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Vol.25132 【音声記録入手】ダイキン工業、株主総会で「PFOA健康被害なし」 間質性肺疾患のダイキン従業員は無視

医療ガバナンス学会 (2025年7月17日 08:00)


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Tansaリポーター
中川七海

2025年7月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2025年6月27日、ダイキン工業の122期株主総会が、大阪市内のホテルで開かれた。

PFOAを製造していたダイキン淀川製作所(大阪府摂津市)を巡っては、2カ月前に健康被害が明らかになったばかり。京都大学の研究者や医師が、PFOA製造従事者たちの間質性肺疾患を突き止めた。科学論文として公表している。

ところがダイキンは、この日の株主総会で断言した。

「当社としましては、PFOAによる健康被害が生じているとは認識しておりません」

淀川製作所の周辺地域へのPFOA汚染も全く収束していない。株主からは汚染への認識や対策に関する質問が挙がった。

ダイキンは「ごまかし回答」に終始した。Tansaが入手した株主総会の録音データをもとに、詳報する。

●「健康影響についての申し出はございません」

京都大学の研究者や医師からなる研究チームは2025年4月、労働衛生分野の科学誌『Industrial Health』でダイキン従業員たちの健康被害について報告した。

研究チームが血液検査と健康調査を実施し、ダイキン従業員3人の間質性肺疾患への罹患が判明したのだ。間質性肺疾患は、肺が繊維化して呼吸がしづらくなる疾患だ。最悪の場合、死に至る。

3人の共通点は2つ。一つは、血中のPFOA濃度が高いこと。もう一つは、淀川製作所でPFOA製造に従事していたことだ。

研究チームは「間質性肺疾患は、PFOA曝露から20年、30年経ってから発症する。被害者はまだまだいるだろう」と指摘している。

ところが化学事業担当の役員である平賀義之氏は、従業員の健康被害についてこう述べた。

「当社では毎年、定期健康診断を行っており、その際に健康不安や心配事があれば、都度会社や産業医に相談するように伝えていました。これまで健康影響についての申し出はございません。そのため現在、当社としては、PFOAによる健康被害が生じているとは認識しておりません」

株主総会では、『Industrial Health』に掲載された論文については触れなかったが、Tansaがダイキンに質問状を送った際は、こう回答している。

「弊社は、当該論文の作成に携わっておらず、その分析方法や精度などの詳細を把握していないため、一連のご質問へのコメントは差し控えさせていただきます。」

論文に反論するのではなく、見解を示すことを避けているのだ。

●杜撰な岡山・吉備中央町の「岡大教授報告」は引用

その一方でダイキンは、自社が作成に携わっていない研究を、株主総会で引用した。

岡山県吉備中央町の住民を対象とした血液検査結果だ。

吉備中央町では、2020年から2023年の3年間、水道水に800〜1,400ng/LのPFOAが混入していた。国が定める指針値の28倍の数値だ。町民の訴えを受け、町は希望する住民の血液検査を実施。709人が参加した。

2025年5月、岡山大学の頼藤貴志教授が、分析結果の中間報告会に登壇した。PFOAが混入した水道水を飲んでいた人と飲んでいなかった人の、問診票の内容を比較した結果だ。

「明らかな差は観察されなかった」

だが、その発表内容には複数の問題点があった。

例えば、3年間で日常的にPFOA混入水を飲んでいた人と、1度でもPFOA混入水を飲んだ経験のある人を同群で捉えていた。

PFOAの健康影響の一つである精巣がんの発症率については、女性のデータを分母に含めていた。

それにもかかわらず、平賀氏は株主の前でこう述べた。

「岡山県吉備中央町は先ごろ、岡山大学の協力を得て、町民に対して実施しました血液検査と、健康影響の関連調査の中間報告を実施し、その中でPFASの一種であるPFOAでは、『明らかに関連する指標は認められない』との見解を示したことを、当社でも一部報道を通じて確認しております」

なぜ、査読の上、論文掲載された間質性肺疾患の研究結果は採用せず、杜撰な岡山大学の「中間報告」は利用するのか。

●竹中直文社長と大阪府、主張に食い違い

淀川製作所の周辺では、深刻な汚染を引き起こしている。摂津市内や隣接する大阪市東淀川区内の地下水から、全国最高濃度のPFOAを検出しているのだ。株主からは汚染対策についての質問が出た。

ところが竹中直文社長は、対策以前に、汚染に対する責任をごまかした。ダイキンは、あくまでも、「汚染原因の一つ」としか認めなかったのだ。

「過去にPFOAを製造・使用していたことから、淀川製作所周辺の地下水からPFOAが確認されているということにつきましては、当社が原因の一つであると認識しており、大阪府、摂津市と協議しながら対応に取り組んでおります」

しかし、大阪府事業所指導課は2022年6月、Tansaの取材に対し「淀川製作所が主たる原因」であるとすでに言明。対応策を探るため、ダイキン、摂津市、大阪府の3者で2009年から協議を重ねてきたと説明している。

竹中社長は株主総会で、ダイキンへの監督権限がある大阪府が事実誤認をしていると語ったことになる。

●濃度不明の処理水を排出

大阪府の見解に背いてでも、汚染に対する自社の責任をごまかそうとする。当然、ダイキンの汚染対策への取り組みは不十分なものとなる。

株主総会で竹中社長が「PFOA対策」として挙げたのは、これまで近隣住民から「対策ではない」と指摘されてきた対応ばかりだった。

1つ目が、工場敷地内のPFOA地下水について。

「淀川製作所敷地内の地下水中に含まれるPFOAの対策として、大阪府と摂津市と相談しながら、PFOAを浄化する排水処理設備を新設高度化し、地下水の揚水と浄化を行い、汲み揚げ量の増加も図ってまいりました」

ダイキンは、昨年の株主総会でも同様の説明をしていた。敷地の地下に溜まった高濃度PFOA水を汲み揚げて処理し、下水として流すという内容だ。

だがダイキンは、処理水のPFOA濃度を開示しない。周辺住民や大阪府が開示を求めても、頑なに拒否している。

そのため、十分に浄化した上で排水しているのかが分からない。

●遮水壁設置後、PFOA濃度が国指針600倍に上昇

「PFOA対策」の2つ目は、遮水壁の設置だ。敷地の地下にある高濃度PFOA水が敷地外に移動しないよう、敷地外周の地中に、遮水壁を打ち込むというものだ。

竹中社長が説明する。

「2022年からは更なる対策として、専門家の意見も踏まえながら、淀川製作所敷地外への地下水の流出を防ぐ対策として、遮水壁設置の検討を進め、2023年に遮水壁の建設工事に着工いたしました」

竹中社長の説明で、決定的に不足しているのは遮水壁設置の効果だ。一切言及しなかった。なぜか。

実は遮水壁の効果がみられていないのだ。

遮水壁が設置された地点から数メートルにある、敷地外の井戸では、理由は不明だが、PFOA濃度が逆に上昇している。

遮水壁設置前の2022年8月時点では、濃度は21,000ng/Lだった。

ところが遮水壁設置後の2024年8月、濃度は30,000ng/Lに上昇した。設置前の約1.4倍の数値で、国が定める指針値の600倍にあたる。

●自治会長しか参加できない住民説明会

竹中社長のごまかしは続く。

「地域住民の方々との対話の観点からは、地域の方々への説明会の開催や、近隣住民の方との対話の場を設けてまいりました」

地域住民が誰でも参加できる説明会が開かれ、対話の場が設けられてきたような説明だ。

だが、実態は異なる。

竹中社長が示す「説明会」に参加できるのは、淀川製作所の周辺地域の自治会長のみなのだ。

さらにダイキンは、説明会で配布する資料に「自治会以外の方への配布や共有はお控えください」と記し、情報共有を制限している。

会場には、実情を知る地域住民の株主が参加しており、こう指摘した。

「地域住民は、『これは住民説明会ではない』とはっきりと断言しております」

Tansaは、地域の自治会長として説明会に参加した経験のある、中村良光さんを取材した。

「説明会には3〜4回参加したけど、工場敷地内の浄化の話ばっかりや。畑にもつながる地域の用水路にPFOAを流していたことがポイントやのに、そういう話については答えてくれへん」

同じく説明会に参加したことがある、穂積範仁さんは言う。穂積さんは、地域の自治会を束ねる連合自治会長だ。

「とにかくダイキンさんの今までのやり方はもう時代に合いませんので。まずは会話のテーブルに着いてスタートしましょうや、これが地域の皆さんの思いです」

化学事業担当の役員である平賀氏は、今後の住民とのコミュニケーションについても触れた。

「地域住民の方々へ向けた、専用の新たな窓口も設置する予定であります」

竹中社長は、さらに強調した。

「地域の皆様との信頼関係を一層強化して、スムーズなコミュニケーションを実現するために実施するものであります」

しかし、この窓口は個別に住民に対応するためのものだ。住民が集団で参加でき、ダイキンに対策を迫れるような住民説明会の実施については、言及を避けた。

●国連、ダイキンによる汚染者負担を強調

ダイキンは現在も、法規制が及んでいないPFASを淀川製作所で製造・使用している。

竹中社長は、「PFASを含むフッ素材料」について、こう表明した。

「当社としましては、今後も規制を遵守しながら、科学的評価を得たフッ素材料を供給してまいります」

だが日本では、PFOAをはじめ、PFASへの規制が欧米諸国に比べて追いついていない。ザルのような規制のもと、PFAS製造を続けるのは危険だ。

それよりも、まずは自社がすでに引き起こしたPFOA製造従事者への健康被害、そして淀川製作所周辺の汚染に真摯に向き合うべきだ。

化学物質公害には、「汚染者負担の原則」(Polluter Pays Principle:PPP)がある。

2023年夏に国連の「ビジネスと人権」作業部会が来日。ダイキンによるPFOA汚染を調査した結果、こう報告している。

「私たちとしては、UNGP(ビジネスと人権に関する指導原則)と汚染者負担の原則に従い、この問題に取り組む責任が事業者にあることを強調したいと思います」
※この記事の内容は、2025年6月27日時点のものです。
https://tansajp.org/investigativejournal/12088/

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