医療ガバナンス学会 (2025年5月2日 09:00)
井上法律事務所、弁護士
井上清成
2025年5月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
現在、正常分娩の保険化が着々と進んでいる。引き延ばしを模索している勢力もあるが、その勢力はそう多くのことは望めないであろう。当初予定通りに2026年4月から実施することも可能な状況に至っていると言ってよい。
さて、その際に、疾病又は負傷に関する「療養の給付」とは異なる法概念は、何という名前のどのような内容のものにすべきであろうか。まだそのことに言及する者はいないように見える。
そこで、ここでは、その趣旨・内容を明らかにしつつ、「助産の給付」を提言したい。
1.問題の所在
(1) 正常分娩はほとんどが助産師にタスクシフト
まずは、前田津紀夫構成員の発言(2024年12月11日付け厚労省第6回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」議事録より)を引用する。
「現在の分娩費の構成というのは、助産師の活躍に対して専用請求書の欄に何も書くところがないのです。どうやって助産師の活躍を評価してあげたらいいかというと、これは分娩費ということになるわけです。ところが、保険の議論になったときに、まさにおっしゃったとおり、助産師の活躍をどのように点数で評価するのか。今までは看護師の体制などを、病棟に何人いるから少し高くなるとか、そういうふうな形でしたけれども、実際にはそんなものでは済まないです。ほとんどタスクシェアをしておりますので、あるいは、ほとんどタスクシフトをしていると言ってもいいぐらいです。ですから、分娩費の多くは助産師の活躍によってなされているわけです。」
つまり、正常分娩は、そのほとんどがタスクシフトされていて、正常分娩の介助とはいわば「助産師の行為」と言ってよいくらいである。
(2) 療養の給付と正常分娩の保険給付は全く異なる
前田津紀夫構成員の発言(同上)では、次のように結論づけられている。
「それを、なぜ現物給付化できるかというのは不思議で仕方がない。そういう議論があること自体が、私は不思議で仕方がありません。お産の現場を知っている人間なら誰しもそう思うと思いますが、これは、療養の給付とは全く別の概念で考えていただかないと、いくら医療機関が提供しているからといっても、療養の給付と分娩は全く違います。」
つまり、「療養の給付」と正常分娩における現物給付とは、概念が全く異なるというのである。確かにそのとおりであろう。
2.量的な行為評価から質的な結果評価へ
もともと「療養の給付」は、出産においては原則として、「異常分娩」の「出来高払い」という個々の医療行為ごとに分割してそれを量的に積み上げていく法概念であった。一旦、個々具体的な一つ一つの行為に細分化して、その上で逆にそれらを一つずつカウントして、積み上げていく方式なのである。
そのような法概念や方式に馴れてしまったため、そのような観点から見る前田構成員には、「正常分娩の保険化」(助産行為の標準化、助産の給付)が理解しにくかったのであろう。
そもそも正常分娩は今まで、そのほとんどを助産師にタスクシフトしてしまっていた。実際には、通常は産科医師が現実的実質的に果たす役割は小さくなっていたのである。そして、そのタスクシフトされた助産師の助産行為たるや、医療行為とは異なり、連続した不可分一体の行為であって、それを一つ一つの行為に細分化するのは適切な所為ではない。
つまり、量的な行為評価から質的な結果評価へと移行していると言えよう。
3.正常分娩に関して助産所で提供されているケア内容
助産師の具体的な助産行為は、次のとおりの髙田昌代構成員の発言(2024年8月1日付け厚労省第2回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」議事録より)が分かりやすい。
「助産所では、家庭的でプライバシーに配慮できる環境、例えばリラックスできる環境は、音や光に配慮し、周りにいてほしい人だけがいる。そういう安心した環境を提供し、その人が持っている力を信じ、産婦側も力を最大限発揮できるように、状況やその人に合ったことを分析した上で支援を行っております。分娩進行中は、産婦が不安や孤独を感じることがないよう、常に家族や助産師が見守り付き添います。決して独りぼっちにはいたしません。夫や上の子も重要なキーパーソンですので、家族が主体的に出産に向き合い、新しい家族関係がスタートできるように見守り、支援をします。」
また、髙田構成員提出資料(2024年8月1日付け厚労省第2回「妊娠・出産・
産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」資料4の15ページより抜粋)
では、連続した不可分一体の「分娩時のケア」が網羅的に示されている。
http://expres.umin.jp/mric/mric_25081.pdf
4.「助産の給付」という新しい法概念
髙田構成員が提示した(正常分娩に関して)「助産所で提供されている内容(分娩介助等)」は、そのまま、それら全体が一体として「助産の給付」であると評しえよう。
この「助産の給付」を中核として法令を改正するのならば、一つのサンプルとして、添付の法令改正案(健康保険法、助産担当規則、保助看法、医師法、医療法)のようにもなることであろう。一つのたたき台として、ここに提言するものである。
以上
https://mamanone.jp/doc/Houreikaiseian_Shuseikasyomeiji.pdf
修正箇所を明示した法令改正案
A.健康保険法
B.助産担当規則
C.保助看法
D.医師法
E.医療法
https://mamanone.jp/doc/Houreikaiseian.pdf
法令改正案
A.健康保険法
B.助産担当規則