医療ガバナンス学会 (2025年4月25日 09:00)
この原稿はAERA DIGITA(2025年3月5日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/251468?page=1
内科医
山本佳奈
2025年4月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
すでにGLP-1受容体作動薬の服用を中止すると、体重が元に戻ってしまう可能性が高いことが報告[※1] されています。私自身、手持ちの薬がなくなったことをきっかけに服薬を中断して2年以上が経ちました。体重は元に戻ってはいないものの、内服をやめる直前の体重からは2キロほど増加しました。
食欲もあるので、食べ過ぎてしまわないよう常に意識していないと、体重がまた増加してもおかしくありません。そこで、体重を維持するためにも、一日1時間ほど時間を確保し、ジムに行くことが日課となっています。ランニングやウォーキングといった有酸素運動に加えて、体を引き締めるべく適度な負荷をかけての筋力トレーニングもやっています。今まで三日坊主で退会してしまっていたジム通いも、3年目に突入しました。
●治療後の運動は効果的
実は、GLP-1受容体作動薬による治療終了後の運動は、体重を維持するためには医学的に効果的であるようです。
2018年12月17日から2020年12月17日までの間に、109名を対象にして行った調査[※2] の結果、以前にGLP-1受容体作動薬と運動の併用療法を受けた人は、プラセボまたはGLP-1受容体作動薬(リラグルチド)のみの投与治療を受けていた人と比較して、治療終了後の1年間で、初期体重の少なくとも10 %の体重減少を維持していた人が多かったことがわかりました。
つまり、GLP-1受容体作動薬の服用中に監督下での運動を追加することで、肥満薬物療法のみだった場合の治療終了後と比較して、治療終了後に健康的な体重を維持することができる人が多かったというのです。筆者らはその理由として、介入後も参加者が自力でより活発に身体活動を続けることができたことを挙げています。
私も、服用後は体重が元に戻ってしまう可能性が高いとわかっているからこそ、「そうなるまい」と運動習慣を維持することができているような気がします。「食べすぎないように」と腹八分目で食事を終えるようにし、大好きだったパンからご飯食に切り替えるなど、食事にも気を使うようになりました。米を食べるようになってから、腹持ちが良くなったような気がします。
●最新の報告には認知症や感染症に
最後に、減量や糖尿病として承認されているGLP-1受容体作動薬が、認知症や感染症などのリスクを軽減する潜在能力があるかもしれないという最新の報告をご紹介して今回のお話を終えたいと思います。
2025年1月20日、GLP-1受容体作動薬の利点とリスクについて、包括的に考察された研究結果が報告[※3] されました。2017年10月から2023年12月末までの平均約4年間にわたって、米国退役軍人保健局で治療を受けた糖尿病患者約195.5万人を対象とし、GLP-1 薬を処方された約 21.6万人と、血糖値を下げるために他の 3 種類の薬(スルホニル尿素薬、DPP4阻害薬、およびSGLT2阻害薬)を処方された人、および糖尿病でこの調査に登録したものの治療に変更はなく、すでに処方されていた薬を服用し続けた人 (つまり、この期間中に新しい薬を服用しなかった人) の3郡における175の健康結果を比較したものです。
その結果、GLP-1受容体作動薬を服用した人は、薬物乱用障害、精神病、感染症、心血管代謝障害、アルツハイマー病などの認知症、発作など42の異なる健康結果のリスクが低く、19(GLP-1受容体作動薬の使用に関連する胃腸障害、低血圧、失神、関節炎、腎結石、間質性腎炎、および薬剤誘発性膵炎など)の健康結果のリスクが高かったことがわかったといいます。
もちろんリスクを軽減する可能性があることが示されただけであり、さらなる研究が必要なことは間違いありません。しかし、祖母や祖父が認知症を患っている私個人としては、特に認知症のリスクを軽減させる可能性があるというこの報告には、驚きを隠せませんでした。
今後ますます多くの人々が使用することにより、このような予期せぬ副作用による新たな利点やリスクといった全体的な健康に与える変化や影響に関する調査報告がどんどん増えていくに違いありません。認知症を含めた現在適応とはなっていない疾患の治療法としてGLP-1受容体作動薬が追加される日は、そう遠くないのかもしれませんね。
[※2] https://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370(24)00054-3/fulltext