった。

上記のことから、日本のがん臨床試験の著者は、製薬企業から頻繁に支払いを受けているが、著者レベル、論文レベルともに大多数が正確にCOIを報告しておらず、COIの開示が不十分であることは明白だ。

●厳格なCOI開示のGLの制定が急務

私は、このような状況を踏まえて、製薬企業との金銭的COIが医療行為に与える影響を理解し、臨床研究の公平性や信頼性を保つためには、日本の診療ガイドラインでも、論文執筆におけるCOI申告の国際基準(ICMJE)のように、厳格なCOI開示のガイドラインの制定が急務であると考える。

今回、日本のがん臨床試験の現状を目の当たりにし、臨床研究では、新薬や新しいがんの治療法を追求し、新たな標準治療を確立することが第一ではある。

が、成果ばかりに着目するのではなく、倫理的側面から、最終的な受益者である被験者に与え得る影響まで考慮しながら研究を進めることで、COIの研究、ひいてはがん臨床試験の臨床研究はより一層有意義なものになることを学んだ。

 

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ