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Vol.24134 医療機器業界と病院の“深い関係” 4年間で1,253億円の支払いと不十分な情報開示

医療ガバナンス学会 (2025年7月18日 08:00)


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医療ガバナンス研究所 理事
公益財団法人ときわ会常磐病院 乳腺甲状腺センター長・臨床研修センター長
尾崎章彦

2025年7月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

昨日の記事では、長野県佐久市立国保浅間総合病院における医療機器に関連した不正の実態、そして、こうした不正が繰り返される医療機器業界の構造的な問題についてご紹介しました。

医療機器分野は近年急速に市場規模を拡大しており、2022年には国内市場が約4.2兆円に達しました。AI搭載機器やロボット支援手術などの登場により、今後もさらなる成長が見込まれます。しかしながら、業界は多数の中小企業と複数の業界団体に分かれており、製薬業界と比べても情報開示制度や規制の整備が大きく遅れているのが現状です。

しかも日本国内では、医療機器業界と医療現場の間の金銭関係や透明性にについて体系的に調査・分析された例もほとんどありませんでした。

こうした背景のもと、私たち医療ガバナンス研究所では、2019年から2022年の4年間にわたり、日本医療機器産業連合会(JFMDA)に加盟する117社および一部の関連企業が公開した支払いデータを網羅的に収集・分析しました。

支払いは「研究開発費」「学術研究助成費」「講演・執筆・コンサルティング費」「情報提供関連費」「その他の費用」の5つに分類され、総額は約1,253億円に上りました。

このうち最も支出が多かったのは、医療機関等への支払いである学術研究助成費で、総額は約411億円にのぼり、全体の32.8%を占めていました。とくにこの中でも、医療学会との共催セミナーなどに供する「共催学会費」が最大の項目であり、約153億円が支払われていました。

次が、情報提供関連費で、総額は約320億円(25.6%)となっています。その多くは医療機器の説明会や製品紹介セミナーといった会議関連費に充てられ、約199億円が支出されていました。医療者に供される飲食や交通費、宿泊費なども、この項目に含まれます。

3番目は研究開発費で、総額は約271億円(21.6%)でした。これは、臨床試験費用や基礎研究費、製造後調査費など、医療機器の開発や改良に関連する支出が含まれます。

講演・執筆・コンサルティング費も総額で約216億円(17.2%)にのぼり、その中でも講演料が最も多く、約142億円を占めていました。医師が企業主催の講演会で講演を行った際の謝礼などが該当します。

年別の推移では、2019年の支払総額は約373億円でしたが、2020年には約263億円へと、およそ30%減少しました。新型コロナウイルスの感染拡大により、対面イベントや出張などが大幅に制限されたことが背景にあると考えられます。

その後、2021年には約287億円、2022年には約330億円と徐々に回復傾向を示したものの、依然として2019年の水準には達していません。

カテゴリ別に変動を見ると、とくに情報提供関連費の減少が目立ちます。2019年には約129億円だったのが、2020年には約50億円にまで減少し、約60%の落ち込みとなりました。これは、展示会やセミナーの中止によって関連経費が大きく削減されたことと一致します。

一方で、講演料などの講師謝金は2022年に約142億円に達し、2019年と比較して約31.5%の増加となりました。これは、講演活動がオンライン形式などで再開・拡大されたことが一因と考えられます。その点、講演活動自体は、コロナ前よりも活発に行われている可能性があります。

また、支払い企業の偏りも顕著でした。上位10社のみで約877億円、すなわち全体の70%を占めていました。最も多く支払っていたのはメドトロニック社で約129億円、ニプロも約84億円となっています。一方で、支払額の少ない下位50%の企業をすべて合わせても、全体の5%未満にとどまりました。このような偏りの程度を示すジニ係数は0.85と非常に高く、ごく一部の企業による支払いが市場全体を大きく左右している構図が明らかになりました。

一方で、情報開示の実態には深刻な課題があります。対象となった117社のうち、実際に支払い情報を公開していたのは92社(78.6%)にとどまりました。また、その公開形式や内容の質には大きなばらつきが見られました。

公開されていた情報のうち、67.4%はPDF形式で、その多くが画像形式を含んでおり、検索や集計が困難でした。検索機能を備えていた企業は26.1%にすぎず、エクセルなどの形式でデータをダウンロード可能な企業は1社もありませんでした。つまり、形式上は開示されていても、第三者による分析や比較を困難にする構造となっていました。

さらに、企業間でのフォーマットの統一性も著しく低く、92社のうち81.5%が独自の形式で情報を開示していました。テンプレートの標準化が行われていないため、複数企業にまたがる横断的な分析には多大な時間と労力を要します。

また、開示された情報の保存期間にも課題が見られました。全体の32.6%の企業が一定期間を過ぎると情報を削除しており、継続的なモニタリングや年次比較といった時系列分析が妨げられていました。

本研究で明らかになった医療機器マネーの支払いは、それ自体は違法ではありません。また、こうした支払いの情報開示についても、現時点では法的な義務は課されていません。

しかしながら、医療機器業界に関するスキャンダルが相次ぐ今、少しずつでもあるべき透明性を確保していくことが重要だと考えます。その取り組みを通じ、企業自身が自律的に行動し、医療現場とより健全な関係性を築いていくことが期待されます。

医療機器は、患者さんの診断・治療・生活の質の向上において不可欠な存在であり、その重要性は今後さらに高まっていくものと考えられます。私たちは医療側として、医療機器企業との関係がより健全で信頼性の高いものとなるよう、引き続き自律性をもって活動を推進し、医療現場および患者さんに還元できるよう尽力してまいります。

 

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