医療ガバナンス学会 (2025年5月8日 08:00)
金沢大学医薬保健学域医学類2年
安野颯人
2025年5月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
入学前の約3か月半、私は、ナビタスクリニック立川での修行の機会をいただいた。現場で医療の実際に触れ、リアルな経験を通じて得られる学びが、決して講義室では得られることのない貴重な学びであったと、医学生になった今、強く実感している。医学を探求する前に、このような修行の機会をいただけたことに、改めて感謝の念を抱いている。今回の修行を通じて、私の医学生としての指針や、私が目指すべき医師像を明確にすることができた。
このナビタスクリニック立川での修行は、上 昌広先生(医療ガバナンス研究所理事長)のご紹介により実現した。医学部編入学試験を突破することができたのも、ひとえに上先生のご指導のおかげである。
ナビタスクリニックは、仕事や学校で多忙な現役世代のコンビニクリニックとして、2006年に上先生の率いる医療チームが中心に立ち上がり、2008年に設立されたクリニックである。駅直結ビルに立地され、夜9時まで診療を行うなど、高い利便性を持ちながら、オンライン診察や多様な種類のワクチン接種を可能とすることで、患者さまの幅広いニーズに応えている。現在では、川崎・立川・新宿の3院で、年間約18万人以上の診療実績を誇っている。
主な修行内容は、電話対応である。患者さまからのお問い合わせや薬局からの疑義紹介がその多くを占める。お問い合わせいただく内容は、診療時間や支払い方法の確認といった一般的なものから、海外渡航前のワクチン接種や疾患そのものに関するご相談といった、個人個人での専門的な対応を要するものまで幅広い。医療に関して全く無知な私は、ひたすら「大変申し訳ございません。只今確認いたしますので、少々お待ちください。」と緊張しながら返答するしかなかった。
立川院長の瀧田盛仁先生には、「患者さんと真摯に誠実に向き合うこと。それは、対面でも電話越しでも変わらない大切なこと。」とご指導いただいた。院内の医師や看護師はもちろんのこと、市に直接電話で確認したり、患者さまと何回もやり取りしたりすることもあった。確かに、「経営」だけを考えれば非効率な対応かもしれないが、患者さま一人一人の「ニーズ」に応えようとする真摯な対応である。「ご丁寧にありがとう。」電話越しの患者さまの一言に、ナビタスクリニックの一員としてのやりがいを感じることができた。将来、一人前の医師になったとしても、患者さまに、緊張しながら、そして何より、どんな時でも誠実に向き合える医師でありたい。
診察室で医師の診療を見学しながら、抗原検査の補助や印刷物の取り出しといった業務もさせていただいた。主に、瀧田先生の診察を見学させていただいたが、その圧倒的な知識量には驚嘆せざるを得なかった。誤解を恐れずに言えば、これまでの私のいわゆる「町医者」のイメージは、知識のアップデートが行われず、最先端の医学とはかけ離れた我流の医療を提供する医師、であったが、これだけ多忙な中、一体いつインプットしているのだろうと不思議に感じるほどの卓越した知識だった。
一方で診療は、その膨大な知識をただ振りかざすだけではなく、患者さま一人一人の声に耳を傾け、医学的な「専門用語」ではなくて、患者さまが理解しやすい「身近な言葉」が使われていた。ある患者さまの診療後に瀧田先生が、「今の患者さん、身構えていたね。もう少しリラックスしてもらえるようにしたいね。」とお話されることがあった。正直、私にはその違いに気づくことができなかった。また、内容によっては診察室から退出を命じられることもあった。瀧田先生には常々、「診察室は、患者さまがこれまでの人生を打ち明ける場所」とご指導いただいた。
実際に、瀧田先生は、患者さんの家族構成や職業に加えて、前回診療時の様子まで全てを把握した状態で、診療にあたっていた。ある患者さんが、「これまでで1番丁寧な診療でした。ありがとう。」と診察室を後にすることがあった。瀧田先生の診療を見学させていただき、私の目指す医師像が明確になった。
修行の期間、毎日欠かさず行ったことがある。「床磨き」である。修行といえば床磨きだろう、という何とも体育会的ノリで脳筋の発想で続けたことだが、知識もスキルもない私がナビタスクリニックの一員として、患者さまのためにできることといえば、その空間を少しでも快適にすることくらいだった。床磨きを始めて3ヶ月ほど経ったころ、ナビタスクリニック創業時の理念を知る機会があった。その中には、清潔感や高級感の重要性が記されていた。自己満足で続けていた日課だが、少しだけナビタスの一員になれた気がして、たかが床磨きにやりがいを感じることができた。改めて、創業者の考えや歴史を知ることの大切さを痛感する経験となった。
医療制度の煩雑さやクリニック経営の難しさ、患者さまのニーズと提供できる医療とのギャップ、さらにはそのニーズ自体が必ずしも患者さまの利益と一致するとは限らない状況、このような綺麗事ではない現場のリアルを経験することができた。そして、瀧田先生には、「いかなる時も謙虚に、絶対に国や制度を言い訳にすることなく、1人の医師として、目の前の患者さまと真摯に向き合うこと。」というお言葉をいただき、実際に患者さまと誠実に向き合う瀧田先生の姿を目に焼き付けることができた。
この3ヶ月半の修行を通じて多くのことを学んだ。これらの経験から得られた学びは、決して講義室では得られないと感じている。教科書からでは得られない肌感覚、これこそリアルの強みである。これから先も、自分の肌で感じる、自分の手で触れる、そんなリアルな経験が得られる現場での修行を積み重ねていきたい。そして、そこで出会う師となる方々にご指導をいただきながら、私が目指す医師像に、一歩ずつ、確実に近づいていきたい。
この貴重な修行の機会を与えてくださった上先生、現場で懇切丁寧にご指導くださった瀧田院長はじめナビタス立川のスタッフの皆様、そして何より、ナビタスクリニックにご来院くださる全ての患者さまに、この場をお借りして、心より感謝申し上げます。
これから続く修行の日々への決意表明として本稿を執筆し、このような機会をいただけたことに、重ねて厚く御礼申し上げます。