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Vol.25172 高齢社会における在宅看取りの実態

医療ガバナンス学会 (2025年9月12日 08:00)


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この原稿は医療タイムス(2025年8月20日)からの転載です。

オレンジホームケアクリニック
医師
小坂真琴

2025年9月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●在宅医療の現場で高齢社会を体感
私は現在、医師4年目で、福井県福井市のオレンジホームケアクリニック(以下、オレンジ)に勤務し、在宅診療に従事しています。初期研修は鹿児島市内で修了しました。
高齢社会に突入した現代で、高齢者医療の需要は急速に拡大し、国際的にも注目を集めている分野です。
実際、Pubmed(パブメド)でGerontology(老年医学)のキーワードで検索するとヒットする論文の件数は、2013年の3104件から23年の1万2728件と10年間で約4倍に増加しています。
中でも日本は、現代社会の中にあって最も高齢者比較率の高い社会であり、その最前線を体感できるのが、まさに在宅診療の現場です。
看取り一か月前の緊急往診の実態私は大学在学中から、オレンジの研究発信プロジェクトにインターンとしてかかわってきました。このオレンジの研究チームでは、これまでに25本の論文を発表しています。今回は、25年5月に医学誌 Medicine (Baltimore) に掲載された研究を紹介します

この研究では、自宅で看取りを迎えた患者さんを対象に、看取り前1カ月間の緊急往診の実態を分析しました。
その結果、死亡日直前には往診回数が増加する傾向が見られました。また、緊急往診時の対応については、約6割が薬剤処方、点滴、血液検査などの医療的介入を伴っており、残りの約4割は経過観察のみで対応されていました。
これらの結果から、一部の緊急往診はオンライン診療に代替できる可能性があり、終末期医療における医療資源の効率的活用について議論しました。

●増加する「親子による老老介護」
現在は、より広い視点から在宅診療の実態を捉える研究に取り組んでいます。具体的には、「どのような人が在宅医療を利用し、どのような転帰をたどっているのか」という点や、「超高齢者同居世帯がいかに健康にそして安全に生活を送ることができるか」という課題をテーマに、日々の診療とそのデータをまとめる研究の両輪で、試行錯誤を重ねています。
私がオレンジで勤務を開始してからの約1年半で、約50人の高齢者を定期的に診察してきました。年齢の中央値は82歳で、半数以上が80歳以上です。
疾患別に見ると、70歳代ではがん終末期、80歳代以上では認知症や老衰、廃用症候群のほうが多い傾向にありました。
また、家族構成に注目すると、70歳代では独居または夫婦2人暮らしが多い一方で、90歳代以上になると、子世代との同居が圧倒的に多く見られました。特に、90歳代の親と60〜70歳代の子が同居する「親子による老老介護」は、今後さらに増加すると考えられます
在宅医療は、通院が困難な方を対象とした医療サービスであり、通院困難はすなわち生活困難ですが、「困難さ」の内容は患者ごとに大きく異なります。
「親子の老老介護」という今までにない形態は、もちろんうまくいくこともあれば、今までにない困難が生じる可能性もあります。

●ケアの制度設計や支援体制の整備が必要
印象に残っている「親子の老老介護」の症例をご紹介します。
90歳代の心不全の女性患者は、70歳前後の長男と同居していました。長男は医師であり、東京で勤務していましたが、父親の脳卒中を機に地元に戻り、両親との同居を再開しました。
父親の療養生活を十数年にわたって支えたのち、母親親が心不全を発症。長男は「施設には入れたくない」と考え、自ら食事介助を行い、心不全の状態をながら利尿薬の調整をし、母親の好みに合わせたアイスクリームを用意するなど、細やかなケアを続けていました。
このように、主介護者が医師であったからこそ可能となった高度度な在宅ケアの例もありますが、多くの家庭ではここまでの対応は難しく、今後の制度設計や支援体制の整備が必要です。今後も、よりよい在宅医療の提供に向けて、現場の経験をもとに研究を進めていきたいと考えています

 

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