医療ガバナンス学会 (2025年7月31日 08:00)
福島県立医科大学 医学部 放射線健康管理学講座
助教/保健師/公衆衛生学修士(MPH)/博士(医学)
伊東 尚美
2025年7月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
その後、カナダで子育てをしながら生活する中で、福島の出来事が世界的にも大きな関心を集めていることを実感しました。「福島は今どうなっているのか?」「人々はどのような暮らしをしているのか?」といった問いを数多く受ける中で、「福島の現実を社会に伝える責任があるのではないか」という思いが、私の中に芽生えていきました。
2016年に日本へ戻り、帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学。高橋謙造教授(帝京大学)とのご縁をいただき、福島県浜通り・富岡町の乳幼児健診データを用い、原発事故後の子どもの肥満傾向をテーマに研究を進めました。避難や帰還、仮設住宅など、生活環境の大きな変化が子どもたちの健康に及ぼす影響を「データ」として初めて目の当たりにしたときの衝撃は、今も忘れられません。
そのご縁から、立谷秀清市長(相馬市)をご紹介いただき、相馬市の保健師として勤務する機会をいただきました。災害公営住宅「相馬井戸端長屋」において、震災後も地域に残り暮らす高齢者の支援に携わってまいりました。生活の場がそのままケアの場となるこの環境の中で、住民の声に耳を傾け、健康チェックや見守り活動を続けるうちに、私の中で一つの視点が明確になっていきました。それが、**「Aging in Place(住み慣れた地域で、自分らしく、最期まで暮らす)」**という考え方です。
このテーマは、福島の現場での実践と経験を通して私の中に深く根づきました。坪倉正治教授(福島県立医科大学)のご指導のもと、井戸端長屋での調査を実施し、入居者の生活状況や社会的つながり、健康影響について分析。その成果は英語論文として国際誌に発表することができました。これは、災害後の長期的支援の在り方を公衆衛生の視点から問い直す研究でもあります。
こうした背景のもと、2025年9月20日(土)・21日(日)に、福島市・コラッセふくしまにて、「放射線看護学会学術集会」が開催されます。https://conference.wdc-jp.com/rnsj/14/ 大会長は佐藤美佳教授(福島県立医科大学)が務められ、私は、放射線看護の臨床・研究の両面でご活躍されている山本知佳先生とともに、企画運営委員として準備を進めております。
本学術集会では、原発事故後の地域における健康課題、看護実践、避難・帰還に関する課題、災害における高齢者支援、さらには看護と公衆衛生の連携など、多角的な視点からの議論が行われます。どのような状況にあっても、人々が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられる社会の実現を目指す――それが、私たちの根底にある思いです。
すでに鉄医会附属研究所の高橋謙造先生にはご支援をお願いしており、医療ガバナンス研究所の皆さまにも、広告掲載などの形で応援を賜れましたら大変ありがたく存じます。
福島で培われた知見と実践を、新たな看護のビジョンとして全国・世界に発信し、未来に向けた対話と連携の輪が広がることを心より願っております。