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Vol.25098 日本と全く違う中国の社会保障制度

医療ガバナンス学会 (2025年5月29日 08:00)


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この原稿は医療タイムス“OneVoice OneAction”からの転載です。(3月19日配信)

東京大学教養学部
前期課程理科三類1年
清水 敬太

2025年5月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●「保険」の概念がない中国の事情

はっきり言ってしまえば、中国の社会保障制度は日本よりも遅れている。日本ではおおむね、病気になったり体調を崩したりすれば、それほど高くない金額で医療を受けることができる。

それは国の制度として用意されている社会保障制度のおかげであり、日本国内のどこにおいても成り立つことである。

ところが中国ではそのような社会保障の整備は遅れている。中国は皆保険制度を目指してはいるものの、公的保険は都市部の学生などと農村部の全員については任意加入であるという。

特に農村部では、そもそも「保険」という考え方がなじんでいないようで、病気やけがに備えてお金を払っておく、という考えが理解されづらいらしい。

しかし一方で、中国特有の事情から、中国で健康を害する人は増えている。

●大学の実情を見定めるため中国訪問

私は今年3月9日、中国・復旦大学の公共衛生学院(SPH)を訪問して、姜慶五先生とお会いする機会をいただいた。

姜先生とともに王和興先生、王継偉先生にお会いし、先生方の指導する大学院の学生たちとも交流しながら、中国における公衆衛生上の諸課題について、先生方の考えを伺った。

将来医師になろうと考えている私は、中国の医療分野の先生に会いたいと考え、医療ガバナンス研究所の上昌広先生に、姜先生を紹介いただいた。

今、東京大学では中国人留学生がとても多く、学部以上に大学院ではかなり多い。彼らはおしなべて優秀である。「中国の過酷な受験戦争をくぐり抜けた猛者たちが東京大学に来る」と聞いていた。

が、実際の中国の状況について具体的に知っていることがほとんどなかったため、中国の大学の実情を見定めようと、中国に赴いた。

中国ではとても競争が激しい。幼いころから、「将来はよい大学に入ってよい企業に就職するのだ」「そのためにはひたすら勉強だ」と、勉強にいそしむのだという。

●「勉強で消耗」が健康に悪影響

中国の学生は皆勉強に身を捧げ、消耗しているが、他の学生に取り残されまいと、勉強をやめることはない。このことの健康への副作用は明白だ。

例えば、中国の子どもの一部は、健康に気を使う間もなく勉強するので、口腔環境が劣悪だそうだ。

日本ならば健康診断で口腔環境を診たり、保健室で歯の磨き方を指導されたりと、学校で勉強以外のことを扱う機会があるため、改善につながりやすい。

しかし中国の学校は、大学受験のための勉強を教える場所でしかないので、生活習慣を改善することがまったくできないのだという。

また、中国は日本以上にデジタル化が進んだ国で、皆がスマホ中毒の様相を呈している。その結果、お会いした先生方が調査した幼稚園では、近視の幼稚園生がおよそ2割いたという。

●社会保障費「多ければ多いほどよい」

穏やかで親切な姜先生が、珍しく私の言葉をさえぎり、強く言い切った場面があった。日本では、国の歳出のうち社会保障が肥大化し、それを適正化することが必要であると認識されている。

その状況と中国とを比較して、「中国はどうするとよいか」と尋ねようとしたところ、私が質問を言い切る前に、「the more, the better(多ければ多いほどよい)」と断言した。

中国では個々人に対して健康意識の向上を期待することは難しく、そうである以上政府がお金を出して医療の状況を改善することが最も手っ取り早い。

前述の口腔環境の例について、中国では口腔環境を保つ意識が希薄で、歯科医院に行く頻度は1年に1度以下という人も多いという。

そんな中、国家全体で健康意識を高めるためには、政府がある種強権的に政策を行うのが望ましく「とにかくどんどんやるべきなのだ」と姜先生はいう。

●患者を知り、考える必要性が

これは日本とまったく異なる状況だ。社会保障の適正化という日本の議論は普遍的なものではない。医療の制度・状況が大きく異なる中国では、個々人の健康を考えれば、まだまだ社会保障が十分ではない。

私はこれまで日本の医療しか受けたことがなく、そのため日本以外における医療はどのようになっているのか、想像力を働かせることが極めて難しかった。

しかし今回の訪問で、医療について考える際は、きちんと患者さん(あるいは、患者さんになるかもしれない人)のことをよく知り、よく考えることが必要であることを痛感させられた。

 

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