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Vol.25173 大峯山山上参り・前鬼修行で気を整える(前編)

医療ガバナンス学会 (2025年9月16日 08:00)


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鉄医会附属研究所
高橋謙造

2025年9月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2025年8月29日から31日にかけて、修験道の修行場として名高い大峯山、山上ヶ岳や前鬼村にて修行をしてきた。
きっかけは、30年来の付き合いである漢方医中田英之医師からのアドバイスである。「謙造さんは、わざわざ大きいものを断らずに背負い込んで、それにすべてひとりでなんとかしてしまおうとするから不調になる。自分を知る機会として、ぜひ修行に参加しないか?体を使うことだ。」と言われ、尊敬する中田医師のアドバイスなら参加してみたいと思ったのである。参加した結果として、驚くほどの気付き、学びがあったので報告したい。

初日:大峯山山上参り
奈良県天川村にある五番関トンネル前に集合したメンバーは総勢21名。22歳の学生から74歳の現役ビジネスマンまで様々であったが、中核メンバーは、大峯修験道の道場である金峯山寺にて得度した在家僧侶、島根の修験道系の寺院の僧侶数名と修験者等であった。他に医師が数名、ほか、何らかの課題を日常に抱えた方々(中田医師のクリニックを受診している患者さん達)が参加していた。修行を開始する際には、個人の属性は全て里に留め置くよう言い渡され、山内では年齢や職業等にかかわらず、相互に「〜さん」と敬称で呼び合うことが最初に伝達された。
なお、ここでいう修験道とは、山岳信仰を基盤に真言密教など仏教の要素を取り入れた日本独自の宗教であり、役行者(えんのぎょうじゃ)が開祖であると伝えられている。

般若心経を唱え山に祈りを捧げてから、金剛杖という杉を素材とした杖を持ち、急峻な山道を登り始める。先達の僧侶の後に付いて登るが、かなり息の切れる道である。先達の僧侶が登りながら、「さーんげ、さーんげ、六根清浄(ろっこんしょうじょう)」と「かけ念仏」を唱え、続く者たちが彼に唱和する。同時に修験者必須の仏具であるほら貝も吹く。ほら貝の吹き方、節の付け方は宗派により異なるのだという。
「さんげ」とは、懺悔のことであるが、仏教では「さんげ」と読み、「ざんげ」というのはキリスト教の読み方だと教わった。六根清浄とは、人間の五感(眼、耳、鼻、舌、身)と心(意)である六つの感覚器官に由来する煩悩や欲望を清らかに浄化することを意味し、今回の修行の最大の意義でもある。

まずは、五番関に到着する。ここから先は、「女人禁制」の場所である。何箇所か休憩を挟みながら、難所も抜けながら山上を目指す。すれ違う人との挨拶は「ようお参り」 よくお参りに来てくれた、という労いと感謝の言葉であろう。なんと美しい言葉か。
歩きはじめて1時間もした頃、肉体的な疲労はあまり感じなかったが、いつ終わるともしれない道のりに、遠すぎるという実感が湧いてきた。そのとき、高校生の頃に入江塾という大阪の名門塾の合宿で知り合った高校生修行僧の言葉を思い出した。
「答えを早急に探したらあかん。ゴールばっかりみるから遠く感じるんや。道のりを、一つ、二つ、三つと数えると息が切れる。仏教ではな、『ひとぉーつ、ひとぉーつ』と数えるんや。一歩一歩やで。」
頭を無にして、『ひとぉーつ、ひとぉーつ』と数えながら歩いてみた。すると、かけ念仏も心地よく心に沁みて来て、ただただ歩くことに気持ちを注ぐことができた。そして、すれ違う時は、「ようお参り」である。

いくつかの関門で止まり、般若心経を唱え、ほら貝の音を聴き、また歩き続ける。
4時間も歩いただろうか。本日の最大の難所。西の覗(にしののぞき)に到達した。崖に突出した岩場から身を乗り出し、祈りを捧げるという日本三大荒業の一つである。肩に縄をかけ、両足を捕まれて身を乗り出す。落ちたらひとたまりもない、恐ろしい体験だった。しかし、私の次に体験された方が、「縄も付いとるし、両足も持ってもらっているから怖いことなんか一つもない。」とニコニコと戻られたのも驚きであった。人を信ずる事が出来るというか、肝の座り方に感服するばかりだった。

また、かけ念仏と歩きに戻ると遥か向こうに宿坊が見えた。かつての自分なら「遠いな、後何分かかるんだ?」と考えたろう。しかし、この時には、「ほー、あそこか。『ひとぉーつ、ひとぉーつ』だな。」という考えのみだった。

やがて宿坊に着き、宿坊の上に位置する国内において、最高所の場所に所在する重要文化財である大峰山寺にお参りするが、閉館時間を過ぎていたため本尊である蔵王大権現は拝観できなかった。しかし、更にお寺の上に、湧出岩という役行者が千日行を行ったと言い伝えられる岩に向かい、その前で般若心経を唱えた。

宿坊に戻ると、一人あたり桶3杯だけのお湯で沐浴する。山頂では水は貴重品であるため、桶3杯だけでもありがたい。

夕食は、香の物、高野豆腐としいたけの煮付け、麩の浮かんだ味噌汁にご飯。なんと美味なことか。感謝していただく。
その後は、お互いに一日で感じたことを共有しあった後、深い睡眠へと入った。
(後編へ続く)

*今回の執筆にあたり、中田医師から加筆、修正をいただきました。ご協力に感謝します。

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