医療ガバナンス学会 (2011年4月6日 22:00)
医学専門家の間でも意見が分かれているように見える。私から見ると、多くは医学的には同じことを考えているのであるが、最終的には行政と同じように「必 要」か「否」かを政治的に議論している。もちろん、cost-benefit-riskを考えての議論は必要であるが、まずは医学的にどうなのかの議論を すべきである。Gale RP博士も幹細胞採取についての発表が二転三転したように見えるが、彼は、医師として幹細胞採取はgood ideaだと常に認めつつ、評論家としてcost-benefit-riskの議論をしただけである。この医学的な判断と行政上の判断は明確に分ける必要 がある。
私は自分が同じ作業するなら必ず幹細胞はとっていくと発言した。造血細胞移植医療に携わる者として、riskとbenefitを考えてのものである。 Riskについてはもう10年来健常人ドナーさんに幹細胞提供をお願いし、医療内容を全てお話しし(全身麻酔下での骨髄採取という選択肢もある)、同意を 得た上で通常の保険診療として行ってきた。絶対安全かと言われると医療の不確実性を述べるしかないが、現在でも健常人に対して行っている幹細胞採取をリス クが高いと言うつもりもない。Benefitは前回配信の際に記載したが、基本的には造血機能破壊に対して確実な効果があり、他の臓器障害に対しては無力 であるが、緊急時の非自己からの移植に比べると、GVHDがないため、他の臓器の治療に専念できるという明らかな利点があることも付記する。Costにつ いては多くの医薬品企業の賛同を得て、薬剤等の無償提供が得られており、現時点では最大15万円ほどである。
幹細胞採取の是非論については、まず大量被曝がないことが一番の成功である。この場合、100-1000人から採取・保存した幹細胞は使われないことに なるが、だから保存は「不必要」と言えるのだろうか? 数名が不幸にして大量被曝し、幹細胞を戻して造血機能が回復したら「必要」だったというのだろう か? いずれもNoだ。この件を、海外旅行時の保険とたとえる方がいる。私個人は、幹細胞が命を救う武器になりうるのでお金が戻ってくるだけの保険と一緒 にされるのは少し心外なのであるが・・・その方がわかりやすければ結構である。海外における不測に事態に備えて保険をかけた時、保険が使われることを成功 と呼ぶだろうか。健康で帰国することこそが成功である。重要なことは旅行者が自分の健康と旅行先の医療事情を考えて自分の判断で保険をかけることにある。 私のイメージとしてはこれに近い。「必要」「不必要」の議論が、いかに無用であるかわかる。
現場の作業員に、現場の作業の危険度と幹細胞採取の情報が全て正確に提供された上で、作業員自身が決めるべきである。また企業者はその判断をサポートす べきである。幹細胞採取に関する情報提供ツールとしては既に虎の門病院で倫理審査を受けた説明文書および実施計画書がある。作業員を派遣される事業体(東 電・防衛省・警察・消防庁・関連する企業でしょうか)にお渡しすることは可能である。是非、事業体上層部で「必要」「不必要」の議論する前に作業員にお渡 しいただきたい。現場の作業の危険度については当然説明されているものと考える
[1] http://medg.jp/mt/2011/03/vol85.html#more