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Vol.125 東日本大震災の危機を乗り超えよう。新しい日本づくりに向けて・・・日本は立ち直れる

医療ガバナンス学会 (2011年4月15日 06:00)


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大樹総研執行役員・特別研究員
横浜市立大学客員教授
元財務省官僚 松田学
2011年4月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


あの悲惨な東日本大地震から一か月が経ちました。福島原発問題も含め、多くの人々が遅々として進まない対策への怒りと不安を感じていることと思います。こ の戦後最大の危機にあって、日本の国は本当に大丈夫なのか、果たして危機から立ち直れるのかという心配も広がっています。私たち日本人全体が大きな課題に 直面することになった今、必要なのは、国民一人ひとりが少しでも元気を取り戻すことではないでしょうか。そのような思いから、日本には、この危機を克服す るだけの力があることについて、簡単にまとめてみました。

―― 日本にはおカネは十分にある!
近年の日本経済では、需要が供給力を大きく下回るデフレ状態が続いてきました。他方で、日本は巨額な金融資産(家計や企業などが持つ預貯金や現金、債券など)と、世界最大の対外純資産を持っています。
こうした日本経済にとって最大の課題は、日本が有する巨額の金融資産のストック(蓄積)を、国内での資金フロー(おカネの流れ)に引き出し、有効に活用す ることでした。国内でおカネが回れば、それがさらに新たな資産を形成することになります。しかし、それが不十分であれば、海外に過剰なマネーを供給するこ とで金融バブルを促進し、他方で、日本経済そのものは停滞してしまうということになってしまいます。

今回の大震災からの復興は、こうした不幸な状態から日本を脱却させる契機にできるはずです。
まずは、被災者の救済、被災地の復旧・復興、経済や生活基盤の安定・再建が急がれますが、今回の危機が、日本全体がちょうど転機を迎えているときに発生 したものだったことは重要な点です。危機克服のプロセスそのものを、日本の国が次の局面を切り開くビジョンと設計へといかにつなげていけるかが問われてい ます。国家の再建へと、巨額な資産ストックをいかに活用するか、構想力と知恵が問われていると思います。

日本経済にとって最大の問題は需要不足でした。政府は先進国最悪の財政状態にあり、財政の出動には期待できませんでした。しかし、政府におカネはなくて も、また、民間経済はフローでは回っていなくても、ストックの面では、日本には巨額な資産が蓄積され、それがおカネの流れとして回っていかない「凍結状 態」にありました。金融資産のストックは、これをフローとして有効に国内で循環させなければ、経済は縮んでいくことになりかねません。未曾有の大震災後の 現局面で避けなければならないのは、消費の過剰な自粛ムードです。おカネが経済で回らなければ、被災者救済、被災地復興に必要な日本の経済力自体が低下し てしまいます。必要なのは、日本人を元気にするメッセージです。それによって、いまこそ、凍結した資産ストックをフロー化する戦略を実行し、これを国家再 建へとつなげていく動きを力強く始めるときだと思います。

―― 国債増発と2,700兆円の金融資産
ただ、国民の預貯金を活用するといっても、政府が借金を増やし、国債を増発することには様々な問題があります。政府の債務をどんどん増やしていけば、将 来の世代は莫大な増税を迫られるだけでなく、せっかく納めた税金が過去の国債の返済と社会保障給付で消え、必要な政策に回らなくなってしまいます。日本の 財政規律を市場が疑えば、日本の国債は投げ売りされ、金利が高まり、今度は金利負担で財政が悪化する悪循環になるでしょう。もし日本の財政が破綻すれば、 日本政府は外国から借金していないだけに、国民の財産のほうにしわ寄せが来ることになりかねません。国民の資産を預かる金融機関が巨額に保有している国債 の価値が下落するからです。

しかし、今回の東日本大震災からの復興は、国債を増発してでもやり遂げねばなりません。それには何十兆円もかかるでしょう。
でも、日本にはこれを克服する力が十分にあります。たとえ政府の借金残高が1,000兆円になっても、日本には家計が持つ1,400兆円も含め、 2,700兆円もの金融資産があります。海外に対して持つ純資産(海外に対する債権から海外に対する負債を引いたもの)は270兆円にのぼり、国内で有効 に活用し切れていない財源は多額です。
今、震災復興で国の予算規模にして10兆~20兆円といった数字が出ていますが、2,700兆円の金融資産残高の1%だけで、27兆円にもなります。日本 は対外純資産が世界ダントツ一位の270兆円もあり、世界に過剰なマネーを供給してきたのですから、2,700兆円の資産運用の中身を1%だけ震災復興に 回せば(国債増発も含む)、それで起こるのは、270兆円の対外純資産の縮小に過ぎず、それはむしろ望ましいことです。
少なくとも、日本におカネがないというのは正しくないと思います。
この中で、例えば10兆円程度の追加国債を市場が消化できるかという問題も、これだけのキャパシティーを考えれば、それほど大きな問題ではないでしょう。現に日本政府は年間に、160兆円も国債を発行しています。

―― ファイナンスの工夫を
ただ、国債は将来の世代の負担になります。その返済は60年、およそ3世代にわたって行われます。国債のうち特に避けるべきなのは、社会保障のように将 来に資産を残さない支出を賄う赤字国債です。しかし、公共事業のように将来に資産を残す投資項目に充てるための借金である建設国債は、将来の世代も負担を 分かち合ってよいものです。まちや住宅、施設や設備を再建する震災復興もそうです。ただし、被災者救済のため、赤字国債を増発せざるを得ないなら、少なく ともその分は、近い将来の増税で償還を担保し、財政規律を示す必要もあるでしょう。

いずれにしても、投資項目については建設国債が正当化される上に、日本のようなデフレ・不完全雇用下では、震災復興需要で投資が増えれば、それに見合う 水準まで貯蓄も増え、その貯蓄の水準に見合う水準までGDPも増えます。これは、マクロ経済学が教えるとおりです。将来世代に資産も残りますから、今の状 況の中での建設国債増発には大きな問題はないと思います。
しかし、巨額な将来へのツケを残している私たちの世代は、建設国債も極力少なくする努力をすべきでしょう。そのために、国債以外の方法で日本の金融資産を 活用する知恵と工夫が問われていると思います。それは、一人一人の国民自らが価値ある使い道を選択して、自らの資産を活用することです。

今回の大災害は、日本人がDNAとして持つ連帯と協調、助け合い精神をよみがえらせました。財産は天国には持っていけません。資産を多少とも余計に持つ 人々が、自らのいきがいや地域や公のために投資したり支出することで喜びを感じられる仕組みを、社会保障や震災復興、地域再生など様々な分野で組み立てる 必要があると思います。日本の資産を活かすために、色々な工夫の余地があると思います。それも、2,700兆円と270兆円という数字が示すキャパシ ティーがあればこそです。

―― 資産と国民のパワーを活かして明日の日本を
おカネだけはありません。増大する元気な高齢者や女性、若者たちの活力を地域や非営利活動に引き出す仕組みももっと必要です。資産と国民のパワーの活用 で、将来の増税を少なくすることが課題です。いま問われているのは、こんにちの日本を築いた日本人の課題解決力や連帯と協調の精神で新しいコミュニティー を創造し、「安心革命」を達成するための、社会全体の再構築だと思います。それが、世界共通の課題に対して、他国のモデルになる答を出す「課題克服先進 国」日本への道に通じていく。それぐらいの大きな方向感と志をもって震災対策に臨んでこそ、本物の被災者救済につながるのではないでしょうか。

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