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Vol.25085_1回の大腸内視鏡検査と隔年の便潜血方法の検査は大腸がんを予防する効力は同じ?( Lancetに報告された臨床試験の結果から)

医療ガバナンス学会 (2025年5月12日 08:00)


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相馬中央病院 内科
福島県県立医科大学 放射線健康管理学講座 博士研究員
医師 医学博士 齋藤宏章

2025年5月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

大腸がんは世界で最も死因をもたらすがんの1つであり、時に日本では近年癌死因の上位にあり続けています。日本では、大腸がん死亡を抑制する大腸がん検診として便潜血法(便免疫化学的検査)が推奨され、検診で陽性であった場合には大腸内視鏡検査が推奨されています。
一方で、米国やドイツなどの一部の国では大腸内視鏡検査をはじめから検診として推奨しています。日本でも近年、大腸内視鏡検査を受けることへのハードルは低くなり、保険診療をはじめ、人間ドックなどで検査を受ける人が増えています。どのような検査方法が最も健康に良いのでしょうか。今回大腸がん検診について、便潜血法と大腸内視鏡検査の成績を比較した論文が、世界的に著名な医学雑誌ランセットに掲載されました(1)。最新の論文について解説します。

COLONPREV試験と名付けられたこの研究は、スペインで実施された大規模な非劣性ランダム化比較試験です。この研究はスペインの8地域、15の三次医療機関で実施され、平均的なリスクを持つ集団(50〜69歳で大腸がんの個人歴や家族歴がない人)を対象としました。研究の主な目的は、「2年ごとの便免疫化学的検査(FIT)が1回の大腸内視鏡検査と比較して、大腸がん死亡率を減少させる効果に劣らないかどうか」を評価することでした。
この研究では57,404人の参加者を無作為に2つのグループに分け、一方には大腸内視鏡検査の案内を、もう一方には便免疫化学的検査(FIT)の案内を送りました。前者は一回検査を受けることを推奨し、後者は2年ごとに検査を受け続けることを推奨しています。そして10年間追跡調査を行い、大腸がん関連死亡率、大腸がん発生率を評価しました。参加者はそれぞれの検査の招待を手紙で受け取りますが、検査の予約を取らなかった場合には、3ヶ月後、6ヶ月後にリマインドの手紙が送られました。

研究の結果ですが、まず、予想されるように、便免疫化学的検査(FIT)グループの方が大腸内視鏡グループよりも検診参加率が高かったことが判明しました(FITグループ:39.9%、大腸内視鏡グループ:31.8%)。26332名の大腸内視鏡に招待された人のうち、内視鏡検査に同意したのは5293名であり、3074名は招待に反してFIT法による検査を望んだため、参加率が低かったと考えられました。今回の研究では、招待された後、望まない場合にはそれ以外の方法への変更が許容されたため、実際に内視鏡検査を受けた人の割合は低かったわけです。非常に実際的な結果であると思われます。FIT法に参加した人の53%は8割以上の検査に参加しました。

10年間の大腸がん関連死亡率においては、FITグループ(0.24%、60人死亡)が大腸内視鏡グループ(0.22%、55人死亡)と比較して劣らない結果を示しました。これは統計的に有意な非劣性の結果です(リスク差 -0.02%、95%信頼区間 -0.10〜0.06%)。つまり、大腸内視鏡を1度受けるように招待することと、2年に一度便免疫化学的検査を繰り返し受けるように招待することでは、10年間の大腸がん死亡率の差はなかったという結果です。10年間の大腸がん発生率においても、FITグループ(1.22%、314症例)と大腸内視鏡グループ(1.13%、286症例)の間に大きな統計的差は見られませんでした(リスク比 0.92、95%信頼区間 0.79-1.08)。

さて、この研究の結果はどのように解釈をすれば良いでしょうか。同じ4月号に掲載された雑誌編集者による論考(2)では、今回の研究の結果を「国または地域でスクリーニングが導入された場合に期待される効果について、信頼性の高い推定値を提供する」と評価しています。
この研究の興味深い点は、大腸内視鏡を受けるように招待した場合と便潜血法を2年に1度受けるように招待した場合の比較では10年間の大腸がん死亡率の差はなかったという点です。この解析には、招待されたが、検査を受けなかった人も含まれています。仮に日本でも同様の、例えば10年に一度の大腸内視鏡を検診で提供するプログラムを立ち上げたとしても、実際には参加しない人が多くいることは想像に難くありません。そのように、現実の検診を提供するときの状況通りに解析した場合に両者に差がないという結果だったわけです。
一方で、実際に計画されたように大腸内視鏡検査を受けた人と、便潜血法を2年に1度受けた人のみに解析を絞った場合、「大腸がんの発生率と死亡の減少は大腸内視鏡の方がFITよりも大きい傾向があった」と報告されていますが、この結果の解釈には注意が必要です。なぜならば、検診を受けなかった人は、検診を受けた人に比べて、大腸がん以外の、他の死因を含めた死亡率も高かったという結果が出ていたからです。これは提案されたように検診を受けた人=健康に関心が高い人であった可能性があるため、単純に検診方法の違いで生じた差ではないかもしれないためです。

さて、実際に、私たちがどのようにこの研究を受け止めれば良いかは難しいところです。社会的に見ると、1回の大腸内視鏡検査を提供する検診プログラムの呼びかけと、2年の1度の便潜血検査を提供する検診プログラムの呼びかけは住民の大腸がんを予防する効力は同じだろうと推定できるかもしれません。ただし、この前提には同じような大腸内視鏡検査の参加率や、便潜血法の参加率が得られる場合、などの条件がつきます。大腸内視鏡検査の参加率が異なる場合にはその限りではないかもしれません。
また、個人の観点からみると、平均的な大腸がんのリスクの人にとっては10年に1回大腸内視鏡検査を受けることと、2年に1回の便潜血法を繰り返すこと(ただし約3分の1の人には結果として内視鏡検査が推奨される)を天秤にかけることができるかもしれません。一方で、大腸内視鏡グループではポリープなどの前癌病変の検出率が高く、この成果が10年間の追跡では十分に評価できていなかった点にも留意する必要があります。

論考でも述べられているように、個人にとっての予防的手段としての大腸がん検診は費用や、個人の優先順位や価値観に基づいた意思決定が重要になります。また、日本ほど大腸内視鏡検査へのアクセス(費用や実施可能な施設数)の良い環境の国は稀であるため、一概に今回の結果をそのまま導入することは難しいと思われます。

今回紹介したように、定期的な大腸内視鏡検査あるいは定期的な便検査法などを受けることは大腸がん死亡率を低下させることができるということが世界のコンセンサスになっています。どのような方法が最も良いかは今後の研究を待つ必要がありますが、自分たちが利用できる方法で検診を続けることが肝要と思われます。

引用文献
1.Effect of invitation to colonoscopy versus faecal immunochemical test screening on colorectal cancer mortality (COLONPREV): a pragmatic, randomised, controlled, non-inferiority trial. Lancet 2025.405(10486);1231-1239
2.First head-to-head trial of colonoscopy versus faecal testing for colorectal cancer screening. Lancet 2025. 405(10486);1204-1206

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